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「んっ・・・」

俺はベンチで寝ていたらしい。

周りは完全に真っ暗だ。

頭にやわらかい感覚。

上を見るとドアップで伊藤の顔。

「気が付いた?」

・・・まさか

「うわっ」

どうやら伊藤に膝枕されていたようだ。

初めての膝枕が男とか何の冗談だよ。

「いきなり不意打ちとは卑怯だぞ伊藤」

しかも膝枕とかいう余計なサービス付きだ。

「ゴメンゴメン、でも君を調べるためにはこうするしかなかったんだ」

俺が気絶する寸前にも似たようなことを言っていたな。人を平気で殴るなんてひどい奴だ

「んで、どうだったんだ。俺は何か力を持っていたのか?」

しかし済んでしまったことは仕方ない。それにケンカになってもこいつには絶対勝てないだろうしな。

「君は正真正銘、何の能力も無い人間だよ。驚くほどに真っ白さ」

・・・バカにされてるようにしか思えんな。

俺が何の能力も持っていない人間だ、なんて証明するまでもなく紛れも無い事実だ。

「けれど、精神力は強靭だね。僕の力を跳ね返す人なんてこの世に早々いないと思うよ」

古畑と組んで、そういう面は色々と鍛えられたからな。俺もそこは自信がある。

「で、なぜお前が安藤の体を借りているのか、そもそもお前がどういう存在なのか教えて欲しいんだが」

「安藤君の中にいる・・・、二重人格に近いって言えばわかるかな?」

二重人格・・・か。

「安藤君が僕を許容してくれたんだ。これでも宿主探しは結構苦労したんだよね。自分の体に自分以外の精神を受け入れてくれる人なんて滅多にいなからね。本当の安藤君は、自己紹介の時のような人間だよ。気弱な高校生さ」

俺もこんな変な奴を許容することは出来ないだろう。

「さて、そろそろ時間だ。僕も無条件でこうしていられるわけじゃない。じゃあね」

「お、おい。まだ質問したいことが」

そんな俺の言葉を無視し、安藤が目を閉じる。

「僕が現れることは滅多にないから、安藤君を安藤君として接してあげてね。あと、他の人には絶対このことを言わないで」

そう言い残すと俯く。

突如空気が変わった。

しばらくした後目を開け、周りを見回し、俺を発見する。

「安藤?」

そいつは頷く。どうやら伊藤が引っ込んだ(?)ようだ。雰囲気がまるで違う。今のこいつからはプレッシャーというか、そういうのが一切感じられない。

「お前伊藤のことについて何か知らないか?」

安藤は首を振り答える

「僕は伊藤君のことを詮索しない、それが条件だから・・・」

安藤はそう答えた瞬間、立ち上がり帰って行った。

おそらく安藤を問い詰めても何の答えも得られないだろう、そう思った俺は呼び止めなかった。

安藤を見送った後呟く。

「安藤と伊藤、か」

安藤の中に死んだはずの人間が宿っていること、俺には何の能力も無いということ。

というか、そういうことを言うってことは古畑は何らかの力でも持っているのか?

考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ。

俺はベンチでしばらく考え込むのだった。

・・・その日は帰宅が夜八時を超え、妹にひどく怒られた。


 ピピピピピピピピピピ

アラームの鳴る音。朝だ。

今日は天気予報どおりの晴天。気持ちの良い朝だ。

んー、と伸びをする。

昨日は色々あったなぁ。

一番大きかったのが伊藤との一件だな。まさか幽霊紹介よりも印象強い出来事が起きるとは思っても見なかった。

伊藤信吾。安藤の中に宿ったという死んだはずの存在。何も教えてくれないまま消えていった。次にアイツに会えるのはいつだろうな。

起きるか。

 身支度し、朝食を食べ、学校へ向かう。

 教室到着後、俺は安藤に声をかけた。昨日の一件で色々効きたいことがあったしな。こいつが重要な情報を持ているとは思えんが一応だ。

「安藤・・・でいいのか?」

安藤が頷く。

「お前が知ってる伊藤の情報少しでもいいから教えてくれないか?情報が少なすぎて困ってるんだ」

俺が持っている伊藤に関する情報は、昔古畑の親友だったことと本来死んでいるはずであること、そして超能力者であることくらいだ。他の情報は皆無。

しかし、安藤に聞いても答えは返って来なかった。昨日聞いたとおりで、お互いが行ったことへの不干渉という前提条件があるらしい。

ただ、唯一安藤が教えてくれたのは、伊藤を受け入れる代わりの恩恵についてだった。

「彼は、自分を受け入れてくれるならあることを保障するっていったんだ」

「あること?」

「身の安全、それと些細な超能力の貸与。彼を受け入れている間だけ、僕に力を貸してもらってる」

恩恵としては十分だな。昨日の伊藤の様子から察するに長時間表に出ることは出来ないっぽいし。

「んで、貸してもらってる超能力って何なんだ?」

些細ってことは、使い道が無いとかあまり役に立たない能力とかか。

「僕が貸してもらっている超能力、それは・・・」

それは?

