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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
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サイアスの千日物語 百六十日目 その四

支城にて、当初の予定を多分に超えて

ゆるりと過ごした一行が同地を発ったのは

午後二時の事。第三時間区分中盤の事だった。


中央城砦を発った時点では騎馬5車両3。

だが支城を発った時点では倍になっていた。


これはトーラナから支城までの旅程で以て

小湿原を囲う長城のための建材を運ぶ、

物資輸送部隊の車列のうち、当日来着した

第一便が満載の積荷を全て引き払って

言わば回送に入るためだ。


荒野の只中たる中央城砦からは言うに及ばず、

平原の外れたるトーラナからの輸送移送でも

雨天時は順延する。


なのにビフレストへの第一便が既に到着済み。

さらには積荷を降ろしきって回送する状態

であるという事実は、何を示すのか。


それはつまり。


トーラナ側では晴れていたという事。


深夜よりしとしとと降り続いた雨は中央城砦

及び北方領域近郊でのみの、極めて局地的な

ものだったという事だ。





一行はこの事実に改めて明らかな恣意性を感じ

奸智公爵と呼ぶ魔に対する認識を改めざるを

得なかった。


つまりこの魔はどこまでも、

人間臭いという事だった。


少なくとも人の心が抱く機微というものを

十二分に熟知しているのは確かであった。


つまりはサイアスの帰境を純粋に。

心より見送っているのだと見做し得た。

奸魔軍による襲撃は無さそうだという事だ。


もっとも元来魔軍は黒の月、宴の折に

織り成されるものである。平素の荒野に

跋扈するのは確固たる各個の異形らなのだ。


それら「野良」なる連中が奸智公の感傷に

付き合う義理があるとは到底見做せず、

北往路を渡るにあたりゆめ油断すべからず

とは一行と支城幹部の共有する認識であった。





とまれ当初の二倍の規模となった

トーラナ行きの一行はビフレストを発った。


倍加となった回送組とは、言わば北往路の

プロフェッショナルであるため、行軍に

いささかも遅れを招くような存在ではなかった。


それゆえ一行は――既にして多分に遅ればせ

ではあるのだが――当初の予定通りの進捗を

以て北往路の通過を開始する事と相成った。



平原と荒野の隣接域の中央に鎮座して

大きく大地を隔てる大湿原。その東西幅は

概ね1万オッピ。南北幅は5千オッピである。


つまり北往路の通過とは1万オッピの走破

であると見立てて何ら異なるところがない。


これを一行は以下の如くに制する予定だ。



並足10分速歩10分、さらに

並足10分で1セット。つまりは

30分で1000オッピ進み小休止。


これを10度繰り返す。よって

移動に300分、小休止に100分弱。

都合400分弱、6時間半強の目処だった。



此度の行軍に参加している騎馬としては

最も技能の低いもので3半ば。名馬以外の

軍馬も全て生え抜きであった。


また車両については全てゴム製の「靴」と

板バネや油圧を駆使した衝撃吸収機構を

搭載している。馬本来の有する移動速度を

存分に発揮できる状態といえた。


馬術技能9を誇るヴァディスを筆頭とした

最精鋭たる先のブーク一行には及ばぬものの、

1時間区分つまり6時間にやや足が出る程度だ。

十二分な速度と言えた。


もっとも旅程に戦闘に要する時間は含まれて

いないし、現在時刻が午後の2時。そして

当日の日の入りは概ね午後5時30分。



つまりは北往路通過中に日は沈む。

荒野に巣食う異形らの闊歩し跋扈する

「逢魔が刻」。それが確実に訪れるのだ。





昼日中、南中した太陽の注ぐ力ない陽光は

此度の道中の全てを照らし護る事などない。


100年来往来され踏み固められた

比較的安全と見做されている道中。


だがそれは昼に限った話でもある。

夜間に同地を駆けた例はほぼ皆無だ。


もっとも完全に絶無というわけではなかった。

とびきりの逸話が一つある。それは城砦歴

40年代の黒の月、宴の折の事。


つまり現行文明の有する歴史上において

3度目の顕現を果たした「紅蓮の大公」。


かの大魔ベルゼビュートの放った業火の嵐に

より中央城砦が陥落した際に、闇夜の中を

単騎平原まで急報に駆けた、無名の英雄の

物語であった。



支城北城郭の正門を下り北往路へと

足を踏み入れた一行。その後方、城壁上。


そこにはシベリウスの副官であり北東大隊の

実働部隊を束ねる若手城砦騎士ヘルムートが

見送りに現れていた。


ヘルムートは両脇に整列し一行へと敬礼する

配下らを尻目に後方へと指示を飛ばし、後に

一行へと向き直った。


向き直るヘルムートの後方、北城郭の中ほど

から、巨大な影が伸び上がり、轟音と豪速に

彩られ上空へ。燃え盛る巨大な岩塊が一行を

越え往路を過ぎり、数百オッピ西方へ。


北方河川へと着弾し盛大に爆散。

撒き散らした可燃物で川面を火の海とした。


河川の眷属は極端に火を忌避する。

魚人も鑷頭も大ヒルも、燃え盛る

川面に顔を出す事はない。


着弾の衝撃で敵を竦ませ、

燃え盛る炎で敵を追い払う。


退魔の楔作戦における大魔の大軍の進軍以降、

北往路を渡る部隊が上策として常套してきた

「川焼き」。これはビフレスト流のそれだった。



城壁上ではヘルムートも兵らの敬礼に加わり、

一行の出立を見送っていた。帰境の騎馬と

車両の御者たちはそうした様を頼もしく眺め

頷き或いは手を振って、こうして一行は東へと。

一路トーラナへと進発したのだった。

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