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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
1071/1317

サイアスの千日物語 百四十四日目 その十三

中央城砦二の丸は、外郭北防壁の東半分と

東防壁の北半分を、共に外側へと50オッピ

程度延長した格好で中央城砦に増設されていた。


俯瞰したならば正方形な中央城砦のうち、

北東の頂点を摘まんで引き出したような形状

をしており、最も手広い北東が二の丸全体

での中枢となっていた。


中枢域の南方となる外郭東防壁の東手、

俯瞰すれば「┓」の下部においてはさらに

下方、南へと二の丸を増設するための資材が

保管されていた。


流石の異形らも角材や鉄骨は喰らわぬし、また

掻っ攫おうにも嵩張りすぎる。よって羽牙らは

この一画には目もくれず、飛行速度を

落とす事が無かった。





二の丸の防壁は総じて高さ2オッピであった。

平原の城郭としてはごく標準的な高さだが

荒野の異形はこぞって大きく能力も高い。


陸生眷属「できそこない」なら余裕を持って

飛び越せる高さであり、空を往く羽牙には

何の障害にもならない。


そして二の丸防壁の厚みは半オッピ程度。

申し訳程度に通路めいた溝がある、歩哨を

立てぬ壁であった。


そのため羽牙一個飛行軍団残存兵力220は

瞬く間に羽ばたく羽音と飛影で二の丸南部を

塗りこめてゆき、そこで針路を三つに分けた。


一つは針路をそのままに保ち真西へと。

城砦内郭北西区画へと進む一群だ。敵陣中央

へと深く切り込むこの一群には50体ほどが

割かれていた。


次に針路を北西に採り、城砦外郭北東区画の

兵溜まりを目指す一群。こちらにもやはり

50体ほどが割かれ、残るは120体。


最も多い最後の一群は先刻火竜の砲撃を避けた

挙動を再現するかの如くにして北へ直角に。

二の丸南部を北進しその中枢区画を狙う構えだ。


羽牙220体はまるで何度も綿密な演習を

重ねてきたかの如く一切の逡巡なく挙動して

一気に3方へと展開した。





「……西と北西は囮」


二の丸南部で一気に割れた暗い雲霞の

群れを追い、軍師ミカガミが声を発した。



「本命は二の丸中枢、2基の火竜。

 先の『魔笛作戦』で敵方のこうむった損耗を

 思えば、まず妥当なところではありますね」



とルジヌは頷いた。


儀式魔術と火竜2基を用いた大規模な

「見世物」は、奸智公爵にとりさぞ鮮烈な

印象を与えたろうと、納得できる点も多かった。


ルジヌはさらに



「外縁部であれば撤退し易いという判断もある

 のでしょう。奸魔軍とて航空戦力の統べてを

 ここで使い切るつもりはないでしょうから」



とも述べた。



羽牙一個飛行軍団による強襲の真の目的とは

中央城砦より南南東1000オッピ地点の

オアシスに展開するアイーダ作戦主力軍への

揺さぶりにある。そうルジヌらは考えていた。


中央塔ではオアシスの主力軍でコロナらが

成した試算。すなわち今中央城砦を襲う

この羽牙らが南西丘陵の橋頭堡に詰める

奸魔軍の航空戦力のほぼ総数である事を

把握していた。


此度の攻めで目減りした分は大湿原に残存する

「野良」から改めて補充するにしても、そちら

の予測潜在数が800を切っている。徒な消耗

は是が非でも避けたかろうとは思われた。





「迎撃部隊の展開状況は」


「外郭東防壁上に第一戦隊教導隊30。

 内郭南東区画に第一戦隊精兵30兵士30。

 内郭北東区画に第一戦隊精兵20兵士20。

 二の丸の中枢に第一戦隊兵士50。


 また本城中層のヴァルキュリユル2個小隊は

 それぞれ南北の外郭防壁上へと移動する意向。

 ヴァルキュリユルは別途西防壁にも1個小隊

 を展開しています。


 上記総数255、加えて中層に工兵20。

 南北の城門と二の丸城門に計45。

 以上320名に若干名を加えたものが

 当方の迎撃戦力となります」



此度のルジヌの問いにはシラクサが。


念話で応じるのに合わせミカガミが

城砦俯瞰図に配置状況を付加していく。


中央城砦は一辺およそ800オッピと広大な

敷地面積を有しており、既に各所へと配されて

いる兵を今から動かして間に合う状況ではない。


よって強襲する羽牙220体へと即応できる

部隊としては、まずは本丸外郭東防壁上に

展開中の第一戦隊教導隊。城砦騎士ルメール

率いる「ブラックマッスルズ」の30名。


次に内郭北東区画に展開中の城砦騎士ユニカ

率いる第一戦隊精兵衆「ビューティフラワーズ」

20及び主力大隊一般兵1個小隊20計40名。


あとは二の丸中枢に通常配備されている

第一戦隊副長大隊一般兵3個小隊計50名だ。


幸いシラクサと祈祷士らのお陰で、どの隊にも

即時指令が伝達できる。防衛戦の指揮を預かる

ルジヌにできる事は極めて限定的ではあったが



「二の丸中枢の3個小隊に退避命令。

 高台の火竜から可能な限り遠ざかり

 最寄の施設に避難するように」



との下令を発した。





残存兵力220体の羽牙のうち過半数たる

120体が向かう二の丸中枢に詰める50名は

一言で言えば二線級の部隊である。数で倍する

敵勢に対して応戦したところで壊滅は必至。


よってルジヌは中枢の高台に設置された

稼動状態にある火竜2基を諦める事とした。

ただしタダで好き勝手させるのは癪に障るため



「北防壁のヴァルキュリユルには

『火竜』を火矢にて狙撃するよう伝達を。

 1体でも多くの羽牙を火竜の道連れと

 成すように、と」



と追加の令を発した。


また、ルジヌは残る羽牙各50体の向かう先に

ついては、城砦騎士が詰めている事から生半な

事では遅れを取るまいとして、現場で指揮を

執る騎士の判断に一任する事とした。



オアシスの戦局より遥か北方、高台に建つ

中央城砦を強襲する奸魔軍の独立機動部隊、

羽牙一個飛行軍団の残数は推定220。


連合軍との合同となる大規模な城外展開を

受けて極小規模となっている城砦騎士団の

残留員数のうち、羽牙らの侵攻先にて

待ち受ける員数は70余。


遠く東方、今も戦の絶えぬ東方諸国にて

連綿と伝わる兵書においては城攻めには

3倍の兵を要すとある。


そして此度の攻め手らは、即時的に有意な

戦力差において、この要件を満たしていた。


まるで予断の許されぬ深夜の一戦は

こうして開始されたのであった。

1オッピ≒4メートル

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