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サイアスの千日物語  作者: Iz
第七楽章 叙勲式典
1180/1317

サイアスの千日物語 百五十四日目

戦勝式典の熱狂冷め遣らぬ1時間区分後。

つまり数時間後となる午前0時。翌日の始点

となるこの時刻より、城砦騎士団全体規模での

再編成が実施された。


この再編成で最も大きく変じたのは城砦騎士団

防衛主軍。すなわち第一戦隊の在り様だった。


城砦歴107年開始当初の第一戦隊戦闘員は

概ね400。以降大規模な損耗が見込まれる

「宴」に向けて、定期的に補充されていった。


そして本来なら3割は確実に死傷後送となる

黒の月の「宴」において、損耗を1割強に抑えた

事を切欠としてその員数は増え続け、現時点での

戦闘員は遂に総数800弱。


未だ「使えぬ」新兵未満を3割含むと言えど、

年初の2倍の規模にまで膨れ上がっていた。


この事実は「宴」というものがどれほど過酷かを

騎士団や連合軍に再認識させると共に、一兵すらも

損耗せず勝利する神将サイアスのもの凄まじさをも

思い知らせる事となっていた。


そしてそのサイアスが所領に戻ると言う事実の

意味するところを推し量り、人々は大いに震えた。

身にやましき所なき善良なる味方は大いに沸き、

後ろ暗き闇の勢力とその幇助者は大いに萎縮。


後者は少しでもこれより遠ざかろうと平原東方へと

水面下で遁走し、その結果平原西方諸国連合には

益々の安寧が訪れた。


元来領内に多数の連合軍の要衝を持つ事から

言っても、城砦騎士団と西方諸国連合とは

実質不可分の存在である。


さらに先の大戦果の後、平原3女傑らが殲滅

した騎士団領内の闇の勢力の拠点の顛末に

ついての情報が開示された。


これにより常備軍を持たぬ西方諸国の大半は

自国の防備に切なる不安を感じはじめてもいた。


騎士団がサイアスを所領へ駐屯させる意向を

示したのは、これを抑える意図もあったのだ。


よって騎士団領の東端に現役城砦騎士でもある

神将サイアスが戻る事に対し、西方諸国の各国

は、少なくとも表向きは全的な歓迎の意向を

示していたのだった。





さて年初の2倍の規模にまで膨れ上がった

城砦騎士団の防衛主軍たる第一戦隊戦闘員数

ではあるが、防衛すべき拠点の数は倍加どころ

ではなく増大していた。


まずは北東支城ビフレスト。次に城砦二の丸

そして歌陵楼。さらには高台南東の三の丸に

北西拠点エルデリート。実に5倍である。


要は総員は倍増したものの、一箇所あたりの

兵員数は減っていたのだ。再編成はこの辺り

の事情を大きく加味したものとなっていた。


まず第一に、当初の規定路線でもあった、

戦隊内4つ目の大隊の設立が成された。


戦隊長オッピドゥス率いる主力大隊。

戦隊副長セルシウス率いる副長大隊。

精兵隊長シベリウス率いる支城大隊。


これらに加え、副長大隊の元副長である

城砦騎士シュタイナー率いる言わば第二の

支城大隊が編成され、これに合わせ全大隊

の呼称をも見直す事となった。すなわち、



主力大隊は中央城砦を専従防備する事から

「近衛大隊」へと呼称を変じ員数200へ。


副長大隊は二の丸と三の丸の防備を担う

「防衛大隊」へと呼称を変じ員数400へ。


支城に詰める二つの大隊はそれぞれ方角を用い、

支城大隊は「北東大隊」第二は「北西大隊」

へとその呼称を変じて員数各100と相成った。





近衛大隊は員数こそ200と防衛大隊の半数に

留まるが、これはこれまで担ってきた補充兵

への教練を全て防衛大隊へと移行した事に

よる所が大きかった。


現状、近衛大隊は三つの組で構成されていた。


まずは近衛大隊長である戦隊長、城砦騎士長

オッピドゥス・マグナラウタス連合子爵が

自ら鍛えた最精鋭の「白組」100名を率い、

教導隊長たる城砦騎士ルメールが「黒組」、

元精兵隊副長たる城砦騎士ユニカが「花組」

としてそれぞれ50名ずつ。


そして今後増員がある場合は同様に、

