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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
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サイアスの千日物語 百四十四日目 その七

俯瞰したなら東西に長い、巨人の足跡にも似た

歪な楕円様のオアシスの泉。その南北に陣取り

睨みあう、城砦騎士団500余と奸魔軍522。


奸魔軍には上位眷属「大口手足増し増し」が

2体含まれる。これの抱える卵鞘の中身は

大口手足の幼体60体だ。よって奸魔軍の

実数は642とも言えた。



「水準戦力指数に基づく推定戦力値、

 彼、16000。

 我、10000。


 天の利は敵に。夜間戦闘により係数1.5

 地の利は当方に。野戦陣により係数1.5。

 人の和は当方に。閣下の指揮で係数2.0。


 また、奸智公爵による統率効果は不明ですが

 傍観者を気取る事から戦端が開かれて以降は

 手を出さぬとの楽観的観測に基づくなら無効。


 よって試算結果としては

 彼、24000。

 我、30000。

 我が軍が圧倒しております」



参謀部正軍師3名のうち最も生真面目かつ

最も苦労性と見られる1名がそう報じた。


正軍師のうちにも序列はある。

大戦において司令官への答申を担うのは

状況下での序列筆頭である軍師の役目だ。


中央城砦での防衛戦ではまずは参謀長が。

次に三役たる筆頭軍師ルジヌなどが専一的に

請け負うためさして問題にはならないが、

野戦では答申の確度の関係から、正軍師間の

序列が重要視されていた。





水準戦力指数は個体差を慮外においた値だが、

敵の数が増えるほど相対的に誤差も減る。

大規模な集団戦では兵群を一塊として扱うため

大抵は除外され、別途の係数で補っていた。


騎士団側の水準戦力値は概算として

第一戦隊兵士らが300名で2900。

第二戦隊兵士らが150名で2400。


二戦隊が半数で一戦隊に迫るのは一戦隊側に

経験の浅い兵士が100程含まれる事に因る。


対して二戦隊は精鋭揃いであり、特に剣聖の

直弟子集団である抜刀隊の戦力指数が高かった。


また城砦騎士は騎士会から適正に応じて

各戦隊へと派遣されるため、戦隊の違いに

よる戦力指数の違いは小さい。


此度は第一戦隊から騎士2名で500

第二戦隊から騎士5名で1150

騎士団長は単騎で250となっていた。


城砦騎士団側の戦力で傑出しているのは無論

騎士団騎士会首席にして第二戦隊長たる

剣聖ローディス。単騎で2000の戦力値だ。


ローディスは一言で言えば切り札(ジョーカー)だ。

どこでどう用いるかで戦局は如何様にもくつがえろう。


そしてこれに攻城兵器である大型のマンゴネル

2基と専従の操主らを加えて先述の推定値となる。





別途の係数としては天地人の三種があり、

天候や地勢、陣形といった多岐にわたる

要素が加味される。


互いに死力を尽くして戦う以上、多くの場合は

相殺そうさいされて計上に至らぬ事も多く、それらは

軍師の脳裏のみで処理され報じられる事は無い。


時は第一時間区分初旬、草木も眠るとされ

異形の最も跳梁し跋扈ばっこする丑三つ時、午前2時。


騎士団としても相応に夜戦に備えてはいるが

相殺しきれぬほど敵方が有利。ゆえに天の利は

奸魔軍にあった。


ただし地勢においては野戦陣の防御力に加え

泉を挟んで対峙することで正面からの攻勢を阻害

している。「陸の異形は水を渡れぬ」と言われ、

仮に渡れたとしてもオアシスの泉は大規模で

かつ騎士団側は攻城兵器で対岸を打ち放題だ。


つまり地の利においては騎士団の有利だった。





さらに指揮効果である。

平原と荒野で百戦無敗を誇る野戦の名手。

「戦の主」または「武王」との二つ名を有する

チェルニーの「指揮」技能値は、軍師の目による

観測が可能な最高値であり、人智の境界とも

呼ばれる10であった。


嘆かわしきは余りにお困り様なため魅力値が

人並みな10である事。これにより指揮効果は

計上可能な最大値である2.0に収まっている。


自称「愛されゆるふわ騎士団長」閣下がいま少し

王者としての威厳ある振る舞いを成したならば、

とは誰もが願うところだが、こればかりは

フェルモリア王家の呪われた血だ。是非も無し。



「要するに。


 あちらが損耗を嫌う以上、

 こちらが退く素振りを見せぬ限り

 あちらからは動きようがないという事だな。


 準備も整ったようだ。では撃ち方始めぃ!!」



騎士団長チェルニーの発したこの号令は



「御意! 二基の照準を同期。

 目標、北岸正面、敵陣中央」



序列最上位の城砦軍師により最適化されて

指揮所正面の二基の大型マンゴネルへ。


兵らは短く応えると巻き上げたマンゴネルの

腕部に人の胴程もある大振りな弾体を配した。



「やっと出番か! 待ちくたびれたわー。

 それじゃ燃えろー! あはは!」



高笑いした正軍師、元「光の巫女」ファータは

ブツブツと小声で何事かを唱えつつ、兵士の

差し出す松明へと手をかざした。


ファータの右手、その掌には光の珠が現れた。

珠の正体とは激しくうねり狂う炎の蛇であり

そこに左手が添えられて時に赤黒く時に眩しく

激しく灼熱しとぐろを巻いて



「行け! ちび竜たち!」



との声と共にマンゴネルへ。

装填された弾体へと踊り掛かった。





炎の蛇たちは宙を泳いで弾体へと迫り、

不可思議にもその内側へと溶けるように

潜り込んだ。


1拍。周囲の輝度は夜に戻り、突如弾体

そのものが激しく燃え盛る宝珠へと変じた。


中央城砦が現状30基保有する超弩級

トレビュシェット型巨大攻城兵器「火竜」。

弾体に儀式魔術の要素を有するその弾体を

小型・軽量化したものが、これであった。



轟々と燃え盛る宝珠を得たマンゴネル。

不思議な事に炎は兵器本体には燃え移る事が

無かったが、限界までみなぎった張力を解き放つ

べく人の腕ほどもあるレバーが引かれた。


腕部は豪速で持ち上がり、先端の椀部もほとばしった。

振り上げられた腕部は緩衝具で受け止められ、

しなる椀部から火珠が飛び立つ。


本家火竜とは異って、マンゴネル特有の

実に直線的な軌道で二つの炎の宝珠は泉を渡る。


野戦陣の篝火と星月の明かりを映し鱗の如き

光のさざなみを有す夜の泉の水面に映るのは

空を裂き降魔の火勢を顕して邪を屠る

二頭の倶利伽羅くりからの竜であった。



敵が退き、布陣が崩れるのを待つべく

不動の布陣を敷き、まずは様子見にふける肚

であった奸魔軍にこれを避ける術は無かった。



「着弾、炎上! 火勢大なり!」



敵陣中央には火柱が立ち上がり、異形らを

消し炭としつつ渦巻くように周囲を薙いでいた。

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