表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
1212/1317

サイアスの千日物語 百六十日目 その十七

平原三大国家が一。

南の雄たるフェルモリア大王国では他国と

異なり、国民と王族との距離がかなり近い。


未だ叛乱の絶えぬお国柄だが、それは専ら

地方領主が主導するもので、その下の領民は

王家に対し領主へ以上の親しみを感じていた。


理由は現大王が率先して主催する、国民向け

かつ国家公式な一大娯楽と化している、大王

自身の子らによる玉座争いに在った。


第七王子にして現在継承権5位のシェドは

そんな中、うつけを装い離宮に引き篭もって

我関せずを貫く風だった。


だがそこに至るまでの数々のやらかし振りが

実にこう、いかにも模範的なフェルモリア王家

の呪われた血なるものを顕著に示し過ぎていた。


ゆえに大王としては最も自らの血を色濃く引く

――つまりは継承者に相応しい――と考えて

いる節があった。


そこでシェドが荒野の城砦へと赴いてからは

シェド自身による王位継承権返上をまずもって

握りつぶし、今まで以上に継承権者たるシェド

の成した、その伝説的な数々の行状の広報に

余念が無かった。


そんな訳で大王の宝とも称される鉄騎衆などは

当然ながらシェドについて、その偽名は元より

当人すら実はよく判ってはいないような事――

例えばこれまでの人生で振られた正確な数――

までも、把握していたのだった。





よって自称最低の屑、いや真・最低の屑な

彼ら5名は「シェドに成る」という事の

意味を素晴らしく正しく理解していた。


そこで彼らはまずもって、その身に纏う

なけなしの衣服のうちチュニックを

脱ぎ去った。


下まで脱ぐと荒野の女衆により速やかに

殺処分されてしまうため自重し、上半身裸と

なった後、脱いだチュニックをマント宜しく

肩に引っ掛けた。


さらに彼らは後方の車両へと、実に

ハイテンションで油薬の類を要求。


衛生兵たるベリルは備品のうち現状使い手の

無さそうな、専ら乾燥防止に用いるねっとりと

したブツを、樽ごと虫を見るような目で提供。


5名はこれをしたりと喜び、各々己が上半身

へとべったり塗りたくって、ギットギトの

テッカテカな感じに仕上がった。


これは城砦歴50年代の伝説の英雄。

筋肉の城たるかのガラールも愛用したという

伝説の塗り薬であり、そういえばガラールも

フェルモリア大王国の王家の遠縁ではあった。


もっとも彼ら5名はガラールのような

筋骨隆々たる肉体美を有してはいない。


そのため何やらめいめいポージングに耽る

その姿はまったくもって様になっておらず、

見る者が哀れみで目を背けるような具合だった。


だが、シェドのシェドたる由縁はその

変態的な挙動とポージングにあると観る

彼らの判断は概ね正しいものであり、一行の

誰もがあぁシェドだわ…… と嘆息する程度

にはシェドらしさを再現しつつあったのだった。





仮にこれで生き残ったならば間違いなく

フェルモリア大王国公式の娯楽である

玉座争い(スローンゲーム)において第七王子推しと

なるであろう、そんな風情の鉄騎衆

あらため自称「真・最低の屑」な5名。


その背後には名馬を召し上げたロイエ以下

3名の天罰の地上代行者たる荒野の女衆。


彼女らの携えた得物は大形異形を獲物とする

ようでいて、その実すぐ前方の最低の屑らを

捕捉していた。要は督戦を兼ねている訳だ。


一方先の舌禍を間近で見聞きしつつも

巻き込まれずに済んだ戦巧者なラーズは

グラニート共々布陣からやや大湿原側へ離れ、

独自に挙動する遊撃手の立ち居地で全体を

支援する構えを見せていた。


最後方、くすぶる炎と基地の残滓のその先には

サイアス一家や小隊の残りの面々がおり、

来るべき攻め手の支援のため再度の火矢の

準備に余念がなかった。


また衛生兵たるベリルはアイノら名馬の巫女ら

と共に大形異形が有するかも知れぬ毒への血清

を準備して、即治療へと移れる体勢を確立した。





そんなこんなの悲喜交々(こもごも)で最後の猶予たる

5分間が過ぎ、いよいよ往路の戦闘状況に

しかるべき変化が起こされようとしていた。


相も変わらず悠然と構えるベオルクの東方で

一層悠然と、興味津々といった風情で眺め

立ちはだかる大形異形としても、どうやら

何やら仕掛けてくるらしいと勘付いたようだ。



「存分に触手と戯れる機を得るとは

 存外お主らも中々の果報者よな」



ベオルクは肩越しな視界の隅で

ポージングと準備体操に余念無き

5名らを見やって笑った。



「まんずよぐねぇずらでおじゃりますぞ!」



と鉄騎衆の長が吼えた。


どうやらシェドの独特の口調を真似たい

ようだがうまくはいかぬ模様であり、

ベオルクやデレクの失笑を買った。


一方ロイエら女衆は益々以て

冷え冷えと一瞥いちべつするばかり。


さっさと斬りこめ。さもなくば斬る。

女衆の放つ気配は実に明確に

そう物語っていた。



「そろそろ潮目も満ちたようだ」



とベオルク。


異形に向けた魔剣を振り上げ、

頭上で右に旋回させて



「掛かれッ!!」



と不意に大音声で振り下ろし

大形異形へと突きつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