表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
122/1317

サイアスの千日物語 三十二日目 その三十二

サイアスたちが第四戦隊営舎の詰め所に入ると、

北往路で共に戦った兵士が早速声をかけてきた。


「よぅサイアスおちかれ。

 今日も大活躍だな…… っとどうした、彼氏か?」


「……はぁ?」


サイアスに女らしさで負けていると自覚のあるロイエは、

早速ご機嫌斜めになった。


「わざとですか。わざとですね……」


サイアスはジト目で兵士を見据えた。


「うぉっ、怖いから! お前のジト目マジ怖いからやめれー」


兵士は笑いながら逃げていった。


奥で書類に目を通していた副長ベオルクが、サイアスたちに

気付いたようだった。サイアスはベオルクの元へと二人を伴い、

敬礼して話しだした。


「副長、ただいま戻りました。そして例の件、

 6名のうち2名が決まりました。ロイエンタールとデネブ。

 どちらも即戦力です。今日からこちらに移って頂いて宜しいでしょうか」


「ほぅ…… 確か先刻の戦闘で一緒だったな。

 なかなか良い者を見つけたじゃないか。歓迎しよう」


ベオルクはロイエとデネブを見据え、頷いた。

ロイエは普段と違ってビシリと姿勢を正していた。

デネブはいつもの通り直立不動だった。


「どちらも一癖ありそうだが、まぁ、問題あるまい。

 うちは曲者の巣窟のようなものだからな」


ベオルクはヒゲを撫でつつそう言った。


「私は曲者ではないと思います」


サイアスはさりげなく自分を棚上げした。


「サイアスよ、それは思い違いというものだ。

 その人が何者であるかといったことは、

 すべからく他者からの評価で決まるものだからな」


ベオルクはニヤリと笑ってそう言った。すると後方から


「さっすが副長、口が上手い!」


「よっ魔性のヒゲ!」


といった野次が飛び、ベオルクは顔をしかめて振り返った。

兵士たちはベオルクの視線をそ知らぬ振りでやり過ごしていた。


「お前たち、たまには湿原で泥遊びでもしてくるか?」


「うげ、勘弁してください!」


「それ洒落にならないから! マジで! まだ臭い取れないし……」


野次にはデレクも混じっていたようだ。

ベオルクは気を取り直してサイアスに向き直り、


「ともあれこの件はお前に一任してある。望むがままに対応してくれ。

 お前の部屋の周囲は全て空いている。適当に振り分けていいぞ」


と告げ、サイアスの手から勲功申請書を引き抜いた。


「そういえば先日の北往路の件な……

 第二戦隊と合わせて39000点の撃破報酬がでたのだが、

 生き残りに重傷者が多くてな…… ローディス閣下とも相談して、

 勲功はその者たちの再生治療にまわそうという話になっているのだが、

 一応お前にも確認をと思ってな。どうだ、お前、それで構わぬか?」


ベオルクの問いにサイアスは即答した。


「勿論です。是非そうしてください」


「うむ。では…… 

 再生治療の申請は一人あたり5000点だ。

 5名分で25000、まずは全体から引かせて貰う。

 お前個人の取り分としては2000点だ。

 今日の分と合わせて処理しておこう」


「了解です。宜しくお願いします」


「後は、剣の試作の件な。工房から一度顔を出せとのことだ。

 重さや厚み、走り具合等、細かいところまで徹底的に調整するそうだ。

 剣聖自らの意匠だからと、鍛冶師連中それはもう張り切っているらしい。


 あと防具に関してはデレクが発注した分が明日届くが、

 それとは別に、今日仕留めた鑷頭の皮革がかなり上物らしくてな、

 防具職人どもがお前への礼に専用の鎧を造るといっていた。

 そちらの採寸も含め、明日辺り行ってみるといい。

 場所はそれぞれ、本城北東区画の一階と地下一階だ」


「判りました。明日の訓練課程が済み次第伺うことにします」


「うむ。 ……さてロイエンタールにデネブよ。

 本来なら歓迎会の一つも開いてやりたいところなのだが、

 生憎少々立て込んでいてな。各員方々へ散っている。私も

 明日から数日間アウクシリウムだ。済まぬが落ち着くまで

 暫し時間を貰いたい」


「全然大丈夫です! お構いなく!」


ロイエはビシリと敬語で応えた。大兜の人物はコクリと頷き、


「デネブは会話が筆談のみとなります」


とサイアスがフォローした。ベオルクは特に拘る様子もなく頷くと、


「デネブよ、要望がある場合にはサイアスを通せ。

 遠慮は要らん。通訳としてコキ使うがいい」


と申し付けた。デネブはコクコクと頷き、

サイアスはわずかに首を傾げ、ベオルクはそれを見て笑っていた。


「サイアス。西域守護城砦3城全体の連絡会が明後日から三日間、

 アウクシリウムで開かれる。今回は騎士団長と私が出向くことになった。

 マナサは丘陵の件で動いている。留守はデレクに任せてある。

 何かあればアレに相談しておいてくれ」


「了解しました。お気を付けて」


「あぁ。出立は早朝だ。お前の手紙も持っていく。

 うまくいけば返事も貰えるだろう。楽しみにしていろ」


そう言い残して、ベオルクはいくらかの書類を抱えて詰め所を出た。

サイアスはやや照れくさそうな顔をしていたが、

ニヤニヤしているロイエを見てすぐいつものすまし顔となり、

二人と部屋へと案内することにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