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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
1206/1317

サイアスの千日物語 百六十日目 その十一

城砦歴107年初夏の頃より顕著となった

魔軍の暗躍。当初城砦騎士団はこれを黒の月

遠からずたる兆しだと見立て、実際に黒の月

が夏に訪れ宴となった。


ただその一方で初夏の頃よりの魔軍の暗躍振り

が従来は素通りさせる事が大抵であった、魔軍

にとっての餌箱である荒野の城砦への輸送部隊

を襲うものであったりと、従来の魔軍の動き

とは一線を画する向きがあった。


さらには黒の月の最中での動き。すなわち

中央城砦に間者を入れ己が意図を示唆したり、

中央城砦より南西の丘陵に魔軍の軍事拠点を

築き新たなる軍事境界線を引いてみたり。


やる事成す事の悉くがこれまでにない程

人間臭い、そんな暗躍が黒の月、宴の折の

最中にも事後にも変わらず続けられた。


騎士団側のこれまでの見解では、魔とは

宴の前に暗躍し宴で顕現し暴威を成して

昇華し休眠。そういうメカニズムを持つと

見做されていた。


だが宴での顕現を望まず宴を終えても暗躍を

続けるこの魔が居る、それが確定的となり、

これを奸智公爵と呼びその暗躍の仕手を

奸魔軍と呼び始めたわけだ。


だが、しかし。



そもそも奸智公爵とは1柱きりの存在なのか。

つまる所暗躍の謀主は複数居たのではないか。



要はこれまでの暗躍は、同様に思惟し決意し

行動する複数の魔による共謀共同正犯であった

可能性も否定できないのではないか。


奸智公があまりに目立つため全てその仕業と

決め付けてしまっていただけで、実際の犯人

は複数いたのではないか。


斯様な事を騎士団幹部は考慮に入れ始めていた。





切欠は宴の折、奸智公が同じく魔である

百頭伯の謀略を妨害する意図を見せた事だ。


元来魔にとり宴は祭りであり人魔の大戦、

人と異形との存亡を懸けた戦いが余興の類

であったとしても。


奸智公は明確に――とは言え飽くまで魔的な

自分のルールで――百頭伯を妨害するという

利敵行為を成した。


これにより魔なる存在が他の魔に対し

必ずしも味方であるとは見做していない事。


人が魔と呼ぶ存在は一つとして同じならず、

似た在り様を有してはいても千差万別の意思

を以て宴に望んでいるのだという事等を、

騎士団幹部らは再認識する事となったのだ。


従来の宴で顕現した魔の挙動とは、例えば

貪瓏男爵が燦雷侯と組んで外郭防壁を破壊し

内郭へと侵入せしめたように、どちらかと

言えば宴という祭事に対し共に盛り上げるべし

といった協力性を見せる事が多かった。


弱った魔を片端から喰らい取り込む百頭伯や

そもそも宴に興味なしな奸智公は、従来型の

魔からすると余りに突飛で個性的であった。


そう、魔の個性というものを騎士団はこれまで

以上に重要視するようになっていたのだった。





また、此度の宴において騎士団は、宴の最中、

魔にとり最盛期であるその最中にこれを弑する

という史上初の快挙を成し、ただ一度の宴にて

2柱の魔を討ち取るという前代未聞の大戦果を

も挙げていた。


この事により未だ存命なる魔らが危機感を覚え

従来のシステムに変化をつけるべきと考えた

可能性はないだろうか。騎士団幹部らはそうも

考えていた。


要はこれまでの手では通じなくなり、味方たる

魔の数も減っていよいよ身の危険を感じ始めた

魔が、新たな手法を模索し始め、手始めに

奸智公爵のやり口を真似てみる事にした。


そういう可能性もあるのではないか。

そういう事であった。



とまれ騎士団は奸智公爵や奸魔軍を、唯一無二、

他に類例の無い存在だと見做すべきではなく、

他にも同様の魔なり魔軍が在って然るべき、

とそう考えるようになっていたのだ。


そして確かに此度のサイアス一行への帰路妨害

は、そうした見解の良い証左と成ってもいた。





とまれ騎士団幹部、そして帰境の一行は、

奸智公以外の魔とその軍勢の襲撃の可能性を

排除してはいなかった。


その上で彼らは、奸智公以外の魔が襲撃を

成すのだとして、その目的は何であるだろうか。

そこを分析してもいた。


奸智公なら狙いはまず以てサイアスだが

少なくとも従来の他の魔にはそうでもない。


多くの魔にとり人の存在とは砂漠の砂ほども

価値なく有り触れたただの餌に過ぎず、その

個体差なぞをいちいち目に留め量らないものだ。


彼らが重視するのは常に数。どれだけ多く

一息に、魂を踊り食いできるか。これだ。


そう考えた場合。


異形に襲撃させ恐怖と苦痛、絶望に満ちた

活きの良い魂の上納を狙う魔にとって

魔軍に抗う術持つサイアス一行20程と

未だ荒野を知らぬいたいけな近衛隊100。

どちらがより食い得に見えるだろうか。


つまりはそういう事だった。





奸智公「以外」の魔が率いる魔軍による

襲撃の可能性を事前に排除していなかった

サイアスら帰境の一行。


彼らは実際に、未知の大形異形による

待ち伏せを受けるという事態に至った。


大形異形と対峙した一行の幹部。

すなわち四戦隊副長たる城砦騎士長

ベオルクと2名の絶対強者たる城砦騎士。


彼らは周囲が呆れるようなのんべんだらり

とした駄弁りの背後で、必死に思索した。

敵の戦略的な狙いがどこにあるのかを。


眼前の戦況のみに囚われず、今この時

荒野に在り得る戦局を総合的に判断した。


そして、不明なる魔軍のその意図が

一行を出迎えるべく暗中待機する近衛隊

100名にあるのだと看破するに至ったのだ。


3名は与太話にしか見えぬその背後で

各々唯一解へと辿りつき、そして挙動した。


それがベオルクの一声であり、

サイアスの応えであった。



ゆえに宵の明星の如き人馬一体、

天馬騎士たるサイアスとシヴァは

荒野の夜空を全身全霊で疾駆していた。


大湿原を袈裟斬るが如くに南東へ、

地平を染める数千オッピの闇の先へ。


大いなる人の世の守護者として

闇の軍勢に呑まれつつある

味方を護り、救うために。

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