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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
1092/1317

サイアスの千日物語 百四十四日目 その三十四

城代にして城砦軍師、また祈祷師でもある

「沼飛び」ロミュオーは支城ビフレスト

北城郭の本館へと入った。


本館は巨人族の末裔たる兵団第一戦隊長

オッピドゥスの滞在に不都合の無い様に、

中央城砦同様の間取りとなっていた。


そのため軍議に用いる広間も矢鱈とだだっ広く、

夜間は広間中央の軍議用の円卓周辺が、暗がり

に茫洋と浮かび上がってみえていた。


ロミュオーが入室した際には、既に当支城の

幹部衆は揃っていた。まずは城主たる城砦騎士

シベリウス。副官として城砦騎士ヘルムート。


あとは中央城砦付属参謀部より交代で派遣

される軍師と祈祷士が2名ずつだ。城代たる

ロミュオーが軍師と祈祷士を兼ねる祈祷師で

あるため員数としては少なめだ。


結構な頻度でやってくるパンテオラトリィも

また祈祷師であるため、参謀部からの人員は

ロミュオー含め計4名な事が多かった。


また此度の合同作戦が終了次第新たに軍師1名

が常駐となる。その1名とは第一戦隊精兵から

参謀部に派遣され軍師となったマッシモだ。


あとは駐留騎士団とトーラナ兵より幹部が

数名ずつ。もっとも彼らに発言権はなく、

飽くまで観察官オブザーバーとしての参画であった。





「これは皆の衆、お待たせを。して使者とは」


芝居がかった挙措で一礼し、

自身の席へと着くロミュオー。


座席は城主シベリウスの左隣であり、

右隣にはヘルムートが着席していた。



「ヴァルキュリユルからの使者だとか。

 あぁ、サイアス卿の大隊のことです。

 現在渡橋中との事。遠からず参りましょう」


「ふむ、中央塔絡みではないのかな」



ヘルムートの補足に一思案するロミュオー。


羽牙飛行軍団による中央城砦への強襲が無事

撃退された事は、既に当地でも既知だった。


もっとも支城ビフレストでは当地の防衛が

常に最優先されるため、その負担とならぬよう

報じられる情報は結果のみの簡潔なものだった。


そのため具体的な経緯については未知のまま。

或いはそれを伝えるための使者かとも思われた。


ただしそうした情報の授受を担うのは中央塔

付属参謀部の役目であるから、此度の件に

ついてはやや様相を異にするのかも知れない。


ロミュオーは変化なき笑顔の面の裏で

頻りに思惟を進めていた。





「使者が到着しました」


そう告げる精兵の背後から


「ども、お邪魔しまっす!

 兵団長より預かりものっす」


にゅっと飛び出したのは


「む、何と面妖な!」


との表現が頗る妥当な仮面姿であった。

ただしそう語る当人もまた面妖であった。

それゆえ周囲の反応は超シュールであった。


「よく来た使者よ。君一人かね」


聊かも動じる様を見せずそう問い掛ける

城主シベリウス。その様まさに泰山の如し。



「あっはい。一人っす!」


「ほう……」



光源が少ないため陰影が色濃く、さながら

中空に浮き上がってすら見える火男面を

シベリウスは興味深げに眺めた。


支城ビフレストは中央城砦二の丸より北東に

1000オッピは離れている。異形の棲まう

荒野の只中を異形の最も活発に動く時間帯に

単騎やって来るなど並大抵の事ではない。


日中ですら普通は警護が付く。深夜から未明

であればなおの事。にも関わらず斯様な仕儀

となればまず二戦隊の隠密。その中でも

飛び抜け優秀な者に限られる。


だが仮面姿の纏う小豆色のガンビスンは隠密衆

の下部組織ともいうべき伝令衆の者。また背に

長剣を背負い飄々として見せる様には

少なからぬ武の気配もあった。


シベリウスの副官ヘルムートやロミュオーも

また同様の感想を抱いていた。この男、形に

似合わずそこそこの使い手だ、と。





「南城郭の手前の『くびれ』辺りでは

 夜間ともなると今でも時折羽牙が出る。

 襲われたりはしなかったかね?」


とロミュオー。


中央城砦北東の支城ビフレストは、大小の

湿原の狭間に横たわる泥炭の海に架けた橋梁と

その南北の端に築かれた城郭で構成されていた。


このうち平原からの輸送路たる「北往路」に

面する北城郭がより大きく頑健な言わば本丸

であり、歌陵楼や中央城砦へと面する南城郭

が二の丸であった。


そして架橋作戦、その後の魔笛作戦の成果に

より、小湿原の羽牙の総数は昨今めっきり

目減りしていた。お陰で北城郭近郊では

まるでその姿を見掛けなくなっていた。


もっともこれはビフレスト北城郭のある大小の

湿原の狭間が東西方向に随分と幅広いことや、

北城郭が羽牙の飛行高度を上回る石垣や城壁を

有するお陰でもあった。


一方南城郭の南方は大小の湿原が織り成す

比較的狭隘な通路「くびれ」となっており、

夜間ともなるとそこを大湿原から小湿原へと

羽牙が飛び交う光景はまま見られた。


そんな中をこの時間帯に単騎で突っ切って

無事で済むとは考え難い。ロミュオーの問い

掛けは妥当なものであった。



「あー……

 羽牙は暫く平気みたいっすね。

 魚人もそうらしいとは聞いてるっす」


「何? ……どういう意味だ?」


「詳しい事は俺っちにもさっぱり……

 ただ、これに書いてあるって話ですんで!」



火男面はゴメンナ・スッテの挙動でもって

何処からとも無くにゅっと書状を差し出した。





さながら手品のその挙措に周囲は顔を顰めるも

シベリウスはまるで動じる事なく、書状を

受け取り内容を検めて


「……」


と無言で眉をひそめ、俯き加減で

額を押さえ、書状を隣へと差し出した。


総身より鳴るが如き武威の気を発し、ただ

そこに在るだけで国を統べ得る泰山の如き

シベリウスがそんな挙措を見せたのは

支城の幹部らには初の事であった。


それゆえ大いに気になりつつ、差し出された

書状を受け取ったロミュオーは内容を検めて


「……」


と笑顔のはずのお多福面を陰影にかげらせ

俯き加減で額を押さえ、書状を差し出した。


城主と城代が何やらまったく同じ挙措をする

様に大いに驚き目を丸くして、副官ヘルムート

はすっかり訝り書状を受け取り内容を検めて


「……」


と盛大に困惑した表情を浮かべて俯き加減で

額を押さえ、書状を火男面へと差し出した。



「!? 何や皆さんお揃いで!?」



支城幹部衆のそうした様をプレー・リードッグ

のポーズで不振がり、何故か手元に戻ってきた

書状をお手上げの様相で受け取ったシェドは

どれどれ…… と内容を検めて



「ファッ!?

 羽牙と不戦協定!?

 魚人と共同戦線!? マジでぇ!?」



とナン・デヤネンのポーズを連発した。

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