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ループワールド

作者: スラィリー

稚拙な表現や文章があると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!

静寂な夜、空を見上げれば満月が街をあかるく照らしている。その光があまりに綺麗で妖しくて、まるで世界を浄化する聖なる光のようだ。と感じた。夜道を歩き、住宅街を抜け、僕は街の外れの浜辺にたどり着いた。透明度の高い海が自慢のこの浜辺は、いつもは住民の憩いの場となっていて、夏にはそこらじゅうから観光客が訪れる街のシンボルである。この海で夏の思い出を作り、日常の喧騒から離れ心身を癒される人も多い。それが一転、この夜に関しては、暗い闇の雰囲気を漂わせる不気味な怪物のように僕には感じられた。夜で薄暗いせいなのか、月の明るさと海の黒さとの対比からか。それとも、僕の心を鏡のように海が映しているせいなのだろうか?



「生きるって、難しいな!」

ポツリとつぶやいた声は、夜の街に消えていく。側に誰かがいたら、なんて答えを返したのだろうか?

「いつからだろうか、素直に楽しく生きれなくなったのは。戻りたいな、あの頃に。」

そう、純粋でいられたあの時代に……………。

「夏休み、何する?受験前にパーッと遊びたいし、旅行でも行く?」

「お、いいね!旅に行って上手いもん食ってさ♪」

「それから、現地で可愛い女を見つけてさ!」

「ったく、コージは女好きやなほんまに(笑)」

「うるせ!サトルは彼女持ちやから余裕こけるんだよ」

明るく女好きなコージ。読書家で冷静なサトル。そして僕。幼稚園からの幼なじみ三人組。小中ときて、高校まで三人一緒になるなんてみんな夢にも思わなかった。しかもクラス替えのない進学クラス。ここまで来るともはや運命なのでは?と僕は思っていた。

受験前で高校最後の夏休み。おそらく、三人一緒に過ごす最後の学生時代の夏。僕たちは旅に出た。行き先はコージのあの一言で決まったのだけど。

「海!絶対海がいい!夏といえば海にBBQ、それと水着のお姉さん‼」

「お姉さんには同意しかねるけど(笑)。確かに海いいな!サトルはどう?」

「海でBBQはたのしそうやなぁ。夏らしいし、異論はないよ!」

こうして、僕たちは旅に出たのである。



行き先は広島だった。理由は二つ。一つは、近畿を出ること。これはどうせなら遠出をというサトルの意見からだ。もう一つは、牡蠣にある。肉と供に上手い岩牡蠣を食いたい。そう思ったからだった。京都駅から新幹線に乗ると、広島までは2時間程で着いた。宿に荷物を置いて、早速僕らは海に繰り出した。海までは宿の人が貸してくれた自転車で向かった。

広島の海は、今までに見たことがないくらい透明で綺麗だった。コージによると、映画の舞台になったことも多々あるらしい。これだけ綺麗ならいいものが撮れるだろう。

海での僕らはまるで無邪気だった。牡蠣や肉をたらふく食い、海ではしゃぎ、夏を思い切り堪能した。また、僕にとっては運命の出会いも待っていた。

「おお‼さすが広島。綺麗な子がいっぱいやん!」

食後の休憩中にコージがいきなり切り出した。お昼を少し過ぎ、海はたくさんの人で溢れ返っていた。

「どれどれ?気になる」

いつもは冷静なサトルも、夏の陽気からか、コージとともに楽しんでいる。その時ふと、僕の背中に何かが当たった。次の瞬間

「きゃっ!いたーい!」

悲鳴に振り返ると、そこに小柄な女子が倒れていた。それが、彼女……アキとの出会いだった。



夏が終わり、冬が過ぎ、そして僕たちは卒業を迎えた。コージは地元京都の大学に、サトルは東京に。僕はといえば、広島の大学に進学を決めていた。学部が魅力的だったこと。旅で訪れ街を気に入ったこと。そして、アキの存在。あの夏以降、アキに惹かれて行った僕は、秋深まる頃に告白をした。元々大学は候補に入っていた所であったし、アキの側にいたかったのだ。返事は、OK!アキも、僕が広島に来ることを楽しみにしているようだった。

式が終わり、僕たちは校庭にある桜の前に集まった。幼稚園から一緒だった三人が、初めてバラバラになる春。コージは涙ながらに、サトルも寂しそうに言う。

「俺達、ずっと親友だぞ!お前ら、こまめに連絡しろよ!」

「夏とかに帰ったときは、またいっぱいあそぼうな!」

僕も涙ながらに

「俺達は親友だ!いつまでも、これからも。またこの桜の前で再会しよう」

三人の誓いを見届けるように、桜の花びらがひらひらと舞い上がっていた。



広島での生活が二年目に入った春、サトルが死んだ。

「落ち着いて聞いてくれ!サトルが…サトルが……亡くなった。事故だったらしい。」

コージからの電話で知った俺は、すぐに京都に飛んだ。

再会したサトルの顔はあまりにも穏やかで、もう動かないことが嘘のようだった。買い物途中に飛び出してきた車に撥ねられ、即死だったらしい。あの桜の誓いからまだ2年……。あまりにも早すぎる別れ、あまりにも悲しい再会だった。

