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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
1104/1317

サイアスの千日物語 百四十四日目 その四十六

中央塔付属参謀部研究棟、シラクサと

ファータが共同で用いる研究用の房室。


仄暗いその部屋の中空にその身を横たえる

淡い紫に輝く剣とも槍とも付かぬ閃光の欠片。



――数度の細かい屈折は、大気を轟音と

  共に割り裂く雷光に似ている気がする。


  でもそういえば僕はこれまで雷を

  マジマジと見た事はなかったかも?


  でもはっきり雷だと感じるのは、多分

  これが「雷のイメージ」を具現化した

  ものだからじゃないだろうか。


  つまり以前サイアス邸で受けた講義に

  あった、「概念の具現」。 ……そう、

  これはきっと「魔術」絡みに違いない――



ぼんやりとそれを眺めるランドの脳裏では

無数の思索が閃いていた。ステラもまたステラ

独自の視点から未知の雷を分析しているのだろう

か、驚愕に首を傾げ瞬きし、



「す、凄いですねこれ……

 正直何だかよくは判らないけれど、

 とりあえず宙に浮いちゃってますよね……」



と割と率直な感想を申し述べた。が、

シラクサは意外そうに念話で変じた。



「……宙に?」


「……え?」


「ん!?」


「糸で吊っています」


「!」


「!?」



そういう事であった。





シラクサ曰く、この閃光の欠片はアンズーが

投げ付けサイアスが打ち落とした後、本城の

斜面に弾かれながら中層にまで落下。


変形機構を備える中層の積層構造を成す一帯。

丁度収納したばかりの攻城兵器の射場の「蓋」

に相当する部位に突き立っていたのだとか。


投げ付けたり打ち落としたりし得るのに十分な

質量を有してはいるらしい。今はニティヤに

頼んで妖糸で吊って貰ってあるのだとか。


ニティヤの用いる「魔蜘蛛の糸」は日中

ですら肉眼で視認するのが困難な代物だ。

ほの暗いこの部屋ではさもありなん。

そういう事だった。


「これも凄いけど糸も凄いですね……」


と率直にステラ。


ニティヤを荒神の如く畏れるランドは

何であれ迂闊に口にするのは避けねばと


「ま、まぁそれはそれとして。

 これは一体何なんだろうねぇ……」


しどろもどろで話題を閃光の欠片に戻した。



「私が調べた範囲では、ほぼ『雷』です」


とシラクサ。


「今とんでもないことサラっと言ったね」


元よりランドは突っ込み担当だ。

そしてくだらない突っ込みにより

ステラから肘打ちを喰らう役でもあった。



「実の雷と異なるのは、その表面がくまなく

 魔力で覆われている、という事でしょうか」


「あぁそれでこの『姿』を維持してるって事?」


「そうですね……

 お二人は以前サイアスさんのお宅で

 魔術の講義を受けておられますから

 そちらの知識や語彙で語るなら。


 これは『燦雷』を凝固させたものです」



燦雷とはかつて城砦騎士団が死闘し遂には

弑した侯爵級の大魔「燦雷侯クヴァシル」の

用いた雷撃の名であり、またこれを再現した

儀式魔術への呼称でもあった。


魔術の発現には大前提として高い魔力が。

そして数値にして1200と膨大に過ぎる

気力が必要となる。


ファータ級の魔術の達人でも多数の祈祷士の

支援を得て日に数度。それ以上は精神崩壊を

引き換えにしても発動すら困難だ。


落雷という天然自然の事象、それをイメージ

した落雷なる概念を、魔力を用い気力を触媒

として具象化したもの。それが燦雷だ。


そうした形で発動せしめる燦雷を、さらなる

魔術によって凝固させ剣とも槍とも付かぬ

閃光の欠片に加工したもの。それが眼前の

物体であった。





「って事はさ、奸智公って魔は、燦雷は

 当たり前のように使えるって事だよね」


とランド。


魔術は荒神たる魔の御業の再現だが、同じ

御業を異なる魔が用いるという話はついぞ

聞いた事がなかった。


だが別に使用に不都合があるわけでもないの

だろう。単に個性や気分の問題かも知れない。



「そうですね。その上でそれを加工する術を

 有しているという事ですので、魔力――と

 言って良いのかどうか――において、かの

 燦雷侯クヴァシルを確実に上回っている、

 そう見做してよいでしょう。


 侯爵の上をゆく公爵級の大魔である事の

 揺るがぬ証左にもなるでしょう」



とシラクサ。


仮に奸智公ウェパルが顕現した際の

戦力指数を推し量るには有用だとの見解で、

このあたりはいかにも軍師といったところだ。



「イメージ的には雷の他に

 水とか氷の魔法が使える感じ?」


とランド。



「『嵐』を操る能力を持つ、

 との見方もできるでしょうね」


「おぉ、一気にそれっぽく……」



シラクサの応答にランドは鼻息荒く頷いた。


奸智公は川の乙女なる化身を顕したと聞く。

川の乙女と言えば思い浮かぶのはまず人魚。

人魚なら嵐の一つや二つ操っても不思議は

ないよね、とうんうん唸り頷いてステラに

冷たい目で見られた。



「ですが今我々にとり重要なのは

 そう言った事ではありません」


「あ、脱線ごめんなさい……」


「反省しなさいよ!」


「あっはい…… すみません……」



脳裏に思い描いた妖艶な人魚の姿を見られた

かの如く、ランドはばつが悪そうに萎縮した。





「重要なのはこれが

 膨大な魔力と気力の塊である事。

『ウィス』そのものだという事です」


「『ウィス・エレクトリカ』……

 確か、電池……?」


ウィス。訳さば「力」そのものの事だ。

確か講義でヴァディスさんがそう補足説明

してくれた、とランドは当時を思い出した。


この着想は正しく、



「ランドさんの発明した兵器群においては

『カートリッジ』に相当するものですね。

 これを研究すれば大規模な膂力を保存し

 適宜発動させ得る機構を生み出せるかも」



とシラクサ。


「おおー! ってぃたた」


大声を張り上げステラに肘を喰らうランド。


きっと組討技能が高いのであろうステラは

業務用スマイルを崩すことなく


「流石シラクサさんですね!

 じゃあ私たちを呼んだのは」


と問い、シラクサはこれに頷いた。



「この閃光の欠片から

 如何にウィスを引き出すか。

 引き出したウィスを何に用いるか。

 用いるための機構を如何に構築するか。


 基礎研究は私やファータが。

 応用設計はランドさんが。

 機構構築はステラさんが。


 それぞれ得意分野を活かして協力すれば、

 きっと歴史に残る素晴らしいものが出来る。

 そう思いませんか」


「素晴らしい!」


「素敵!」


「本格的な研究は此度の合同作戦の終了後

 となるでしょう。サイアスさんには許可を

 貰ってあります。スターペス師には今直に

 掛け合いに行ってくださっています。


 お二人共別途ご自身の務めがおありなので

 常にとは申せませんが、情報の共有と交換

 を進めつつ折を見てこちらにもご助力を

 頂ければと思います」


「了解! 楽しみが増えたよ!」


「私も全力で頑張りますね!」



ランドとステラは共に興奮気味で確約し、

三人は暫し諸々の創造的な想像を語り合った。

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