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サイアスの千日物語  作者: Iz
第七楽章 叙勲式典
1162/1317

サイアスの千日物語 百五十二日目 その六

東西に長い楕円をした人の住まう平原の中央を

大きく占める三つの大国のうち、北のカエリア、

中央のトリクティア2国の現況については

一通り確認が済んだ。


「後はフェルモリアか……」


とやや物憂げなローディス。


「そうですね」


応じるブークも同様であり、軍議に参じている

上層部のうち数名が何やら顔を背けだした。


その様に


「……何だこいつら」


と呆れ、


「現実と向き合えよ」


と苦笑するオッピドゥス。


「まぁその、何だ……」


と剃髪黒衣な容貌魁偉を乙女心地に

モジモジさせて周囲を凍り付かせる

フェルモリア出身のファーレンハイト。


「うむ、まぁ何だな……」


漆黒の髯を撫でつつ勿体振る

フェルモリア出身のベオルク。



「この際だからはっきり言う」


腕組みしたままグリングリンと頭を回し



「一言で言えば、後ろめたい」



と微塵も悪びれる風なくドヤりとのたまう

フェルモリア大王国第一藩王たるチェルニー。


要するに、そういう事だった。





東西に長い平原のうち、東西軸における

中央は、南へとやや大きめに迫り出している。


迫り出した部分の北方には北に弧を持つ

弓なりな山地が連なって中央の大国である

共和制トリクティアとの天然の国境を形成。


東西に長い弓なりな山地と、平原全体の

南の海岸線とに隔てられた、平原全体像を

小振りにしたような楕円の範囲。それが

フェルモリア大王国である。


フェルモリアは北部山脈の南手に拡がる

大なる高原を発祥として、東西そして南方へと

海岸沿いの低地を目掛け伸長してできた大国だ。


国土の多くを山地が占めており、国内には

多数の部族がひしめいている。中央の高原域を

取り囲むようにして北西より左周りに、さながら

光の王国と四つの文明圏に似た格好で、第一から

第四までの4つの藩国を有し、それらを中央から

統帥する格好で大国家を経営していた。


勃興当初より、王国発祥の地である第一藩国を

除く3つの藩国に対しては相応の自治権が

認められているが、その藩国内でも多数の

部族が混在し、体制派と独立派による

小競り合いが絶えぬ状況だ。


王家(ゆかり)の地でもあり、政情の最も安定している

第一藩国は大王がこれを直轄する。大王の義弟

たる藩王は西方諸国連合へと出向。そして大王

の実の妹である藩王妃は大王国内の各地へ赴き

独立派と称する叛乱勢力を鎮圧して回る。


それが今年前半までのフェルモリアの情勢で

あり、騎士団領の最西端に軍事拠点トーラナが

出来てよりは、藩王妃たる赤の覇王も連合軍へ

出向。出向前に叛乱勢力はあらかた殲滅した

もののすべての火種が消え去ったわけではなく、

随所で不穏な気配は見え隠れしていた。


四隣を制圧して出来た他民族国家ゆえ、

元より内乱は不可避的。それがフェルモリア

大王国の宿命であり、勃興以来常東方諸国に

勝るとも劣らぬ戦に次ぐ戦で国土を荒らした。


が、当代の大王はその卓越した政治手腕で

まがりなりにも全ての藩国政府より全幅の

忠誠を得ていた。ただ、その手法がまた

何かと批判の種でもあった。





「確か……

『王様ゲーム』だったか?」


とローディス。



「違う! 『玉座遊戯スローンゲーム』だ!」



とそれなりに義兄をかばう風のチェルニー。


「まぁ、どっちもどっちな感じだわな……」


と嘆息するファーレンハイト。


けだし彼の嘆息は正しかった。



当代の大王は希代の英雄と呼ばれる。

ただしこれは英雄の一側面とも言える

「色を好む」の色に特化した感じの揶揄だ。


大王は自身の色を好む気性を最大限に活かし

なおかつ争いの絶えぬ国情をまとめるため、

国内全土に向け、とある布告をおこなった。



「国内全土のあらゆる有力氏族に告ぐ。

 氏族一の美女を余に提供せよ。


 さすれば我とその美女との子らに

 優劣なき継承権を与えて王位争奪戦を

 開催し、これを制した者に大王位を譲る」





この布告に国内全土は大いに沸き立った。

わざわざ勝ち目のない反乱軍を立ち上げずとも、

美女一人送り込むだけで王位継承権を楽々

ゲットできるのだ。


一旦継承権を得てしまえば後はその美女の子を

支援して他を倒させ、最後の一人にまで持って

いけばいい。それで大王国の全てが合法的に

手に入る。最も楽な国盗りが成るのだ。


お陰で国内全土の有力氏族も有力でない氏族も

こぞって美女を大王へと献呈し、大王は多数の

美女をゲット。


氏族らは王位継承権というか継承券をゲット

して、定期的に開催される血沸き肉踊る

王位争奪戦を全力で楽しむ。そういう手法だ。


これにより大抵の民族部族に氏族らは

兵を挙げての叛乱を放棄し自身らの推しメン

たる美女の子を応援、大王国の国民として

総選挙的な「玉座遊戯スローンゲーム」を楽しむようになった。


お陰で叛乱を起こすのは美女が供出できないか、

供出された美女に納得がいかない氏族内の他の

美女の取り巻きなどに限定されつつあった。





「自身の風評と性癖を最大限に活かして

 叛乱勢力を懐柔し、内戦を抑制しつつ

 国力を高め対外的にも優位に立つ……


 見事な策ではありますが。

 真似できる気はしませんな……」


肩を竦めそう語るセルシウス。



「まぁそういう訳ですのでね。

 あの国では言わば継承戦が公式化

 されており、そのための小競り合いは

 黙認され、国民らもこれを楽しんでいる。


 闇の勢力やらにとっては潜伏し易い、

 どころか美女一人差し出すだけで

 自身らも継承戦に加われますので、

 とにかくいかんともし難い感じです」



ブークはお手上げの仕草を示し、

上層部総員がそれに倣った。

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