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作者: 香瀬

落ち着かない。

心の奥底から何かが沸き上がってくるような、全身の毛が逆立つような……


ふと、窓の外を見る。


漆黒の中にぽつりと浮かぶ、白く輝く丸いもの。

ああ、そうか。今日は満月か。どうりで落ち着かないわけだ。


満月は嫌いだ。

その輝きは太陽のように地上を明るく照らし出すわけではなく、そのくせ夜の空を埋め尽くす星々の上品な光は消し去ってしまう。実に中途半端ではないか?

それだけではない。

非科学的な話ではあるが、満月の日には破壊的な衝動が高まるという。些細なことが何倍もの力を得て自らや他人に降りかかる。

先程から心の奥底から沸き上がってくるものは、恐らくこのような衝動なのだろう。自らの心を制御することが出来なくなる、これほど恐ろしいものはない。

心は自ら決めるものであって、空に浮かぶこんな中途半端なものに影響されるなど、考えるだけで不愉快だ。


しかし、残念なことに俺はそれに抗うことが出来るような屈強な心を持ち合わせていないようだ。現に、先ほどその中途半端な輝きを見てからというもの、足はすくみ、全身から熱が引いていくような感覚にとらわれてしまっている。すっかり恐怖に駆られてしまったようだ。

幼い頃からこうだ。

高い所や暗いところ、お化け屋敷や怪談……そのようなものは平気で、よく「心臓に毛が生えているようだ」と言われたものだ。だが満月だけは恐怖を感じずにいられなかった。満月の夜に母が俺を抱いて外に出たところ、泣き出して一向に泣き止まなかったとも聞いた。恐らく本能的に恐怖を感じていたのだろう。

こういう話をすると友人は大体「お前は狼男か何かか」と笑うが、俺にしてみればあれを美しいと感じる精神の方がどうかしていると思う。月の句を詠んだ詩には共感できず、月見などもう何がしたいのか分からない。恐ろしい。

これは歳を重ねるごとに悪化している。明らかに破壊衝動や恐怖心が増している。今後、どうなってしまうのだろうか。


ああ、こんな夜は早く寝てしまおう。満ちきった月は欠けゆくのみ。目を覚ませばそこは太陽が照らす明るい世界。太陽が沈んでも空に満月は無い。

そうしてやり過ごしていけば、破壊衝動や恐怖心に駆られることも減るだろう。


………膨れ上がったそれらの感情に身体が支配され、大切なものを傷つけてしまうといったことも避けられるだろう。


そう言い聞かせ、ゆっくりと目を閉じた。

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