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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
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サイアスの千日物語 百六十日目 その三

中央城砦外郭北門より出立したサイアスら

遅ればせの帰境に入る一行は、北の空に架かる

虹のたもとを目指すが如く、北北東へと進路を取った。


右方にせり出した二の丸の防壁をかすめて

一直線に進むその編成は騎馬5に車両3。

5騎が適宜馬車を警護し進む格好だ。


騎馬のうち3名が絶対強者たる城砦騎士。

残る2騎も騎士級の手練と、この5騎のみで

一個大隊級の戦力を有している。道行きには

微塵の不安も無かった。


先頭を往くのは四戦隊の所有する斥候用の

軍馬のうち、花崗岩グラナイトに似た毛並みを持つ

グラニートを駆るラーズだ。


元より秀でた視野と視力が魔力で相乗されている

うえ得物は弓と、理想的な先導であるラーズは

目下鋭意馬術修行中だ。今回の行軍は彼の技量

が一流から超一流へと昇華するのに良い足しと

なる事だろう。


四戦隊の有する斥候場のうち、借り受けた

のはもう一頭。黒の毛並みに金の筋が走る

雲母ミカーレに似た毛並みのミカであり、

これをロイエとクリンが交代で駆る。


今はクリンが騎乗しており、小休止の際に

ロイエに代わる。二人の馬術技能は共に

3の半ばとなっていた。


3半ばは玄人級であり、悪路の走破に不足は

ないものの、こと戦闘となると騎乗により

得られる補正は未だ小さく、手練の場合

徒歩で得意の武器を振るうのに劣る。


また数値としてけして低い値ではないものの

残る4名が傑出して高いため、結果として

大きく水をあけられてもいた。


そのためミカは、平時は馬車の追走に専念。

戦闘発生時は馬車の警護に専念する事と

なっていた。





車両3台にはサイアス一家の残りの面々と

小隊中の肉娘たち。そして名馬3頭専属の

厩務員が分乗。各車に4名、残りは積荷。

それぞれの御者は肉娘らが担っていた。


いずれの車両の車輪にも、騎士団内では既に

量産化されているゴムの靴が履かされており、

御者の実力を一段高い水準へと引き上げていた。


ほどなくして一行は歌陵楼へと至った。

城砦二の丸より歌陵楼までは500オッピ。

歌陵楼からビフレストまでも500オッピだ。


今もかつても輸送部隊の中継拠点として

とりわけ重要な役どころを担う歌陵楼だが、

サイアス大隊が建てたのはそのうち中央の

特徴的な楼閣のみだ。


だがこの頃になると楼閣の周囲は随分と整備

され、付近には舗装路や街灯も追加されていた。


また、北方領域が騎士団領と成ってからは

小湿原をぐるりと囲む防壁の建設に用いる

資材の一時保管所としても機能し出しており、

総じてこの地に詰めるガーウェイン中隊は

多忙を極めていた。


サイアスら一行としてはこの歌陵楼で最初の

小休止を取り、長躯の一歩目で得た足回りの

感触を確かめ適宜微調整。また方々との通信

を確立したりした。


中央城砦からビフレストまではデネブの

うさ耳「カゥムディー」の走査圏内であり、

現状一行は本城中央塔やビフレストからの

管制を受けて進んでいた。


本城からの通信によれば、到着時刻を逆算し

トーラナから迎えの兵が出動するとの事。


またビフレストによれば、北方河川に雨天の

影響は見られず、河川の眷属の動きにも

特筆すべきものはないとの事。


もっとも行軍支援のために「火竜」の

投射準備を適宜進行中であるとも。





帰境の一行が中央城砦を発ったのは

第二時間区分の終盤な午前11時の事。


歌陵楼到着は午前11時20分。

500オッピに20分掛けていた。

ここまでは馴らしのための並足だ。


軍馬のみで行軍する場合、普通は並足と速歩を

織り交ぜて進む。城砦騎士団における歩兵の

通常行軍速度は分速20オッピであり、馬の

並足はそれより2割は速い。


そして馬の速歩は並足の倍以上。人から見れば

3倍弱となる。歌陵楼で10分間小休止した

一行は、ビフレストまで余裕ある速歩を用いた。


ビフレスト到着は11時40分。

概ね理想値であり、調整の確かさがうかがえた。



北方支城ビフレストの南城郭に到着した

サイアスら一行は、支城の名の由来でもある

「ぐらつく橋」。すなわち泥炭の海を渡す

機械式の橋で北城郭へと移動した。


シェドを除くサイアス小隊の面々はこの大橋を

利用するのが初めてであった。またベオルクや

デレクにとっても、普段北城郭に用がある場合は

騎馬でぐるりと小湿原を回り込むためやはり初だ。


中央城砦の随所で見られる「動く歩道」の原型プロトタイプ

であるこの大掛かりな絡繰からくりと、初動の際の派手

な音と揺れに楽しげに騒ぎつつ一行は北へ。


半ば観光客気分な一行はこうしてビフレストの

本城たる北城郭に入り、城主シベリウスらの

歓待を受け、昼食休憩に入る事となった。


昼食とは件のヴァルハラ飯であり、かつ

ビフレスト名物たる「ダゴン汁」が付いていた。

一行はその圧倒的な物量に戦きつつも存分に

堪能し、堪能し過ぎてしばし動けず。


よって昼食休憩は延長され、ビフレストよりの

進発は第三時間区分初旬終盤、午後2時に、と

いう事に相成った。





城砦騎士団における特別休暇は通例10日。

これを平原のアウクシリウムで取るために

往復の移動で三日費やし、実質は7日間の

休息という事になっていた。


ただ、移動に費やす三日も特別休暇のうち

である事には相違なく、大小の湿原の狭間に

このビフレストが建設されて以降はそうした

帰境者への心配りの一環として、半ば街道沿い

の茶屋の如き寛ぎ空間を提供してもいた。


問題は提供側がこぞっていかつい筋肉ダルマで

あるために来客が中々に寛ぎを満喫し難い点だ。

が、此度は客が歌姫だったりしたために

むしろ寛ぎを提供される側と相成った。


ビフレスト詰めの兵士らの多くは先の戦勝式典

に参加しておらず、演奏会も噂でしか知らぬ。

ならばとサイアスはラーズやデレクを伴って

先の演目を小規模ながら再現し、大いに支城の

兵らの喝采を浴びた。


城主であり北東大隊の長である騎士会筆頭騎士

たる城砦騎士。鉄人シブことシベリウスは

そうしたサイアスらの粋な計らいを大いに喜び

つつも、本来もてなす側がかくももてなされた

事に対し大いに恐縮してもいた。


そこで支城を経由した土産として、自身が

著した槍術と盾術の教本をサイアス一家へと

寄贈することとした。


これには両技能の奥義が記されており、

デネブを筆頭にサイアスやクリンらの

戦闘技能向上に大いに資するところとなった。

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