表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
1033/1317

サイアスの千日物語 百四十三日目 その七十七

中央城砦内郭の北西区画に鎮座する、縦にも

横にも嵩張る巨漢らが一度に1000名利用

できるという超弩級巨大食堂、ヴァルハラと

ほぼ同規模となるオアシスの野戦陣。


アイーダ作戦に参加する600余の兵員らは

概ね小隊単位かつ30分刻みにて、食事に

小休止、施工に哨戒と各々シフトしつつ

任務にあたっていた。


第一戦隊戦闘員は卓越した身的能力を持つゆえ

工兵としても好適する。食事前の腹減らし、

或いは食後の腹ごなしとばかりに積極的に

野戦陣の施工に参画。


そのお陰もあり野戦陣東手の第一第二の二枚の

防壁は午後1時の時点で既に仕上がり、火罠の

設置は二戦隊からの兵員に任せて西手の防壁

へと取りかかっていた。


現状ヴァルキュリユルに所属する工兵100の

うち中央城砦へと帰投予定の50名は、東手の

防壁建設までが当地での役目であった。


今は遅まきながらの食事と小休止にあたって

おり、2時に当地を出立する予定となっていた。





騎士団長チェルニー以下アイーダ作戦における

幹部衆は午後1時の時点でホプロンまたは

バックラー盛りの食事を摂りつつの小休止を

終え、ここからは軍議という名の小休止に入る。


この頃には予定以上の進捗を以て指揮と施工に

当たっていた中隊長級の騎士らや主力軍とは

完全に別働して周囲の哨戒に当たっていた

騎兵隊を率いるデレクなども顔を見せていた。


共に第四戦隊幹部でもあるサイアスとデレクは

早朝に営舎を発って以来完全に別行動であった

ため、主力軍の動向も含めこれまでのそれぞれ

の隊での顛末を確認したりしていた。



「『大口手足増し増し』?

 しかも『雄』が出たのですか……?」



サイアスは早速傍らでどかりと寛ぐ

騎兵隊長デレクにそう問うた。



「ん? 何かマズいのか?」



出くわした時点で色々マズいに決まっては

いるが、さらに最悪でもあるのかとデレク。



「以前読んだ資料では、大口手足は

 雌雄同体との推測が成されていました」


「ぅへ…… んじゃインプは

 一応マトモにモテてたって事か?」


「まぁその辺を掘り下げるのは

 またの機会という事で」


「うむ」



こうしてインプモテ説は放棄され、



「背に何も担いで居なかった、という事は

 既に幼生が孵化を終えていた、という

 可能性をも示唆していますね」



とサイアス。

デレクは恐る恐るといった風に


「ぅげぇ……

 一度に何匹くらい産むんだ?」


と尋ね、他の騎士らが腕組みし

身を乗り出すようにうかがう中、サイアスは


「前回は60体でした」


と淡々と。



「ぎゃああ」


「食後で良かったぜ……」



デレクが盛大にのけぞって

ファーレンハイトが嘆息した。





「どこにポコジャガしたんだろうな」


とのたまうのは、何でもポコジャガする

フェルモリア大王国の王弟殿下たるチェルニー。


「そりゃぁ岩場じゃないかねぇ」


とファーレンハイト。


奸魔軍としては昨今岩場で数を減らした分の

補充を兼ねて寄越していたのではとの説で、

これにはセルシウスやアトリアも頷いていた。



「育児が済んではっちゃけたヤツ

 だったのか、アイツは」



とデレク。そこでサイアス曰く。



「そこで引っかかる点としては」


「点としては?」



セメレーがすかさず合いの手を入れ、一同が

再び身を乗り出す心地となったところで



「今が産卵のシーズン?」


「いやぁああ!」


「マジで食ったあとで良かったぜ……」



セメレーとデレクがハモって嫌がり、

ファーレンハイトが再び嘆息した。





「アトリアの暴れっぷりも大概人間離れして

 いるが、サイにゃんもまた無茶苦茶な……」


野戦陣での一戦の顛末てんまつがサイアスから。

先刻のサイアスの一戦の顛末がローディス

から詳報され、チェルニー以下誰もが呆れた。



「手下2体付き、戦力指数30の上位眷属と

 単騎でやり合うとか、頭おかしいんじゃ

 ねぇのかお前……」



ファーレンハイトは率直な感想を述べ

これには大多数の騎士らが賛意を示した。


特にできあがりと同規模の戦力指数を有する

オッピドゥスの強さを間近に見知っている

第一戦隊の騎士らは、開いた口がふさがらぬ

といった風であった。



「私はおかしくありません。

 おかしいのは常に世の中の方です」


「どっかで聞いたぞその台詞」



サイアスの言にチェルニー以下周囲の視線が

師匠筋へと集まったが、師弟は共々に

まるで素知らぬ風であった。


もっともサイアスは



「いざとなったら飛んで逃げられるため

 単なる時間稼ぎであれば余裕を持って

 成しえたというだけの事ですね。


 実際に撃破なさった剣聖閣下とは

 随分事情が異なります」



と補足。


「飛べる時点でもうおかしいってのぁ

 突っ込んじゃ駄目なんだろうな……」


と魁偉なる容貌を盛大にしかめる

僧形そうぎょう黒衣のファーレンハイト。


「駄目です」


そういう事であった。





「『できあがり』とやらは『蟲毒こどく坩堝るつぼ

 産で良いとして、羽牙の親玉らしきものに

 ついては、さて何と見立てたものかのぅ……」


口元に手を沿え思案げなウラニア。


「カペーレの中身だったヤツだな?」


とサイアスに確認を取るチェルニー。


サイアスやアトリアと同様に、

かつて直に対峙した事があった。


サイアスはこれに頷いて


「宴の二夜目、中央塔上層で

 戦闘に及ぶまで翼は4枚でした。


 戦闘で一枚切り落としたのですが、

 その影響か今回は5枚と腕1本でしたね」



と説明し


「次は6枚と腕2本でしょうかね」


とアトリアが推測した。



「荒野の奥地の羽牙には、手足の残滓が

 あると言うな。案外、最終的には

 首胴手足が全て揃うのかも知れん」



とチェルニー。


宴の二夜目に大口手足をぶら提げて電撃戦を

敢行した「羽牙玉」と呼称された固体には

実際にそうした特徴が見られていた。


「『4枚羽』という呼称はもう使えぬようだ。

 サイアス。新たな名を決めるといい」


とローディスに促され、


「ふむ、では……」


とサイアスは思案しだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