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サイアスの千日物語  作者: Iz
第七楽章 叙勲式典
1146/1317

サイアスの千日物語 百五十一日目 その二

元来が4億分の1000程度と、極まった

少数精鋭である城砦騎士団では、戦闘員の

個々人が独自の方向に尖っていた。


自身の専門分野においては他の追随を許さぬ

ものの、その他の要素ではまるでからきし。

各自が役割ロールに特化して、相互に補完し機能する。


異形の巣食う修羅の巷で生き抜くには

それが最適解となっていた。


有り体に言えば、馬術である。


平原随一の騎馬軍団たるカエリア王立騎士団

の輸送隊では、総員が馬術技能5以上という

超一流の次元で粒が揃っていた。


お陰で荒野の悪路不整地でも、騎馬のみならず

大型貨車までもが超絶機動で突っ走り戦闘すら

こなすのだが、城砦騎士団ではそうもいかぬ。


唯一騎兵隊を擁し何かと出鱈目でお困り様な

かの第四戦隊でさえ、馬車や貨車は随分と

「おしとやか」に走る。跳んだり跳ねたり

テールスライドで薙ぎ払いをかましたりは

しないものだ。


此度の中央城砦への輸送部隊第1便においては

まずはカエリアの騎士でもあるヴァディスの

馬術技能が9。当代随一かつ神仙の領域にあり、

あらゆる意味でぶっちぎりだ。


次いで荒野を頻繁に「お散歩」する四戦隊の

騎士マナサが名取級の7であり供回り2名が

超一流の5。


あとは東方伝来の戦闘馬術「流鏑馬」の

使い手でもあるブークが師範格の6であり

他はプロレベルの3もしくは一流の4。


総員の平均値を取れば5を上回るものの

粒は余りに不揃いであって、輜重隊とその

護衛として以上の領域にはなかった。





もっとも城砦騎士団には常に現行文明の

一歩先を往く最先端の技術と装備がある。


特に第三戦隊長ブーク自らが率いるこの

第1便の各貨車には、先の合同作戦で得られた

運用データのフィードバックを受けて独自に

改良を重ねた足回りが標準装備されていた。


すなわち不整地での走破性を高めるゴムの

「靴」の硬度の最適化と、靴のお陰で磨耗

しなくなった車輪の鍛造度強化及び軽量化。


さらに車軸と貨車本体との狭間に第一戦隊長

オッピドゥスの専用盾メーニアやそのコピー

メナンキュラスに採用されている板バネと

油圧の複合式である緩衝機構サスペンションを搭載。


これらによりバネ下荷重を低減させつつ

路面への追従性をいや増して輓馬の発する

膂力をロスなく発揮する新機軸を具現していた。


その効果は覿面てきめんであり、必要十分な技能を有する

も未だ一流とは言えぬ御者らに、超一流の走りを

成さしめていたのだった。


要は馬が一切の荷を負わず走る本来の速さに

限りなく近づけて輸送できるようになった訳だ。


こうして第1便は当初の予測を2割強上回る

第二時間区分中盤、午前10時半にビフレスト

北城郭の城門前へと到着した。





「実に画期的な成果が上がったものだ。

 加えて安全度合いの増した往路を舗装する

 事ができれば、『領内』の往来は完璧だね」


ブークは満足気に頷いていた。


物資輸送や歩兵抜きの機動部隊に限ったならば

平原最西端のトーラナから支城ビフレストまで

休憩込みで丁度6時間。


軍師風に言うならば馬術或いは兵器技能に

+1以上の修正値が付いた格好となっていた。


ここ最近の輸送ラッシュにより随分手際の

よくなった受け入れ態勢により、開門された

城内へと飲み込まれていく大型貨車の群れ。


この後これらの南城郭への移送に約30分。

さらに南城郭から途中「歌陵楼」を経由して

中央城砦二の丸城門までが1時間弱。


つまり物資はトーラナから中央城砦まで

8時間もあれば着くという事だ。


ほんの半年前までは半日以上掛かっていた。

げに恐るべき技術革新の連続であった。



「トーラナと共同開発中のアレを主体とするか、

 或いは北往路にレールを敷いて参謀部が

 独自に開発を進める『列車』を採用するか。

 いっそ両者を併用も悪くないですな」



とヴァディス。


参謀部ではビフレストの橋梁部や中央城砦の

内郭と本城で採用されていた「シラクサの輪」

や板バネ発条を用いた膂力発生機構を活かして

敷設した梯子状構造物の上を棺状の構造物が

行き来する「鉄道」と「列車」の組み合わせ

を北往路に敷設する案を出していた。


「おいおい待ってくれヴァディス君。

 時間と資材と労力はどうすれば良いんだ」


と苦笑するブーク。



「如何様にも捻り出せば宜しいかと」


「あぁ、そう言うとは思っていた。

 我ながら愚問だったよ」



最早お手上げと言った風だった。





支城ビフレストへと入城したブークら護衛な

騎馬の群れは第1便の車列を支城から城砦まで

の移送を担当する駐留騎士団へと預けた。


ブークらはまずは支城にて食事と休憩を摂った。

支城名物「だごん汁」や、トーラナの新名産

となるナンでカレーを包んで揚げたある種の

究極形態「情熱のバトゥーラナ」を堪能した。


フェルモリアではナンを醗酵させて

揚げたものを総じてバトゥーラと呼ぶ。



そのバトゥーラに肉がゴロゴロ入ったカレーの

旨みと辛みが絡み、えもいわれぬ感動の豊饒を

産んで一気にやる気と体温が上がるこの逸品は

ビフレストの兵士らからも絶賛を受け、兵士の

携行食として採用すべきとの全会一致の採択を

受け、即時そうなった。


その後軽く城主シベリウスらと談笑し諸々の

説明を受けたブークらは、当地に新たな景観を

産みつつあるゼルミーラの成果へと足を運んだ。

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