サイアスの千日物語 百五十七日目
第四戦隊副長代行たるヴァディスに対する
歓迎会は、案の定大変に盛況なものとなった。
当日第四戦隊へと出向してきたのは実は
ヴァディス以外にも複数名おり、そちらの
歓迎も兼ねて一から三戦隊、さらに参謀部を
巻き込んでのどんでちゃんな騒ぎが入れ替わり
立ち代り、都合2時間区分に渡り催されたのだ。
この大騒ぎで最も疲弊を蒙ったのは、全ての
酒宴において歌唱と演奏と接待を担当せしめ
られた歌姫サイアスその人だ。
先の演奏会での楽隊の活躍に触発されたか、
或いは歌姫のプライドをこじらせたのか
そこは定かではないものの、兎に角獅子奮迅、
否猫奮迅の大活躍であり、今はその反動で
すっかりスヤスヤとご就寝中であった。
一方へたばったままであろうと懸念されていた
ランドとシェドは大方の予想に反し早々に復帰。
翌日昼にはケロっと平常任務に戻っていた。
理由として、ランドに関しては下戸である事が
幸いした。歓迎会への参加意欲は高いものの
最初の一杯で酔って引っくり返りそのまま
寝入るため酒がむしろ普通に百薬の長に。
起きた頃には回復が進み、また次の連中への
歓迎会で乾杯し直後安らかに。以下繰り返し
回復に必要な滋養と休養をしっかりとって
実に綺麗に回復したようだった。
一方のシェドはと言えばこれまた大層アレな
事情であった。ランドの様子を見舞うべく
ちょくちょくとステラが顔を出すために。
シェドの心中にはリア充への須らき爆散を
請い願う熱い想いが満ち溢れ、激しく自棄酒を
カッ喰らう構えとなったのであった。
そして幾ら激しく呑もうとも、ひょっとこ面の
水のイヤリングを遥かに凌駕する浄化作用に
よって酔う事がなかった。
またそうした自虐振りが呑み会参加者の大多数を
占める自称イケメンズを始めとする男衆に大受け。
結果それはそれで気分がよくなってそのまま回復。
さらにその活躍振りから自称イケメンズの
名誉会員にも昇進し相応にご機嫌となった。
とまれかくまれサイアス小隊名物三人衆の残る
二人はかくも回復し、代わりに小隊長がお休み
と相成った。だがこれは、この小隊にとり常態。
極めて正常な状態なのだ。よって引継ぎ等に
関しては代長ディードや副官ロイエにより
滞りなく進められていった。
まず、先日のヴァディスの着任と共に四戦隊
へと出向して来た余の者は16名。これは
サイアス小隊の大部分が帰境するのに合わせた
戦力充当だ。
内訳として、まずは第一戦隊北東大隊より
元精兵が6名。これはマッシモに1個小隊を
付けたのと同様に、大隊戦闘員へと実戦経験を
積ませる事を目的としたものだ。
よって6名とは派遣枠であり中身は定期的に
入れ替わり立ち代る方針であった。
残るは第二戦隊からだった。
剣聖ローディスの直弟子集団たる抜刀隊より
5番隊組長シモン以下10名。いずれも階級は
城砦兵士長であり、このうちシモンは現時点で
戦力指数が8強。有力な城砦騎士候補であった。
これらに加え、先の作戦群において大隊指揮官
を務めたサイアスが兼ねてより眼を付けていた
10数名が合流し正式に第四戦隊へ加入。
これにてマナサ率いる第四戦隊特務中隊は
総勢45名に。そしてそこからサイアス小隊中
13名が帰境し、当座は32名での運営となる。
サイアス不在の特務中隊では、シモンが
サイアスの代わりに副長を担う運びとなった。
さらにロイエはサイアスの名で第三戦隊長
ブークに宛てた要請をおこない、ブークは
三戦隊総務部より辣腕の管理官を1名派遣。
非戦闘員扱いながら特務中隊に不可欠の人員
として、早速部隊運営の支援を開始していた。
此度のサイアスらの帰境にはベオルクやデレク
も同行する。ベオルクの供回りは城砦に残る
ため、ヴァディスはそちらを引き継ぐ格好だ。
騎兵隊はまずもって馬術の達者である事が
構成員の条件であるため換えが効き難く、
特務中隊のように他隊からの一時的な補充が
がほぼ不可能であった。
また隊内には他より頭一つ抜けた副長格が3名
おり、うち1名は先の作戦で負傷し加療中だ。
よって残る2名、最古参の一人であるレガシィ
と新参ながら小隊を任されていたシルヴィアが
当座の中隊副長格となった。
インプレッサは10日もすれば完調となるとの
話であるため、それ以降は副長3名がそれぞれ
小隊長を兼務し中隊内に4騎1班を3つな
12名での1個小隊を3つ。
この3小隊36名を騎兵隊長ヴァディスと
ヴァディスが別途どこからともなく攫ってきた
――何とも恐ろしい事に原隊の記録がない――
女性騎兵2名、さらにヴァディスの愛馬たる
名馬ゲイレルルの巫女を加えた1名で統率し
総勢40名。これで新生騎兵隊は初動した。
先の帰境作戦の頃より進められた内郭北西区画
の再整備の際、第四戦隊には今後の人員増に
向けて2棟目の営舎が増築されていた。
こちらの営舎には補充兵から直接デレクが抜擢し
馬術と騎射のみを徹底的に教導した新参の
騎兵らと、外郭北城門脇から移転してきた
北厩舎の厩務員及び施設運営のための非戦闘員。
つまり騎兵中隊の関係者らが入居していた。
旧来の営舎と新営舎は詰め所で連結されて
いるため行き来は自由であり、総員が入れる
規模の大規模な食堂や大浴場は旧営舎側にしか
なかったが、新築なので気分転換にと引っ越す
古参も少なからず。
自然旧来の営舎では特務中隊と特務中隊への
出向者が専らとなりゆく傾向があり、騎兵中隊
の長たるデレクもまた、ラインシュタットでの
休暇後は新営舎側の城砦騎士用邸宅へと越す
意向で、既に家財等の移動を開始していた。
ヴァディスはこれを嬉々として賞賛。
さらに自身の借り受けた邸宅の改装に
来ていたステラに追加の案件を発注した。
ステラとしては心得たもので、
実に密やかにさりげなく、そして着実に
計画を立案。資材部内にて推し進めた。
ヴァディスが依頼しステラが推し進める
計画とは概ね諸方の想像の通り。すなわち
マナサ邸から始まる騎士用の邸宅4軒を全て
ブチ抜いてサイアス邸まで連結する事だ。
旧営舎の指揮官用居宅群の8割方をマナサと
マナサの身内となるサイアス一家らのための、
さながらラインシュタット辺境伯公館へと
作り変える事であった。
そして四戦隊副長ベオルクはというと、自身に
何の不都合もない上むしろ好都合な風もあると
してこれを黙認、するどころかヴァディスの
副長代行への祝儀として莫大な勲功を寄付。
積極的に支援する始末だ。
俗に、城砦騎士団幹部には
お困り様しか居ないという。
また騎士団第四戦隊には
お調子者しか居ないともいう。
それはまさに、こういう事であった。




