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サイアスの千日物語  作者: Iz
第七楽章 叙勲式典
1142/1317

サイアスの千日物語 百四十七日目 その七

人の世の守護者、絶対強者たる城砦騎士とは

比類なき、人外の化生と比しても類稀なる

戦闘力を有す存在へと与えられる尊称である。


城砦騎士は城砦騎士団内での軍権を除く

一切の世俗的権能を有さない。また飽くまで

戦闘力への評価であるため世襲もない。逆に

それゆえに純然たる強さの証として尊ばれた。


ビフレスト城主たるシベリウスはそうした

城砦騎士の中でも筆頭。騎士長たる3名に

次ぐ精強さを誇っていた。


ただその強さに軍政や経営に関する能力は

含まれておらず、ゆえに城代として軍師かつ

祈祷士なロミュオーが派遣されているわけだ。


凡そ戦に関する事ならば途轍もなく頭の回る

シベリウスだが、物資や備蓄の管理運営に

関しては素人だ。


また第一戦隊総員の気質として兎に角自身の

役目に徹底専心する傾向があり、皆互いに

そうする事に慣れていた。


シベリウスとしては自身の役目を徹頭徹尾

支城と北往路の守備にあると任じている。

それ以外は全て、言わば不純物なのであった。


よってその他多数の支城運営に係る諸々は

ロミュオーに一任しており、一旦任せた

からにはまるで気にかけてはいなかった。


要は分業特化の志向の持ち主なのだ。

よって他業務を理解させたいならまずは

詳説が要る。つまりはそういう事だった。





「此度の合同作戦に先だって、資材運用を含む

 騎士団全体の経営を担当する第三戦隊の長

 ブーク閣下は事前に各作戦で入用となる物資

 を試算し配分した上で帰境なされた訳ですが。


 三作戦の一番手たる『アイーダ作戦』の段階

 で既に当初の予定から逸脱し、本来本隊を追う

 べき輜重大隊が別動し、大規模な拠点を建造。


 本隊もこの拠点を活かす形でオアシスとの

 狭間に中間拠点を設ける等予定外に挙動し、

 アイーダ作戦全体で当初の予定に7倍する

 半年分の備蓄を消費致しました」



淡々と語って聞かせる城代ロミュオー。

物資大量消費を招いた切欠の一番手は

輜重大隊の別動にあったという。


もっとも輜重大隊は独立機動大隊として

随意な行動が許されていた。また結果として

アイーダ作戦に参加した総員を生還させる

という、比類なき戦果をもたらしてもいた。


人の世の存亡を担い最前線で死闘する

城砦騎士団では、結果こそが全てである。


元よりアイーダ主力軍にとり撤退戦が

織り込み済みだとしても、物資を惜しんで

甚大な被害を出し壊滅の危機に晒すよりも

派手に用いて大勝し生還させた方が良い。


要は人資と物資を天秤に掛けて、

前者をより重んじた結果だと言え、



「ほぅ。7倍とはなかなか豪気だな」



自身が人資の頂点ともいうべき城砦騎士であり、

また精兵衆という飛びきりの人資を率いている

シベリウスはそう言って笑った。





「蛇足ではありますが……

 当初相当数が損耗すると思われていた

 アイーダ作戦主力軍の戦闘員500余名。


 特に第一戦隊員が戦勝と共に生還し成長し

 皆が皆、その…… より一層の大喰らいと

 相成ったがために、食糧の消費もかなり

 激しくなっておるようです」


「味方の生還と成長を嘆くヤツがあるか。

 そこはひたすらに喜んでおけぃ」



片眉を上げジロリとロミュオーを見やる

シベリウス。もっとも怒ってなどはいない。

ロミュオーの立場を思い苦笑していた。



「ハッ。 ……では次に。

 アンズー率いる飛行軍による中央城砦への

 夜襲において発生した損耗についてですが。

 

 大破し廃棄処分となった『火竜』1基の

 再生産、及び迎撃の際に破砕された防壁群の

 修復に2か月分の備蓄を費やす事に……」


「……」



ロミュオーの言を受けシベリウスは

腕組みし苦い顔をした。



城砦騎士団の誇る決戦兵器「火竜」。

このうち中央城砦二の丸に設置されていた

2基のうち1基が先の夜襲を経て大破した。


また内郭北東区画へと侵攻してきたズーらを

迎撃する際、多数の鉄球が防壁や郭壁の内側に

直撃しこれを破砕。浅からぬ損耗を出していた。


ただ、これらは実は味方の仕業であった。

火竜を大破させたのは寝惚け気味であった

第一戦隊長オッピドゥスその人であり、


防壁や郭壁をボコボコにしたのは

愛しき麗しのヴァルハラが狙われた事に

マジギレした第一戦隊の騎士ユニカであった。


要するに上司と元部下がやらかしたとの事で

あり、苦い顔をする以外の選択肢が無かった。






「さて『グントラム作戦』ですが。


 取水地点の恒常的確保を第一義としていた

 本作戦にとり、『大回廊』を壮大な水掘と

 成して城砦北方の支配権を確保するという

 展開は、『岩場』での異形同士の戦局や

 魚人との共闘という多分に偶発的な要素を

 含むため、予算と物資の計上も飽くまで

 予備的なものでした。


 ですが実際にはこれを実現する運びとなり、

 当初の予定になかった拠点をも建造。さらに

 独立機動大隊が中央城砦の西手に当支城と

 同様に石垣を敷設。こうした諸々で概ね

 備蓄のうち1年分程を費やす事となりました」


「成程な…… まぁ結果として

 城砦北方の騎士団領下に成功したのだ。

 ここは素直に喜び讃えるべきだろう」



備蓄1年分と言われても、仮に具体的な

数値で示されても話が大きすぎてピンと来ぬ。

そんな感じの反応をシベリウスは見せていた。



「最後に『ゼルミーラ作戦』ですが。

 アンズーから奸智公爵の肝煎りという形で

 割譲を受けた『小湿原』の保全を目的として。


 これを全周的に覆う、中央城砦の外郭防壁

 そのものに匹敵する大防壁の建造が開始

 されました。これには現段階で2年分の

 備蓄が注ぎ込まれており、こうして

 中央城砦の資材は全て使い切った模様です」



一通り語りつくして

肩を竦めるロミュオー。



「ふむ、何とも気宇壮大な事だ。

 ……というか。ごく一部の例外を除いて

 第四戦隊の御仁が深く関わっているのだな」


「そうですなぁ……

 やるとなったらとことんやらかす

 お祭り戦隊のお困り様ですので……」



と敢えて個人名を避けて嘆息する

城代ロミュオーと城主シベリウス。

そう、そうなのであった。


数年籠城し得るほどあった物資の備蓄を

すっからかんのオケラになるまでがっつり

使い切った最大のやらかし手とは誰あろう。


サイアスその人なのであった。

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