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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
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サイアスの千日物語 百六十日目 その三十

荒野の対異形戦闘における策敵の出来は

平原の対人戦に比して数層倍重要となる。


異形は人より大きく強い。

異形は人より遥かに早く機動し

そして人より重い一撃を加えるのだ。


間合いの詰まった状態から八卦良いで

がっぷり四つに組んだ場合、人の

側には勝ちの目はまずない。


異形の一撃を真っ向喰らってなお平然と

立ちはだかれるのは、屈強な肉体に重厚な

甲冑と盾を備える第一戦隊の戦闘員だけだ。


余の者は常に回避一択。そして回避は

攻撃を見止めてからでは間に合わない。

予測し避けるにせよ出鱈目に踊るにせよ

同時や後出しでは十分な成果が得られない。


かつて北往路の偵察に出向いた第二戦隊の

歴戦の城砦騎士ヴァンクイン率いる哨戒部隊が

ズーらに良いようにしてやられたのも、それが

潜伏を経て近接してからの不意打ちだからだ。


間合いを先に詰められるともぅ、一方的に

やられてしまう。今のラーズやロイエと並ぶ

騎士級の猛者であった当時のディードがズー

2体の奇襲で深手を負ったのもこれが原因だ。


先に一発良いのを貰えばまず敗死。

そういう相手とやり合うために

騎士団の戦術は発展してきた。


戦術を支えるのは情報であり、情報は

策敵で得られるものだ。また荒野は敵地の

只中であるため出くわす相手はまず敵となる。


そこで魔笛作戦でサイアスが採った策の如く

事前に出撃中の全部隊の位置と動向を徹底

把握しそれに漏れるものはいちいち確認なぞ

せずに見付け次第無二三(むにぞう)に打ち払う。


見敵必殺、いやむしろ見的必殺。

それこそが最も効率の良いやり口だ。

大軍に少数で夜襲を掛けるが如き軍法が

最適なのだ。実際に闇夜の宴を筆頭に、

荒野の戦は夜戦が専らでもあった。





要するにベオルクらとしては、

怪しい赤の光に気付いた時点で

さっさと先制攻撃したいのだった。


ただ、かつてかの閃剣のグラドゥスが

いみじくものたもうたように、



『うっかり味方だと後が色々面倒だぜ。

 ごめーんてへぺろ、じゃあ多分

 許しちゃくれねぇ』



との事でもあり、ゆえに現時点では

戦闘態勢だけは調えて見守るしかない。

お陰で数分歯がゆいままに時が過ぎた。


この数分で、赤の光が徐々に増え、

少しずつこちらへと近付く風だった。


精鋭歩兵の歩速は分速20オッピ。

夜間かつ戦地である事を考慮すれば

15オッピ弱に落ちてもいよう。


その辺の事情や光の数、規模、を鑑みて

いずれの点でも人が手に持つ松明の灯り。

そう見て間違いなさそうだ。


もっともかつて奸智公が新兵カペーレの屍に

はねっかえりを詰め込んで、帰投する兵に

混ぜ城砦内へと侵入せしめた例がある。


松明の数から察するに数十は居そうだが、

果たしてその数の程度のよい屍を調達して

偽装しているという線も軽々に捨て難い。


何より誰が率いているというのか。

それが一番の勘所であった。


だがその答えは意外なところから。

後方の車列で非戦闘員たる厩務員らの

警護にあたるデネブからクリンを介して

もたらされた。





「何? サイアスだと……?」


ベオルクら一行の幹部にとっては

思考の虚を衝く答えであった。


何故なら未知なる大形異形との近接戦に及ぶ

その直前にこの地より飛び立って数千オッピ先

の出迎えの兵らの下へと救援に向かったからだ。


サイアスは大湿原を上空を駆けていった。

顕現した百頭伯が置き去りにした無数の腐れ

爛れた屍で汚染された呪われた地である

大湿原は、人も異形もまともに足を踏み入れる

事ができない。


ゆえにサイアスは数千オッピを一息に

飛翔して往かねばならなかった。


サイアスの飛翔は魔術によるものであり、

それを成すには浅からぬ代償が要る。


幸い魔具たる馬具飛天七宝座に込められた

気力と、魔力を有し魔術が使える疑いのある

愛馬シヴァこと名馬シグルドリーヴァの助力に

よって最大戦速を交えた超強行ならばぎりぎり

鞍の分だけでも現地に届く。


現地に着いたその後は迎えに出ている

赤の覇王の近衛部隊を夜襲せんと忍び寄る

恐らくは異形の部隊を単騎で迎撃だ。無事に

勝利したとして、その時点で既に人馬共に

疲労困憊していよう。


仮にかの赤の光の群れを率いているのが

サイアスならば、迎撃後即座に陣を払って

或いは近衛の兵らを率い往路へと。


ベオルクら一行を救援すべく進軍してきた、

とまぁそういう事になるのだが、さて。





「うさ耳と剣、そしてかの髪飾りには

 参謀部の仕込んだ魔術的な繋がりが

 あるのだそうです」


と補足するクリン。



デネブのうさ耳カゥムディーには

中央塔付属参謀部との統合情報共有機構(データリンクシステム)

有している事は、隊内でも広くられていた。


一方、カゥムディーとベリルの愛剣むーちゃん

こと六束の剣、そしてサイアスの纏うルビーの

ティアラとの間に魔術的な連絡がある事は、

サイアス一家と一部の者にしか現状

知られてはいなかった。


デネブのカゥムディーの探査距離が最大で

半径1000オッピとの事で、サイアスは

今現在、当地の一つ東手前な仮設基地付近

を移動中であるとの事。


詳細は杳として知れぬままではあるものの

間違いなくサイアスが北往路へと戻って

きており、かの赤の光の群れはサイアスが

率いる某かの部隊であるとみて良い。


けだしそういう次第であった。

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