城砦騎士1名の通常指揮上限となる50名を

1単位として「組」と成し、黒と花に並べて

続けていく。そういう仕組みを採用したのだ。


近衛大隊の黒花両組は「ブラックマッスルズ」

「ビューティフラワーズ」との愛称をも有し、

平時は白組の一部を預かった上、黒が外郭を。

花が内郭を防衛する。


このうち花組トップな城砦騎士ユニカは

「ヴァルハラの騎士」とも呼ばれ、全ての

第一戦隊員にとり母なる聖地、すなわち

超弩級巨大食堂ヴァルハラよりテコでも

動かぬ事で戦隊内外に知られていた。


が、何か切欠でもあったものか、此度の再編成

に伴い同じく内郭に位置する他戦隊の食堂をも

ヴァルハラと分け隔てなく警護する事となった。


何でも参謀部の企画で各戦隊営舎の食堂を

食べ歩いた結果、使命感に目覚めたとの事だ。


戦隊長オッピドゥスその人が頭を抱える程の、

第一戦隊きってのお困り様たるユニカの

やる事成す事に、いちいち目くじらを立てると

まったくもって身が持たぬ。


よって黒組トップなルメールは内郭に数倍する

面積を有する広大な外郭の警備を担う事となり、

オッピドゥス揮下な白組のほぼ総員を借り受け

専ら外郭防壁上を警邏。


つまり近衛大隊全体としては、ユニカの捕食&

守備範囲が増えた以外は従来と何一つ変わらぬ

格好であり、ルメールは上官と同僚のお困り振り

に日々振り回されつつも、それを鍛錬の負荷

として益々自身らを鍛える風だ。


シベリウスと並び次期第一戦隊長最有力候補と

目されるだけあって、ルメールのその心身は

正に重甲冑の如き強度へと育っていた。





第一戦隊二つめの大隊であり、平時の軍務に

おいては主力となる「防衛大隊」は員数400。


従来は「近衛大隊」と分担していた新兵への

教練を一身に担う格好となり、見た目の負荷は

激増していたが、内実としてはそうでもない。


理由は城砦騎士団が近郊を武力制圧し領土化

した事によって、対異形戦闘に実働する機会が

減少傾向にあったからだ。


少なくとも防衛大隊第一の拠点である城砦

二の丸近郊からは敵の気配はほぼ途絶しており、

戦闘の可能性が残るのは将来の三の丸となる

高台南東の防衛拠点のみ。


よって防衛大隊の大多数は、平時は施設の警備と

運営補佐、さらに訓練課程の監督を主任務とする

言わば第三戦隊に似た立場を担う事となった。


また防衛大隊では元副長であったシュタイナーを

「北西大隊」へと独立させた事によって大隊長

セルシウスを除き、城砦騎士が在籍して居ない

状況ともなった。


これを宜しからずとして、騎士会はセルシウスの

下へ、昨年秋に騎士団領内に所領を獲得して新領

の経営のため1年間に渡り帰境していた2名の

城砦騎士のうち、1名を副官として付けた。


セルシウスはこの副官に未だ異形の気配が濃厚

な高台南東の三の丸の統率を任せ、副官として

近衛大隊より「最後のファランクス」の一員

であった元精兵ラングレンを融通され付けた。


ラングレンは先の合同作戦以後も継続して

三の丸に詰めていたため、そのまま居付く格好だ。


現在兵士長でありその戦力指数は既に騎士級。

新任の騎士の下武功を重ねゆくゆくは城砦騎士

へと至るだろう。そう目されていた。


防衛大隊は残る拠点として「歌陵楼」を有するが

こちらに関しては従来の状況に変更を加える

事はなかった。そのため歌陵楼には引き続き

独立機動中隊であるガーウェイン隊が詰めた。


元トリクティア機動大隊員であった特性を

存分に活かすガーウェイン中隊は、北東の支城

ビフレストと二の丸との中継点である歌陵楼で

平原よりやってくる輸送部隊の仲立ちをする。

そういう役目を継続する事となっていた。


とまれ二の丸に予備隊と補充兵を中心とした

250名。三の丸に大隊中最精鋭の100名を

置き、歌陵楼には独立機動する50名。


合計400名。


年初の第一戦隊の戦闘員総数に匹敵する規模の

防衛大隊は、概ねこういう内訳になっていた。

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