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サイアスの千日物語  作者: Iz
第六楽章 光と闇の交響曲
1010/1317

サイアスの千日物語 百四十三日目 その五十六

城砦騎士団の頭脳というべき中央塔付属参謀部。

この叡智の殿堂に集う、平原4億の人の頂点

たる賢者集団、城砦軍師や祈祷士は概ね40名。


そのうち8割は女性であり、

さらに8割は「妙齢」であった。



当節平原の大半の生活圏においては

10代半ばを以って成人と見做す。


平原中央の3大国家で言えば

トリクティアが14、フェルモリアが16。

そしてカエリアが18となっていた。


いったいに人口が多いほど成人が早く、

国家が安定している程成人が遅かった。


東西に長い楕円をした平原のど真ん中に在り

最大の国土を有するトリクティアは、今も

膨張主義を体言し外縁部で何らかのいさかいを

起こしている。


逆にこのトリクティアと森林や雪原、山脈と

いった明確な天然の国境で隔てられた南北の雄、

フェルモリアとカエリアはトリクティアより

人口が少ない。さらにフェルモリア大王国は

国内の反乱が少なくなく、カエリアは厳しい

自然の影響もあり内外に敵が少なかった。


こうした要素がすべてこれら三国の

成人年齢の違いに反映されていた。


さらに申さば平原西方諸国だ。

血の宴による崩壊からの復興の最中にあって

国土も人口も安定も以前低調であり成人年齢

以前の問題として乳幼児の死亡率が高い。


よって成人年齢などあってないようなものだが

少なくとも現状西方諸国連合の不戦協定のお陰で

国家間の表面上の諍いは一切ない。よって人口は

微少なれど漸増ぜんぞうし政治的には安定していた。


ゆえにこれら西方諸国では、連合軍の

規定に従いこぞって成人を15と定めていた。

その上で戸数に応じた成人が兵士提供義務の

対象とされていた。


要は。15歳になるまでは見逃してやる。

以降は魔軍への生贄とする。そういう事だ。


これはトリクティアよりは遅く

そしてフェルモリアよりは早い。


これが直接的には魔軍の脅威に晒されぬ

平原中央の三大国家が、城砦陥落と共に滅ぶ

命運にある西方諸国に掛けた最大の慈悲だった。





とまれ兵士提供義務の対象は、三大国家含む

西方諸国連合各国の成人男女。数値的には

15から45の壮健なる男女とされていた。


こうして送られた補充兵は荒野で異形と邂逅し

会敵し、狂気に侵されず戦い勝利できれば

城砦兵士となる。


補充兵が訓練課程を経て新兵と成る確率は、

当節なら8割強とかなり高い。さらに新兵が

実戦を経て城砦兵士と成る率も、自ら率いた

兵は必ず生還させる若き英雄サイアスの登場で

全体として従来に倍する8割弱に至っている。


お陰で黒の月、闇夜の宴という暗黒の饗宴に

参ずるまでの300日程度の間であれば、

兵らの生存率は爆発的に上昇していた。


さて荒野の異形と対峙し対決して勝利し生還する

という事は、「魔力を得る」という事でもある。

魔力を得た者は平原では有り得ぬ何らかの

才なり特色を開花させる事となる。


その最たるものが「軍師の目」であった。

持ち前の知力の高さが必要条件として常に

重く圧し掛かるものの、つまりはサイアスの

登場以降、従来に倍する城砦軍師誕生の契機が

生じていたのだ。


人の能力値の平均は9である。これにおける

知力15とは数百名に数人混じるかどうかの

希少さだが、それでも年に数千送られてくる

補充兵になら二桁は居る。


そしてそうした補充兵らが緒戦で8割も

生き残ったなら、軍師の目の発現者も

従来より多く混ざるものだ。


そのうち最前線に在るよりも後方支援を指向し

深謀遠慮の探求に余生を捧げようと志向する

者は、大抵元より一歩引いた位置から物事を

眺めるのを好む者だ。


これらは戦隊で言えば「城砦の店員」とも

呼ばれる第三戦隊員で、兵種で言えば後方より

敵を見定めこれを射る弓兵である事が多かった。


そして第三戦隊に属する弓兵は、総員女性の

長弓部隊をはじめ女性が多い。自然城砦軍師

に成らんと欲する者は「妙齢」の女性。

そういう事であった。





妙齢。

この語の「妙」とは「少女」という意味だ。

要はうら若き乙女である事を意味しており、

実年齢はともかく「うら若き乙女」と称される

生き物が数名も集まればそれはもうかしましい。


特にこれを威圧し抑えるお局様とでもいうべき

年長者がおらねば大変な事になる。現に割りと

大変な事になっていた。


本「アイーダ」作戦に随行する中央塔付属

参謀部構成員は計10名。軍師6名祈祷士4名。

合わせて40程しか居らぬうちの3割弱が

参加していた。


このうち軍師に関しては正軍師3見習い3。

祈祷士の方も半数は新米であった。つまり、

一旦騒ぎ出すととにかくキャッキャと喧しい

のであった。



「……ウゼェ。何でこうもやかましいのか」


「人選はお前だ。せめてルジヌは

 入れておくべきだったな」


「うぅ、それを言うな」



ぶっちゃけ年齢と見てくれで選んだ。


その結果がこれだ、とすっかり頭を抱え、

抱えつつも適宜書状の内容を語って聞かせる

騎士団長チェルニー・フェルモリア。


聞くにつれローディスやファーレンハイトの

目付きは鋭く険しく、継いで仄かに柔らかく。

実に複雑に変化していった。





「……そうか。

 自ら進んで囮と成りつつ

 俺たちの命まで救おうというのだな」


悲哀の影を宿し瞑目するローディス。


周囲には知らぬ間にウラニアやセメレー他

城砦騎士衆が集まって、共に話を聞いていた。



「あぁ。悲しい程に優しい男だ」



チェルニーもまた仄かに目を細め頷いた。



「だが一方でとことん頑固でもある。

 余計な所が父親ライナスに似たようだ」


「そうですな……」



嘆息するローディスにそう応え

目元を潤ませるファーレンハイト。

他の騎士らは言葉を紡げぬようだった。



「それで、どうする?」



再びチェルニーを見据え問うローディス。


何時の間にかあれだけ姦しかった

軍師衆は静まり返っていた。



「無論、乗るとも。

 折角用意してくれた『退路』なのだ。

 感謝しつつ存分に活用させて貰おう。


 アレの望み通り一人でも多くの兵が

 無事に城砦へと帰還できるようにな」

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