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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
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サイアスの千日物語 百六十日目 その十三

「あれを一括りで蟹と呼ぶ事には

 強い違和感を感じざるを得ない」


と嘆息するデレク。


けだしもっともな見解であり、

やや後方ではラーズとクリンが頷いた。



「なら代案を示せ」


「無理でしたすいません」



再び嘆息するデレク。


蓋しもっともな見解であり、

やや後方ではラーズとクリンが頷いた。



いずれにせよベオルクはにこりともせず、



「先のお前の見立てな……

『見かけ上は1』というヤツだが。


 案外その通り(・・・・・)なのかも知れん」



と告げた。



「ふむ?」



と目を細めるデレクそしてラーズ。


確かによくよく見入ってみると

何やらそんな気もしてくる。


確かにこの大形異形のその容貌、

その雑多な器官の入り混じり様には

どこか不自然さを感じざるを得なかった。


一言で言えば必然性に乏しいと言うか。

まるで相手に恐怖や嫌悪といった負の感情を

抱かせる事そのものが目的であるかのような

組み合わせであり容貌だった。





とまれ見入れば見入るほどおぞましさに

不快感がいや増して、分析どころでも

なくなってくる。また不快感の理由は

実のところ他にもあった。



「ってか酷ぇ臭いだぜ。

 こいつぁ大湿原産ですかね……」



と声まで苦虫なラーズ。


炎で大気が温まったせいだろうか。

10オッピは優に距離があるというのに

ときおりふわりと悪臭が絡み付きくらりと

意識が飛びそうになるのを懸命に堪えていた。



「ふむ、すると

『百頭伯』の落とし仔の類か?

 ……まったくロクな事をせん魔だな」



とベオルク。



大湿原が汚辱と不浄に満ちたのは黒の月、宴の

折に無数の屍を依代として顕現した百頭伯爵が

繰り返し同地に入り浸った結果だと。


腐乱した屍を残して昇華した、その

繰り返しに因るものだと見做されていた。


残された膨大な魔力と腐乱した屍は多くの

異形の苗床となり、羽牙たるズーをはじめ

異形らを同地に誕生せしめている。


今眼前に在る異形もまた、ズーや縦長同様

百頭伯の抜け殻たる屍より生まれたもので

ある、そういう可能性をベオルクは指摘した。



「しかし御大将、百頭伯ってのぁ

 こないだの宴に顕現したのでは?


 魔には休眠期ってのが

 在るって聞きましたが……」



これもまたもっともな見解であった。


魔に関する情報はその途方も無い内容から

兵団兵士長以上の階級のものに対して

限定的に開示されていた。


第四戦隊員は揃って兵団兵士長以上の階級に

あるため、魔に関する基本的な情報はある程度

出回っている。


もっとも最先端の知見については参謀部

もしくは幹部クラスでないと得られなかった。


とまれ従来型の魔について知られている

一般的な情報としてはこうだ。


一度ひとたび現世に顕現し暴威を成して後

昇華した魔は、短からぬ休眠期に入る。


ゆえに魔の顕現には独立別個の周期があり、

先の宴で顕現した百頭伯ならばこれまでは

概ね30年弱の周期で顕現している。


よって向こう30年弱は再び出くわす事も

無かろう、と概ねそういう事であった。





「そうだな。従来なら

 それで正しかった。だが」


とベオルク。


その後をデレクが引き継いだ。



「『神は時を待たず』かー……

 噂の人面納豆閣下については

 こっちが篭城対応したから宴では無傷。

 ゆえに二連荘もワンチャン、みたいな?」



この辺りの情報は未だ機密扱いであり、兵団に

までは降りてきていない。もっともこの情報を

入手したのはサイアスその人であり、その折

ラーズは現場に居た。そのため意味は不明も

言葉だけは既に聞き知っていた。



「あらゆる可能性を排除せずおくべきだろう。

 こやつはどこか、あの『燦雷侯さんらいこうクヴァシル』

 にも似ているようだしな……」



とベオルク。


騎士会三役であり戦隊副長でもあるベオルクは

さらに多くの情報源を有しているようで、誰

よりも一層に思案気ではあった。



「どうやら先手は譲ってくれそうだが

 攻め手に何か案はあるかね?」



未だ「待ち」を続ける大形異形だが、

気の変わらぬうちにこちらの打つ手を

練らねばならぬ。ベオルクはそう促した。


これに対してラーズ曰く。



「『大口手足増し増し』ってのを

 殺った時のうちの大将の台詞ですが。 


『如何に手足が多くとも、それを操る

 頭は一つだ。3正面からの波状攻撃を

 何度も凌げるものではない』との事で。


 あいつぁ確かに盛りだくさんですが

 一度に全部を使い切れる訳でもないかと。

 

 なのでここはパーツ毎に担当を決めて

 各個に掛かって潰す手でどうですか」



と、かつての退路の死守戦にて、サイアスが

配下らを鼓舞した際の一節を引用してみせた。


ベオルクは目を細め髯を一撫でした。



「悪くはない。ただし

 こちらの攻め手は支援射撃込みで5つだ。

 一方アレが攻めに使える部位はそれ以上在る。


 ゆえに正面で敵の注意を引き付け

 攻撃を不活性化させる囮は要るだろう。


 ワシがそれを引き受けよう。

 無論隙あらばそのまま斬り込む。

 縦斬りのみで攻めるゆえ、魔剣の

 巻き添えは心配するな。


 お主らはそれぞれ何れかの部位を

 選び、そこを狙ってみるが良い」

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