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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
1049/1317

サイアスの千日物語 百四十三日目 その九十二

荒野に棲まい人を喰らう異形の者共、魔の眷属。

城砦騎士団中央塔付属参謀部が城砦暦107年

第263日時点で独立別個の存在として認定

しているのは14種類。


うち4種が何と107年目たった一年で認定

されているという驚愕の事実があるが

それは今は措くとして。


それら14種のうちでも「魚人」は

最も人に近い存在だと見做されていた。





魚人とは人の手足と魚の頭を持つ異形のことだ。

背格好も人に近く、外観上明確に異なるのは

総身が魚鱗に覆われている事、そして専ら

水中で暮らす事。


多くは曇り空に似た鈍色の体色をしており、

一部橙や赤といった派手なものが混じる。

また体幹部には人寄りと魚寄りがあり、専ら

人寄りの者ほど色味が派手な傾向があった。


体幹部の形状の差異は少なくとも陸戦における

戦力指数差としては表れないが、大抵の場合

色違いの者が指揮官を務めていた。


そう、魚人は城砦騎士団戦闘員と同様に

班や小隊を編成して動く。基本編成としては

1班5体。うち1体が色違いといったていだ。



人と魚人の類似は外観のみに留まらなかった。

例えば魚人は、人が荒野の異形を前にして

竦み戦えぬ理由を知っていた。


血の宴で億の民を屠られた恐怖の刻印が人の

心央に根付いていることを知っているのだ。

よってこれを存分に活かした。


平原の人が荒野の異形に対し戦闘を選択し

得るにはいわゆる「恐怖判定」に成功せねば

ならないが、魚人は積極的に不安や焦燥恐怖を

煽り失敗を誘発しようと努めるのだ。


戦力のみならず、常に心理的に人を圧迫し

上位に立つ事を好んだ。その一方で敵の

情勢を鋭敏に察知。勝てぬと見るや即逃げた。


詐術を好み戦術を駆使して敵に当たる。

これは元来人の好むところでもある。

こうした点では人と魚人は特に似ていた。


だからこそベオルクらの策が活きるのだ。


兵書や故事に言ういわゆる「借刀殺人しゃくとうせつにん」や

「漁夫の利」の何たるかを魚人は判っている。

ゆえに人と魚人との見せかけ上の共闘が

成立し得る。そういう権謀術数であった。





ミンネゼンガーが北方河川の最も南にうねった

遠浅な水場、すなわち大回廊の北端域に南へと

並ぶ二つ目の窪地を構築し終えたのは午後8時。

第四時間区分初旬の事であった。


大回廊を南へと20オッピ四方浅く削っては

東西の縁に堤を造り内側には煉瓦を敷き詰める。

二つ目の窪地ではこの一連の作業に2時間弱を

費やしていた。


三箇所目からは窪地と窪地との間隔が

これまでの倍な10オッピとなっていた。


最初の二つの窪地は判り易い誘いであり、

魚人が乗るかどうかを推し量る意図もあって

敢えて短くしていたというのが真相だ。


以降は全て10オッピ間隔で南へと窪地を

構築する事となる。もっとも城砦より運んで

きた施工用の物資は三つ目で尽きる。


遠からず取水任務で超特大の貨車と共に

城砦へと帰還した部隊が「お代わり」と共に

戻ってくる手筈だ。


ミンネゼンガーの総大将ベオルクは

当日の作業分を窪地4つ目までとして、

軍師マッシモらに野営地の選定を命じた。


こうしてグントラム作戦の主力大隊たる

ミンネゼンガーは第四時間区分終盤となる

11時に当日の予定進捗していた

4つの窪地の構築を完了した。


4つ目の窪地の南端は大回廊北端の水場より

概ね110オッピ。これは城砦外郭北防壁の

西端まであと590オッピでもあった。


ミンネゼンガーは一通り施工を終えると

周囲の篝火をすべて消した上で並行して

設営していた野営地へと移動した。


野営地は北から4つ目の窪地の南端より

概ね東に100オッピ地点。こちらでは

煌煌と篝火を炊き上げ周囲を厳に警戒した。


無論これもまた、誘いであった。





「では三人とも、宜しくお願いします」


中央城砦外郭北防壁の城門にて。

独立機動大隊ヴァルキュリユルの代将、

第四戦隊兵士長たるディードがそう告げ頷いた。



「了解!」


「引き受けたぜ」


「任せといて。そっちはお願いね!」



ランド、ラーズ、ロイエ。


ヴァルキュリユルの幹部として

各部隊の指揮を担うサイアス小隊の

3名は、それぞれディードに応じ敬礼した。


時やや遡って第四時間区分初旬。

午後6時30分の事であった。


城砦近隣は無数の篝火のお陰で明るいが

既に夜の帳は深く、重く降りている。


帰還途上で夜になることはあっても

わざわざ夜間になってから出動するのは

ランドとロイエにとっては初の事だ。


夜は闇の異形らの時間である。

元より敵地の只中、陸の孤島の事でもあり、

3名の表情はいやがおうにも引き締まっていた。



此度の平原西方諸国連合軍との合同作戦

として荒野で騎士団側が遂行する三つの作戦。


すなわち「アイーダ」「グントラム」そして

「ゼルミーラ」に対し、ヴァルキュリユルは

初動以降、独自の裁量で参画する事を

許されていた。


ゆえにアイーダでは高台南東に拠点を築く等

奔放なまでに遊軍活動して比類なき成果を

上げたものだが、続くグントラムにおいても

また同様に、勝手気ままに動く気満々であった。


もっとも情報の授受は常に万全に行なっており、

幹部らはベオルクらミンネゼンガーが岩場へは

赴かず大回廊そのものに細工をし始めた事を

承知していた。


よってそれを受け軍議をおこない方針を採択し

その上で出動するのがこの3名。そして3名の

率いる3つの隊であった。

1オッピ≒4メートル

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