「サトル……どうして……。」

コージも僕も、ただただ泣きつづけた。涙が涸れるまでは。旧友たちも、サトルの恋人も、突然過ぎる別れをまだ皆受け入れられないでいるようだった。当然、僕たちもそれは同じなのだが。

最期の別れを済ませて、コージと二人あの桜を目指して歩いた。誓いの桜の前で、お互いに不器用な笑顔で笑う。ふとコージが呟く。

「なぁ、俺達は生きるんだよな。サトルの分まで強く楽しく人生を‼」

桜の前で新たな決意がされた瞬間だった。



それからさらに2年。僕らは社会人になった。僕は広島でマスコミ関連の仕事に。コージは関西に残り、スポーツ関連の仕事に着いたらしい。とにかく、二人とも無事に「生きている」。お互いにそのことを心から喜んだ。アキも無事に卒業し、彼女も地元広島の企業に就職した。

社会人生活にも慣れた秋のある日、僕はアキにプロポーズした。

「あのさ、アキ……俺達付き合って長いやん。やから、その……」 

「もう、どうしたん?そがぁに改まって(笑)」

「えっと、やからさ!つまり……」

アキはフフっと笑って

「ねぇ、わたしをお嫁さんにしてつかぁさい」

男としては無様でかっこ悪すぎるプロポーズ。だけど、二人が同じ気持ちでいるこの事実。すごい幸福な時間が流れていた。

結婚から半年、社会人二年目に入る頃に新しい家族が増えることがわかった。年が明け、長女が誕生。僕は新設された雑誌部門の専属ライターとなり、彼女は在宅仕事の出来る部門に移った。家族としての幸せな日々、やりがいのある仕事。公私ともども充実し、幸せの絶頂期だった。そんな中、卒業してから初めての同窓会の知らせが届き、僕は久しぶりに京都に帰ることにしたのだった。



「おー、久しぶり‼元気にしてたか?」

3年ぶりに再会したコージは、あの頃とかわりなく元気そうな様子で、再会の喜びに僕は感動した。

「あ、そういや娘産まれたんやろ?可愛いもんなんやっぱり?(笑)」

「もう、めちゃくちゃ可愛いで!ほんまに目の中に入れても痛くないくらい!」

「いや、それは言い過ぎやろ笑」

「そういや、コージはどうなん?チーフになったって聞いたけど」

「それがさぁ、もうめちゃくちゃ忙しくてな!この前もあまりにほったらかしすぎやって彼女に怒られたわ!」

他愛ない話からお互いの近況まで、僕たちは止めどなく語りつづけた。普段は広島弁に染まった僕も、ここでは自然に関西弁に戻れる。メールや電話で連絡は取り合っていたものの、やはり目の前にすると込み上げるものがある。ほろ酔い気分もあってだろう。僕たちは良く話し良く飲み、そしてこれでもかというくらいよく笑った。

会も終わり、皆と別れ、夜道を歩く親友二人。

「あぁ、ほんまに今日会えてよかった。こっちにはいつまでおるん?」

「それが、でかい仕事入ってて明日の昼には発たなあかんねん」

「そうか、頑張ってるなぁ!」

「コージこそ!活躍してるってみんな言うとったやん!」

「まぁ、俺やしな(笑)ってうそうそ。次はいつ帰るん?」

「んー、できたら春には。娘連れて来いって親父たちがうるさいしなぁ(笑)」

「せやな!なら、春には奥さんも連れてみんなで飲もか」

「うん、そうしよ。それまでお互いまたがんばろな。いうても直ぐな再会なるけどな笑」

秋の夜風にふかれながら、僕たちの誓いがまた一つ増えた。



約束の春。アキと娘を連れて僕は実家に戻った。しかし、そこにコージはいなかった。

「自殺……ですか?」

京都に着いた僕に、一報が待っていた。電話の主はコージの母親だった。

「ゴメンね、私たちも何があったのか分からないの。うっうっ…。昨日まではあんなに元気にしてたのに…。」

涙ながらに聞こえるその声が、耳に入っては反対側に抜けていた。僕はその現実を受け止められないでいた。

「実は、冬頃から仕事でなやんでたらしいの」

「あいつ、彼女とうまく行ってなかったみたいで。」

コージの周りから聞かれる様々な理由。コージは最近気を病んでみたいだった。

「そういや、あいつの元に行ければ楽なのかな?って話をしてたなぁ」

そう教えてくれたのは、コージの大学の同期生だった。あいつ?僕の頭にふと彼の顔が浮かぶ。まさか、コージはサトルの元に行こうとしたのか。サトルが死んだとき、あいつの分まで生きると誓ったのに、そのサトルの元へ?サトルの死は、そこまでコージに深い傷を与えていたのか。



