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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
1222/1317

サイアスの千日物語 百六十日目 その二十七

第四戦隊の良心を自称するデレクの甲斐なく

かくも決してしまった蟹、らしきものの鍋。


もっとも流石にその場において即座に火を焚き

水を張り押し並べて鍋るという訳にはいかぬ。

それは肉娘らとて承服せねばならなかった。


まずもって蟹、らしきものが余りにも

巨大過ぎるからだ。軍馬数頭分はある

デカブツを適宜捌き得る装備がない。


クリンの主張する通り先に外殻から身を

取り出すにせよ、ガワを断ち割らんがために

いちいち総出で剣聖剣技の雨霰を見舞う訳にも

いかぬ。いかぬのだ。



ちなみに肉娘らの企画としてはこうだった。





まずは通路を確保すべく積んだ基地の残骸へと

多数の篝火を蹴倒し火勢に加勢し大炎上させる。


次に如何でか取り出だしたるこれでもかという

ほどの蟹、らしきものの身を、がっつり目張り

してたっぷりと水を張った、ビフレスト発

トーラナ着な物資輸送の回送車両へとブッ込む。


そこにベリルが研究用にラインシュタットへと

持ち帰る意向だった、目下急速な勢いで小湿原の

水質と土壌を浄化している、世界樹の根に連なる

薬草類を有りっ丈添えまくる。


そうして下拵え、と呼ぶには余りに豪快な

某かを成したそれらを燃え盛る一帯へとくべる。


さすれば車両が燃え尽きたその後には

芯までよく火の通ったアツアツほくほくの蟹、

らしきものの茹であがった身ができあがる。


そういう事であった。



実現可能かどうかはどうでも良い。

そんなのは実に詮無き些細な事だ。


こうした事を至極真顔で当然のように熱弁する。

それが荒野の女かつ肉娘であるという事なのだ。


蓋し肉が絡めば魔に勝る

そんな恐るべき存在だった。





現場最上官たるベオルクその人より蟹、

らしきものの鍋おKの裁可を獲得し、

喜び勇んでその戦術を語る蟹、

らしきものの鍋奉行に就任したクリン。


そしてクリンの語る気宇壮大なる戦術に

適宜相槌を打ち、早くも舌鼓も打ちそうな

共に第一戦隊出身の肉娘5人衆。


これには流石のベオルクも眩暈を覚え

デレクは頭を抱えてぅーぅー唸り出した。


ちなみにクリンを除くサイアス一家や小隊の

面々はというと、どうせ採用されるとは

これっぽっちも思ってなかったらしく、


「ふぅん?

 まぁ聞いてみれば?」


とのロイエの発言が全てを物語る感じだ。


お陰でとりあえず鍋自体の許可が出た現状に

蜂の巣をつついたような騒ぎではあったが

時既に遅し。遅きに失せり。



「ではこういうのはどうだ」



とややあって気を取り直したらしき

ベオルクが修正案を提示するに至り、

ようやく落ち着きを取り戻し始めた。





ベオルクの提示した内容とは以下の通り。


まず、件の大形異形の残滓たる蟹、

らしきものは一旦トーラナへと運ぶ。


次にトーラナで赤の覇王へと蟹、らしきもの

の外殻のみ軍事研究の対象として引き渡す。


その際に解体され余剰として出た蟹、

らしきものの身を、数千人の兵員を擁し

その食を饗するトーラナの超大規模なる

厨房にて、適宜調理して貰う。


その後仕上がった蟹、らしきものの鍋的な

料理を、トーラナよりの迎えの兵を含む

関係者有志一同にて歓待の宴席にて

美酒と共に美味しく頂く。


トーラナに駐留する主力は赤の覇王の私兵。

赤の覇王はフェルモリア大王の妹君であり、

要はフェルモリア料理のための食材素材が

豊富に取り揃えてある。


数百種に及ぶ香辛料とトーラナ近郊の屯田で

日々生産されている蟹、らしきものの肉に

負けぬ膨大な量の生鮮野菜があれば、鍋料理

としてより完成の域に近付くし、何となれば

必殺のカレー味で如何様にも誤魔化せる。


いずれにせよトーラナ主体で処理すれば

膨大な量の蟹、らしきものの肉を余さず活かせ

此度の歓待の兵らの労いにもなり、さらには

平原全土へ向けた城砦騎士団とトーラナ軍、

ひいては西方諸国連合軍の活躍を喧伝する

良い広報ともなる。


ついでにトーラナと提携している騎士団領

ラインシュタットの「銘酒・歌姫」を始めと

する古今東西の美酒美食を共に楽しめ、仮に

蟹、らしきものの鍋が「外れ」であっても

絶望の縁に沈む事なく過ごせる。


あとは覇王の典医団が常駐しているので

ぶっ倒れても何とかなる、等々様々な特典が

盛りだくさんに示された。





軍馬数頭分X2以上な蟹、らしきものの身を

トーラナ兵と共に食す事になる1点について

のみ、膨大な量のアレを自身らで喰らい尽くす

気構えであった肉娘らの表情がやや曇った。


だが代わりにさっ引いて余りある、それも

味の保証された絶品が付いてくるのだと

あっては否やはなかった。


彼女らは蟹、らしきものの鍋を是が非でも、

何としても食べたい、だけではないのだ。

もっと至極単純に、肉が食べたいのだ。


ならばよしとてこぞって絶賛。

とりあえずそういう事になった。

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