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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
1073/1317

サイアスの千日物語 百四十四日目 その十五

識者には闇の時代として知られる遠い昔。

平原中枢では「闇の(テネブラ)王国」が栄華を極めていた。


闇の王国では当世「人」として知られる者ら

のみならず、人に似て非なる多くの者ら。

さらに当代においては異形とすら呼ばれ得る

明らかに人ならざる存在が共存していたと言う。


だがこの王国に叛乱して興った「光の(ルクス)王国」は

闇の王国のあらゆる事跡と共に「人」ならざる

全てを否定し排除した。


結果、闇の王国の忘れ形見たるこうした

人ならざる者らは優れた文物と共に辺境へと

追われ、同地にて亡国を継承した文明を築いた。


そんな中、元来平原北方がルーツであったため

北へと逃れた巨人族が中心となり、志を同じく

する人々と共に築いたのが「火の文明圏」だ。





火の文明圏はその名の通り火の扱いに秀で

極寒の大地をものともせぬ隆盛を見せたが

やがて光の王国により滅ぼされてしまった。


その後ほどなく光の王国は自らの招いた

業により滅びさり、元より差異に寛容である

闇の王国、そして火の文明の遺児たちの間では

混血化が進む。その数百年後が当節であった。


数百年の時を経て薄まった血は、巨人族の

末裔らの体躯をやや大柄な人程度に収めていた。

だが先祖譲りの身体能力は健在で、特に膂力や

体力では他の追随を許さない。


そのため巨人族の末裔は非凡な戦士を輩出

する事でも知られており、そのうち当節最も

「先祖がえり」した存在が城砦騎士団当代の

第一戦隊長、オッピドゥス子爵である。


彼の所領たる騎士団領マグナラウタスには

その威徳を慕い、色濃く先祖の血を引く者ら

が数多く集い、暮らしている。


例えばそれは支城ビフレストを預かる

オッピドゥス莫逆の友城砦騎士シベリウス。

或いは武器工房の長インクスであり防具工房長

マレアであり、そして城砦騎士ユニカであった。





ユニカはシベリウス同様、外見はやや大柄な

「人」の範疇に納まっていた。また当人曰く

技巧派かつ知性派で膂力は低め、との事だが

元が元であるために人の種族限界たる20を

超えている。


一言で言えば怪力乱心の類である。

それが投げつける鉄球の破壊力は凄まじく、

また技巧派を主張するだけあって制球は抜群。

かの「魔弾」すら髣髴とさせる変化球も披露し

一投毎数体纏めて羽牙を屍に変え落としていく。


真っ直ぐ真西を、城砦内郭を目指す羽牙

一個飛行大隊50のうち、実際に内郭の

隔壁にまで寄れたのは半数以下、18体。


ユニカの陣取るヴァルハラの屋上は、ほぼ

内郭隔壁と隣接している。これだけ間合いが

詰まってしまうと鉄球投げつけでは不覚を取る。


そう判断したものか、ユニカは投球をやめて

兜を被り、重盾メナンキュラスと総鉄身の

東方風十文字槍を携えた。腰には別途制式剣

シャルファウストを備えている。


白磁の装甲を有する専用重甲冑しかり、

重盾に重剣、総鉄身の槍しかり。とにかく

傍目にも要塞の如き重武装なユニカは

ガチャリガチャリと重みに溢れた足取りで

東より飛来する羽牙を目指す。





先刻までの閃光の如き投球の様が鳴りを潜め

ただ重々しくガチャリのしりと迫る鉄の塊

1体を前に、残る羽牙18体は一気に

余裕を取り戻した。


ヴァルハラの屋上は3オッピ弱あるため

未だ飛行高度の限界に程近く、空戦機動を

取れる範囲が狭いという不利はあるものの。


重々しくよちよちと寄って来る相手であれば

側背を取るのも頭上より襲うのも造作無し。

いかな重甲冑とて一撃はともかく18撃は

耐え切れまい、と必殺の意向を固めた。


そして側背への回り込みを目指すがゆえに

それを気取らせぬよう、対極にあたる

正面突撃を偽装して、破城槌の如く

ユニカへと殺到した。


対するユニカは羽牙らの挙動を受け、

重盾メナンキュラスを前方へ。右足を引き

十字槍を小脇に引き寄せて防御態勢となった。


重甲冑を纏い身体を張って敵を食い止めるのが

城砦騎士団防衛主軍たる第一戦隊戦闘員の流儀。

それは羽牙側も重々承知している。


よって巨大な肉食獣の頭部を人には判らぬ

仕草でほくそ笑ませ、18体は一丸一塊と

なってギリギリまで殺到する風を



「砕破ァアアァッッ!!!」



雷声一号、地を踏み砕かんばかりに跳躍し

ユニカは前方上空の羽牙へと突撃。重盾の

ブチかましで先陣3体を爆散せしめ、間髪

入れず十文字槍を突き出し3体を串刺しに。


そして串刺しのまま風車の如く槍をブン回し

4体を裂くか潰しつつ吹き飛ばして一旦着地。


巨人族の末裔という凡そ非常識な仕手による

城砦流剣術にして戦術の第一の戦技「砕破」、

その空戦発展版とも言える絶技を決められ、

虚を衝かれ成す術なく半壊させられたものの。


結果として包囲する格好となった残る8体は

気丈にも作戦の完遂を目指し着地したユニカ

へと四方八方から襲い掛かろうとした。


がそこには既にユニカの姿はなく、

放棄された串物の如き槍だけがあった。





ユニカは羽牙の頭上1オッピ程の高みに居た。

ユニカは大上段の重剣シャルファウストを

雷声と共に打ち下ろし、斬るというより殴り

付けて羽牙2体を肉片に変え、さらに盾や重剣

の護拳で滅多矢鱈に乱撃して数体酷い事にした。


辛くも虎口を脱した3体は漸く先刻この重甲冑

が見せたもっさり歩きが、自身らの成そうと

した策と同様の欺瞞フェイクだったと気付いた。


ただの鉄の塊ではなかった。

言わば黄金の鉄の塊だったのだ。

そう気付くも既に時は遅きに失した。


件の重騎士は既に殺戮に飽きたのかそれとも

腹が減ったのか、串物と化した鉄槍を手に

篝火を眺め、首を傾げていた。まず間違いなく

ロクな事を考えていないだろうと思われた。


残る3体は最早これまでと撤退を企図し

ユニカが投球姿勢にないのを良い事に

即時逃走しようとした。


が、暗がりより精兵らが飛び出して次々始末。

こうして真西を目指した羽牙は1体残らず

屍と化し、精兵らはヴァルハラ屋上に散乱する

肉片を何とも言えぬ表情で回収し始めた。

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