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サイアスの千日物語  作者: Iz
第七楽章 叙勲式典
1193/1317

サイアスの千日物語 百五十九日目 その五

手に入れたばかりの「魔法の地図」を

取り立てた取り扱いの説明をも受けずに、

さも当然の如く図示してみせるサイアス。


魔術の本質とは魔の御業の模倣。

正にその言葉通りの仕業であり、かつ

未知なはずの操作を一つ加えている。


これはサイアスの魔への親和性、すなわち

魔力が高い事や、サイアスの魔術技能で

扱える程にこの術式が整備され終えている

事を示していた。


そして今地図に図示されている矢印は

サイアスの軍才をも如実に証立てていた。



「……悪いやっちゃなー。

 四戦隊には悪党しかおらんのか」



口元から手を下方へ滑らせる仕草で

ニタニタとそう言う参謀長セラエノ。


仕草が示すのはとある御仁お馴染みの

いわゆる「勿体振りヒゲ」であった。


サイアスは小さく柳眉をひそめ、

直ぐにその動作を一層の精度で真似た。

それだけ「似ている」事を暗に示唆しつつ


「シェド同様、まずは鏡など

 ご覧になられるがよい」


と口調すら真似てのたまい、


「ぉぃ! あんなんと同類項にすんな!」


とちゅんちゅく激しく突っ込まれた。





セラエノは水ばかりか風の症例も深い。

常に脳裏に無数の思惟想念が同時多発に

飛び交う多重多層、重度の分裂気質なのだ。


本来なら容易く狂い得るその支離滅裂さを

人類最高の図抜けた知力でくまなく追い掛け

完全に統御し尽くしているセラエノ。


彼女としては一個の事象を懇切丁寧に追う

よりも、脳裏に吹き荒れる思念の如くに

次々と話題が切り変わる方が「楽」であった。


そしてそれを理解しているサイアスは



「量より質ですか」



と唐突に話題を換え、



「必然だな!」


「『立場』次第と」


「自然にな!」


「御意に」



とポンポン話題を切り替えて、

傍で聞く者あらば混乱必至な勢いで

ポンポコと話を進めていった。





中央城砦の歴史そのものである参謀長。

城砦軍師長セラエノにはその特異極まる

素性と素行から補佐官の存在が必須と言えた。


そこで休眠期にはその素性を適宜見守り

そして覚醒期にはその素行を適宜見張る

専任の補佐官が付けられていた。


参謀部三役の一人であり序列としては

二位となるその参謀長補佐官を務めるのは、

城砦歴100年代では軍師アトリアであった。


だが本来常に傍らにあってセラエノの耳目

たるべき役目を担うそのアトリアは、此処

セラエノの庵の何処を探しても居なかった。


理由としては二つある。


一つは必要以上の機密を嫌う事。


機密を機密として保つべく「口封じ」される

のを避けるべく粛々と。代々隠密として生き

永らえてきた忍びの一族伝統の処世術であり、

知らぬ存ぜぬを貫き通すべくこうした席では

率先して場を離れるのだった。


もっとも此度に限っては今一つ理由があった。

今アトリアは絶体絶命、的な窮地にあるのだ。

お陰でぶっちゃけセラエノどころでは無かった。



「よぉし、これで居間は制圧ね!

 次は書斎を掃討する! 進めぇ!」


「」



とまぁ絶賛こんな感じであった。





中央塔付属参謀部施設内居住区の一画、

城砦騎士向けの邸宅と同規模となる

参謀長補佐官アトリア邸。


そこでは掃除洗濯家事親父の悉くを制圧し

地上より遍く不浄を抹殺せんとする主婦な

特務部隊により、家主の意向や威光を全無視

した徹底的な殲滅戦が繰り広げられていた。


どこまでも、冷酷なまでに謹厳に軍務を果たす

忍者軍師アトリアは、軍務以外への頓着が実に

希薄だった。彼女の口癖で「有り体に言えば」

主と同様、掃除というものをしない人間なのだ。


当人の尊厳もへったくれもなく

端的に言えば部屋が汚いのであった。


かつて。寂しんぼな参謀長セラエノの呼び出し

により、サイアスがセラエノの庵へとお茶しに

訪れるという軍務を拝命した際。


百年間一度も補佐官以外を入れた事がないという

セラエノの庵の現況に対し多大なる懸念が持たれ、

サイアス一家の誇る主婦部隊が現地に出征して

地上より不浄を一層する破邪顕正はじゃけんしょう殲滅戦せんめつせん

展開された事があった。


その際。これまで主の汚部屋、を通り越し

最早荒野そのものな秘境であったその部屋に

何度も出入りしていながら、特段の異常を

感じてはいなかったらしき補佐官アトリアの

邸宅の現況についても多大なる懸念が浮上した。


そこで機あらばそちらにも遠征し、徹底した

破壊と殺戮の嵐――汚れにしてみれば何ら

特段の誇張表現ではない――を吹き荒さんと

征汚大将軍たるロイエ以下こぞって決意して

いたものだが、その千載一遇の機が遂に

巡ってきたというわけだ。


お陰でアトリアは獅子奮迅、八面六臂(ろっぴ)

大活躍を成すロイエはじめサイアス一家の

女衆のその権勢に怯え、これまでの人生で

見せた事がないレベルで動揺し狼狽して

あたふたおろおろ。


傍らで趨勢を高みの見物なヴァディスや

マナサにニヤニヤされ通しであったのだった。

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