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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十二日目 その十三

今や補充兵194名は三つの群れに分かれつつあった。

一つ目はこれからの訓練に理解と覚悟を示し、一刻も早く出発すべく

号令を待つ人の群れ。ロイエや志願兵たちがそうだった。

彼らは時間の経過が状況の悪化を招くことを理解していたため、

騒いで動かぬ集団に苛立ちを隠せない者も多かった。


二つ目は素人集団の補充兵の群れ。こちらは二周分の疲労と初めて

感じる眷属の息遣いに怯え竦み、満足に身体が動かないようだった。

ランドや件の男がこの群れに属していたが、この二人に限っては、

怯えているのは外面だけのように思われた。


三つ目は傭兵団と思しき群れ。彼らは中心人物を守るように

独自に隊伍を組み、さらに拳に石を握りこんだり皮や布で

即席の投石具、スリングを用意したりと、戦闘準備さえ整えていた。


サイアスは西側で見かけた初見の眷属について、

教官へ聞き込みを行っていた。教官役の兵士いわく

「大口手足」と呼ばれる種で、大柄な首なし男の外観をして、

胴体が巨大な口になっているとのことだった。

跳躍力と膂力にすぐれ、敵を捉えて抱きすくめ、そのまま食する

そうだった。戦力指数は6から7。かなり危険な相手と言えた。


オッピドゥスはこうした補充兵たちの有様を、

暫し苦笑混じりに眺めていた。だがやがて城内から伝令が現われ

何事かを伝えると大きく頷き、息を大きく吸い込んだ。

サイアスや教官たち、そして志願兵や傭兵集団は、

その様を見て即座に耳を塞いだ。



「聞けぇえええぇいっ!!」



オッピドゥスの爆音が荒野に響き渡った。素人集団な補充兵の

群れは硬直するか転倒し、南方で様子を窺っていた

できそこないの群れは慌てて逃走を開始した。


補充兵194名、及び周囲に展開していた兵士たちは、

一人の例外なく物理的に沈黙した。オッピドゥスはさらにズシン、と

足を踏み鳴らして大声で叫んだ。


「お前たちが何のためにここに来たかを思い出せ! 

 泣き言を喚き、味方を危険にさらし、

 人の世を滅ぼすためにやって来たのか? そんなことはあるまいぞ!

 千差万別の事情はあれど、何事かを成すべくここに来たはずだ!

 ならば自らの誇りにかけて、毅然と立って命令に備えい!」


逃れようのない叱咤激励を受け、

疲労と悲嘆に暮れていた補充兵の群れもそれ以上嘆くのをやめた。

それを受け、オッピドゥスはやや穏やかな声で言った。


「貴様ら全員を単なる餌として差し出したところで、

 城砦には何の益もないのだ。心配せずとも警護は付く!

 無論警護が付いたとて、命の保障など一つもない。

 が、それが戦場、それが荒野というものだ!

 覚悟を決め、粛々と隊伍を整えるがいい」



オッピドゥスの言を受け、教官役の兵士たちが10名一組の小隊を

構築すべく手配を進めた。オッピドゥスはその様を眺めつつ、


「サイアス! お前には別途任務を与える!」


と呼ばわった。


「拝命します」


サイアスはオッピドゥスの前に進み出て敬礼した。


「うむ。お前には補充兵の警護にまわって貰いたい。

 南の一辺は南門の警備部隊がこれを警護する。

 教官衆は補充兵に先立って東の一辺へと進んだ後、

 東の一辺の警護にあたる。西の一辺は俺がここから即向かう。

 お前は城砦本城を北に抜け、北門の外で北の一辺を警護せよ。

 本城と北門の兵士には話が通っている。北門はお前が出た後閉門する」


「了解しました」


サイアスは躊躇いなく返答した。オッピドゥスは頷くと、


「武器は台車にあるものを好きに使って良い。

 それと数名、使えそうな補充兵を見繕って連れて行け。

 北方は河川があるため敵の侵攻の可能性が低い。

 だが絶対にないとは言い切れん。やんちゃな魚人のひと群れも

 出張ってくることはあるだろう。


 お前は既に魚人の群れと交戦した上勝利している。

 兵士の中でも適任だ。補充兵の隊伍が全て通り過ぎるまで

 北門前方で警備を行い、その後は補充兵の最後尾に付いて

 殿を務め、戻ってこい。期待しているぞ!」


「お任せください」


サイアスは敬礼して返答し、台車へと向かった。

そして意気揚揚と武器の物色を開始した。


「うわぁ…… 鼻歌混じりで武器選びしてるよ。

 どういう神経だ? ちっとは怖いとか思わんのかねぇ?」


「いやぁ、かっこいいねー。あんな風になりたいものだよ」


「うへぇ…… あんたも大概前向きだよなぁ。

 まぁグダグダ言っててもしょうがないか。 

 とりあえず、ランドに付いてけば助かるかな……」


「あぁ君、いざとなったら僕を盾にする気か……」


「い、いやだなぁ? そんなことはしないから!」


「ふふ、死なばもろともさ。ふふふ……」


「うっ、こっちもやべぇ! どうすべぇ!」


幸か不幸か、件の男とランドは同じ隊伍に編成されたようだった。

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