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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十二日目 その十一

城砦の南門前から防壁に沿って東へと向かった

オッピドゥスと補充兵194名及び教官役の兵士たちは、

途中北門前で小休止を挟みつつ、一時間半強で

出発地点の南門前へと戻ってきた。


緊張のためか補充兵の殆どは然程疲労を感じてはいなかったが、

いざ出発点まで戻ってみると、安心したせいか

肩と足が急に重くなったようだった。


「よぅし、小休止だ! 少し身体をほぐすが良い!」


オッピドゥスがそう告げると、早速件の騒がしい男が座り込んだ。


「ぐはぁ。ただの早歩きでこんなにクるか…… 

 今日はもう、これで終わりでいいんじゃね?」


「……ん? ようやく身体が慣れてきた気がするんだけど」


騒がしい男の問いかけにランドが答えた。


「なんだかんだでガタイ良いからなぁ、あんた……

 でも俺はもう無理! 貴公子にこれは辛いって!」


「あはは、貴公子ときたか…… もっとそれっぽい

 サイアスさんはほら、あっちで談笑しているよ?」


サイアスはロイエや他数名の志願兵と談笑しつつ、

へばった補充兵の面倒をみていた。腰や膝の曲げ伸ばしを

させ、体重移動のコツなどを話しているようだった。


「あいつらはほら、あっち側のイキモンだから……

 俺たちは文弱の貴公子じゃん! 重いモンとか持たないじゃん!」


「昨日鉄槍投げたじゃん…… 

 それに死んじゃったら泣き言も言えないしね。

 それと…… 君、言うほど堪えてない気がするよ?」


ランドは僅かに目を細めて男を見やった。


「な、なんだよそれ。ってかさ? 身体はそりゃもう

 ボロッボロだけど、特に危険とかはなかったなぁ?」


それを聞いて、教官役の兵士たちと

補充兵を遠巻きにして眺めていたオッピドゥスが大笑いした。


「ガッハハハハ! 当たり前だ! 魔も眷属も馬鹿じゃない! 

 一個戦隊規模の兵士が練り歩いてるところに、

 わざわざ突っ込んでくるわけがあるか!」


「へっ? そういうものっすか……?」


「まぁ、2周目までは平気だろうよ! そっからは根性の見せ所だな!」


オッピドゥスはそう言うとニヤリと笑った。


「うわぁ、いやな笑顔してるぜ……」


「坊主、何ならちぃとブン回して身体伸ばしてやろうか」


「ひぃっ! 結構でっす! 

 素敵な笑顔にキュンキュンきたでありまっす!」


件の男は跳ね起きると素晴らしい速度でランドの背後にまわり、

ピタっと引っ付いてオッピドゥスから隠れた。


「やっぱり余力隠してたねぇ…… 

 あ、気持ち悪いから引っ付かないでね?」


オッピドゥスはその様を見て苦笑し、一息入れた後

補充兵全体に向け声を発した。


「よぅし、休憩終わりだ! 速歩には慣れたな? 

 速歩は歩兵の行軍における最高速度だ。その速度で

 移動できればとりあえず問題はない。戦闘時は別だがな!」


平原の水準よりやや速い城砦騎士団の速歩ではあったが、

それでもやはり通常の軍隊同様、戦闘機動のための余力を

十二分に残すものであり、決して全速前進という訳ではなかった。


「軍隊は常に大勢で動く。大勢で動くと何をやるにも遅くなる。

 仮に十万規模の軍勢であれば、子供のお散歩並になっちまうな。

 逆に言えば、少数であるほど速度は上がる。うちの斥候専門の連中が

 単騎で駆ければ、半日掛からずアウクシリウムまで辿り着くぞ。

 まったく化け物みたいな連中だぜ! ガハハハ!」


オッピドゥスは自分を棚上げして化け物呼ばわりし、笑っていた。


「突っ込むべきだろうかね……」


「止せ、罠だ……!」


ランドと件の男は例によって仲が良いようだった。


「一周目は戦隊規模での行軍を行った。次は分隊規模での行軍を行う!

 城砦での分隊は最大50名だ。騎士1に対し兵士が50、これが上限だ。

 実際はもっと少ないがな。これより教官を騎士に見立てて

 戦隊を4分割する。教官の指示に従い行動開始せい!」


オッピドゥスの号令の下、教官たちが手早く補充兵を分割した。


「行軍内容は一周目と同じだ。

 北門で小休止を挟み、ここまで戻ってこい!」


今回はオッピドゥスは同行せず、南門前で到着を待つようだった。

教官役の兵士は各分隊の先頭と後尾に1名ずつ付き、

オッピドゥスに敬礼して準備を整えた。やがて補充兵の4分隊は、

一隊ごとにやや時間を空けつつ、順番に進発し始めた。


サイアスはちらりと時刻を確認した。時刻はおよそ3時半。

陽射しは徐々に傾き始め、二周目を終える頃にはそれが顕著になるだろう。

3周目にそこはかとない不安感を抱きつつ、

サイアスもまた、行軍を開始した。 

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