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サイアスの千日物語  作者: Iz
第七楽章 叙勲式典
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サイアスの千日物語 百五十三日目 その十

サイアスの城砦騎士叙勲に去来する感動を

堪え切れず、目頭を押さえ歔欷に暮れていた

ベオルクは、ふと周囲が静まり返っている事に。

そして自身の元に2000余の視線が集中して

いる事に気付き、慌てて取り繕い面をあげた。


気がつくと。


いつの間にやらベオルクの面前には

客席より降りてきたサイアスが立っていた。


サイアスはベオルクを気遣わしげに見やり、

普段の挙措を取り戻す風を見届け僅かに

眼を細め、そして深々と頭を下げた。



「副長、今日の私があるのは

 ひとえに副長のお陰です」



サイアスはやや声を震わせそう言った。


「……止せ」


ベオルクは嫌がる風を装った。



「いいえ、何度でも言います。

 副長、貴方のお陰です。

 心より、ありがとう御座います」


「止せと言うに!

 ……これ以上ワシを泣かす気か」



ベオルクは声を荒げ、次いでごちた。



「バレたか」


「……おい」



小さく舌を出すサイアス。その様に

ベオルクはジロリとサイアスをめ付けた。


「いつもの顔に戻りましたね」


クスリと笑んでサイアスは

ベオルクにハンカチを差し出し


「自慢のヒゲがカピカピになりますよ」


とはにかむように笑んだ。


容姿こそ大いに異なるものの、その挙措、

雰囲気は在りし日のライナスに瓜二つであり

ベオルクは不覚にもまた涙を零しそうになって


「フン」


と小さくうそぶくとハンカチを分捕り、

顔をゴシゴシした上チーンとやった。


「それ返さなくていいです……」


サイアスは目に見えてドン引きし

見守る2000余は失笑した。



「さっさと行け!」


「はーい」



今日はこの辺にしといてやるか、とサイアスは

小さく肩を竦め、ベオルクの傍らでニタニタ

し通しなオッピドゥスや幹部衆、騎士会の

面々へと会釈。その後やはりニタニタと待つ

壇上のチェルニーの面前へと向かった。





「ッハハ、またベオルクを

 泣かしたなサイにゃん!」


騎士団長チェルニーは実に快活に

檀下面前のサイアスへと笑いかけた。



「そのうちチェルぴょんも

 ワァワァ泣かしてやるにゃ」



平素の通りツンと済まして

シレっと然様に嘯くサイアス。



「副団長になるなら

 今すぐ号泣してやるぞ!」


「えぇ、それはちょっと……」



チェルニーの切り返しにサイアスは

もにょり、より一層愉快げに笑われた。


ひとしきり笑った一枚上手なチェルニーは



「元城砦騎士団兵団長にして西方諸国連合準爵。

 騎士団ラインドルフ領主たるサイアスよ」



と一転厳かな口調で告げた。



「汝の不惜身命の尽力が

 悲哀に満ちた城砦歴107年を

 黄金時代の嚆矢へと変えてくれた。


 城砦騎士団をいや、平原に住まう

 全ての人の子を代表し、心より感謝する。


 よく率い、よく戦い、そして

 よく生き残った。ありがとう……」



騎士団長チェルニーは壇上より

サイアスへと頭を下げた。


サイアスはやや慌て


「私如きに勿体無きお言葉。

 お顔をお上げくださいませ」


とチェルニーへ訴えた。



「私はただ責務を果たしただけの事。そも

 私は当初村の将来しか考えてはいなかった。


 人の世の守護者たらんと戦っていたわけ

 ではないのです。然様に感謝して頂く

 必要はありません……」


「誰もがそうだ。誰もが第一に

 自身と自身の大切な者のために戦い、

 それが結果として人の世を救う事となる。

 そういう事であり、それで良いのだ。


 ゆえに我らの感謝の念は揺ぎ無い。

 照れずに素直に受け取るがいい、

『城砦の姉』よ!」



チェルニーは両手を腰に激しくドヤり

サイアスは何やらジト目になった。





「……以前から一度言っておきたかった」

 

「うむ、申してみよ!」


「女扱いするのをやめろ」


「断るッ! 次ィ!」


「……もぅいぃ」


「ならばよぉしッ!!」


激しくドヤり2000余の笑いを招く

天下無双のお困り殿下。到底サイアス風情の

敵う相手ではなく、サイアスは小さく嘆息し

あっさり諦める事にした。



「入砦前より只管に己が武を磨き、

 数多の死闘を超え騎士すら屠る大物を

 返り討ちにしてきたその武勲、古今稀なり。


 僅か半年足らずにして

 遂に至った戦力指数は12.1。


 げに勇ましき人の世の守護者にして

 絶対強者。すなわち我らが輩、城砦騎士よ!


 サイアス。


 騎士会首席、剣聖ローディスに成り代わり、

 騎士団長、城砦騎士チェルニーより申し渡す。


 城砦騎士団騎士会は汝を

 序列19位の城砦騎士に叙す。そして」



チェルニーはそこで言の葉を留め一拍、二拍。

サイアスが、2000余が自身へ。そして

サイアスへと極限まで集中するのを待ち

そして朗々と、声高らかに宣告した。



「汝のこれまでの活躍を最大限に評し、

 また所領の発展とさらなる繁栄を祝して

 西方諸国連合の『辺境伯』位を授与する。


 これより汝は


 サイアス・ラインシュタット


 そう名乗るが良い!」

辺境伯:国防上の事由により主に兵権を本来以上

    に強化された伯爵位。侯爵とも呼ばれる。

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