休みが明け、広島に戻った僕たち家族。また今日からいつもの日常が始まる。仕事をして、家に帰れば愛する家族との日常。食べて、寝て、働いて。そうやって1日が過ぎていく。だけど、何のための日常なんだろうか?悩みなどない。不満もない。愛する人に囲まれているし、仕事だって生きがいの一つだ。サトルはこんな日常を得ることなく亡くなってしまった。不運な事故で。しかし、コージは?自らの手で自らの道を断ってしまったコージの心境はどうだったんだろうか。

自殺した親友の気持ちを考える毎日。そのうちに僕は、自分が生きている意味すら分からなくなってしまっていた。

「あなた?きょうび疲れとるみたいね。大丈夫?」

優しい妻アキは心配そうに尋ねる。ここ最近の様子を見てのことだろう。

「すまん、きょうび忙しゅうて疲れとるみとぉなんや」

「大変じゃねぇ、あまりきばらんようにね」

アキには言えない。自分が今考えていることは。愛するからこそ、打ち明けられない。

「ありがとう。アキ、愛しとるよ」

アキはふふっと幸せそうに笑い、風呂に向かうのだった。



生きる理由、生きる意味。生きてて自分が出来ること。考えても考えても、答えなんて見つかるわけがないことはわかっていた。答えのない問いなのだから。

サトルの死。コージの死。二つの死は僕の心を粉々に砕いてしまった。死ぬ意味はない。だけども、生きるのがつらい。僕の心は、この世界に捕われて身動きができなかった。

けれども、時間は進む。1日が終わり、ひと月が終わり、気づけば一年、桜の季節を迎えていた。

昔した三人の約束、コージとの男二人の誓い。気付けば、桜は僕たちの一種のシンボルとして存在していた。僕は桜に向かって叫ぶ。

「誓った二人はもういない。生きるって約束も、僕一人で続けなければいけないのか?」

桜は何も言わない。ただ風に揺られ、ひらひらと花びらを散らせるだけだ。

「二人の元に行こう。あの頃みたいに、また三人でいたい」

決意した僕は、その夜、アキに気付かれぬようこっそり家を出た。街中を抜け、着いたのは思い出の詰まったあの海だ。この場所で終わらせよう。僕はそう呟くと、ゆっくりと海に向かい、やがて、暗闇に飲み込まれて行った。

暗い海はその見た目に反して暖かい。沈み行く意識の中でそう感じていた。懐かしい、昔感じたような優しい感じ。そうだ、これは母親の胎内にいたときと同じだ。

もうすぐ、二人の元へ行ける。悩みからも解放される。二人に会えたら、あの頃みたいにまた三人で楽しみたいな。

ふと、誰かが呼ぶ声が聞こえた。必死で何かを叫ぶ声。この声は……アキ?……よく聞こえないよ。そこで、僕の意識は完全に途切れてしまった。



「先生、患者さんが意識を取り戻しました‼聞こえますか?自分のことわかりますか?」

ここは?まだぼやける目で周囲を見回してみる。機械に繋がれた身体、ベッドに載せられた自分。ここは、病院?確か僕は海に入って……。

「よかった、目を覚まして。あなたは一週間も眠っていたんですよ!」

「目覚めたばかりで非常に申し上げにくいのですが、実は奥様が……」

医者が話した事実に、僕は驚嘆した。

あの夜、僕は死ぬつもりで海に行った。それを追って、アキも来ていたらしい。あの時にアキが叫んでいたのは、

「あなた、行かんで、私を置いて行かんで‼」

だったのだ。アキは、僕を止めようと海に入り、そして溺れた。僕たちは救助され、それぞれICUにて治療を受けていたが、アキは昨日、僕の回復を待たずに亡くなった!と。

どうして……アキが。死ぬつもりだったのは僕の方なのに!なんで愛する妻が!



それから二ヶ月。僕は治療を終え、家に戻った。娘はアキの実家で面倒を見てもらっている。あのあと、僕は少し絶望していたけれど、今はもう大丈夫‼僕は、アキに新しい命を貰ったのだ。

生と死は表裏一体。死の先に生があり、逆もまた然りだ。サトルもコージも、そしてアキも、またこの世界に戻って来る。その時に僕がいないと、彼らは寂しいだろう。世界は廻る、時は進む。あの日、僕は一度死んだのだ。そして、アキの力をもらってこの世に再生した。彼女の思いを継いで、娘と共に僕は生きる。それがどんな道だとしても、もう途中で投げ出しはしない。

桜の木はもうすっかり散ってしまい、あの華やかな様子はない。でも、ここからまた立派な花を来年もまた咲かすのだ!桜と同じ、僕もまた立派な足跡を残す!裸の桜の木を前に、僕は一人誓いをまた立てるのであった。

いかがでしたか?批評などありましたらどんどんお願いします。これからの参考にさせていただきます。

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