「ほんの僅かな”幸運”。少しだけ、ホントに少しだけ普通の人よりラッキーになれるんだ」

幸運か。普通だな。まぁ一般人が変に力を持っていても不便なだけだから、逆にその程度のものでいいのかもしれないな。

  席に戻ると同時に、隣の席の奴に声をかけられた。名前なんて言ったけな?思い出せねーや。

少なくとも同中出身ではないことは確かだ。

「ちょっといいか」

「なんだ?」

「お前、あっちの世界の人間なのか?」

とどこかで見たことがあるような形を手で作った。なんて意味だったかな、喉の奥まで来てるんだが出てこない。

「何のことだ?」

隣の席の奴はスマホを取り出し、操作して俺に出す。

「げっ」

そこに写っていたのは・・・俺が安藤(というか伊藤)に膝枕されている画像だった。

「おまっ、その画像どこで入手したんだよ」

「あの公園俺ん家の傍なんだよな。コンビニに買い物に行こうとしたときお前らの姿見てさ。たしかクラスメイトだったよな・・・ってことでシャメっといた」

最悪だ。

「俺はお前らを否定しない。そういう恋愛もアリだと思うぜ」

どうやら変な方向に勘違いしているらしい。

男が男に膝枕してるの見りゃそう思っても仕方ないが。

「違う違う。勘違いだ。俺とアイツはそういう関係じゃない」

それから適当な言い訳で誤魔化すのに相当の時間を要した。

今度何か奢るからと、半ば無理やりに膝枕画像は削除させ、他人に言わないことも確約させることができた。

物分りが良い奴だったのが不幸中の幸いだ。


 その後、授業に入る。午前中は至って普通にオリエンテーションだけで過ぎていった。そして放課後

 俺達は部室に集合していた。窓が全開だっただけあって、空気はかなり良くなっていた。しかし掃除していないのは事実で、相変わらず埃っぽい

「んで、皆どうだ?」

昨日は心の整理をするとかで帰っちまったからな。

「ねぇユイ、今彼女はどこにいるの?」

彼女、それは幽霊で俺と静香以外から見えない山神のことだ。

「そこだ」

と山神がいる場所を指差す。

山神は古畑の背後付近に立っていた。今日も掃除の手伝いをして欲しいから図書室にいるように予め言っておいたのだ。

「まじか・・・」

古畑が戸惑いながら発言する。

そりゃ背後に幽霊がいるとか言われたら誰だってそうなる。

しかし、そんな表情をする古畑を見るのは初めてだ。からかいたくなる。

「ああ、丁度お前の真後ろに怖い顔して立ってるぞ」

そんな俺の言葉を山神は唐突に動き出し、本棚から本を取った。

本というか辞書だな・・・

嫌な予感がする。というか今後の展開が軽く予測できる。

「おい、止めろ。怖い顔っていったくらいで暴力反対」

「理由が分かっているならあんなこと言わないでくれるかしら?不快だわ」

いかにもイラついてます!って感じの表情で言った山神だが、どうやら抑えてくれたようで辞書を本棚に戻す。

「と、とにかくだ。別に見えない幽霊がいる部室でもいいか?」

俺からは普通に見えてるんだがな。今のコントだってこいつらから見たら俺の意味不明な一人芝居に見えるだろう。

「ようは慣れよ慣れ。どうにかなるわ」

「七不思議を調べると言っておきながら幽霊程度で怖気づくのは論外だ」

「そ、そうだよね!害無いみたいだし、良い幽霊さんなんだよね!」

各々が問題無いとの答えだ。ま、静香と部長は相変わらず傍観だが。

「じゃっ、掃除を始めますか」

俺の合図で掃除を開始する。

 今日は机とイスを洗うことにした。協力して外のホースが使える場所へ運び、水を使いながらキレイにする。男手は俺と古畑の二人だけだったが、女性陣は静香を除いて力があるほうだったので大して問題は無かった。

長年掃除していなかったせいか、やはり汚れはすさまじい。水洗いを選択しておいてよかったぜ。

結局二時間近くかけてやっとの事で終え、全て外に置いたまま乾くのを待つ。

その間に今度は本棚の掃除だ。今日は時間が足りないから本自体は後回し。とりあえず本棚のみを掃除する。

「静香はそっち、古畑はここ、山神はそこを頼む。水姫は・・・」

俺が適当に場所を割り振る。なんだかんだで俺ってリーダーシップあるほうなのかもしれないな。

「なぁ江神」

ん?

「俺からは雑巾が独りでに本棚を掃除しているように見えるんだが・・・、なんとか俺にみも見えるようにできんのか?」

「同意の上だろ?慣れだ慣れ」

物が浮いてるように見えればそりゃ誰だって怖いだろう。常識的に考えてホラーだ。

 俺以外にも存在がわかるような工夫か。

頭から布を被せる・・・?

それっぽい被り物でも作ればそれっぽく見えるかもな。ま、俺から見たらおかしくて笑いそうだが。

「慣れ、か。まさか幽霊の存在に慣れる日が来るなんてな。世の中分からんものだな江神よ」

何事にも柔軟な対応が出来るタイプの古畑ですら戸惑ってるわけだからなぁ。普通の人だったら幽霊なんてものが目の前に実在してると知ったら逃げ惑うんだろうな

 無駄話?をしながら本棚掃除を終える。先程水洗いした机達がそろそろ乾いたころだろうということでその回収にあたる。けど、その前に床掃除しておいたほうがいいな。せっかくキレイにしたのにすぐ汚れそうだ。

「じゃあ最初は俺と古畑の二人で運ぶから、他は床掃除先にやってくれ。終わり次第こっちに回れば良いから」

本当は本掃除を先にやりたかったんだが仕方ない。ま、本掃除やった後でもう一度床掃除すればいいさ。

 あっという間に時間は過ぎ、机の設置が終わったころに時間切れ。解散となった。解散といってもいつものメンツは一緒に帰るんだけどな。

「それにしても今日は有意義な一日だったわ。幽霊と半日過ごすなんて経験、普通出来ないもの」

京香が今日一日を振り返りながら嬉しそうに口にする。

そりゃそうだ、幽霊の存在を知ってる奴すらいないだろうからな。山神だって、あれだけ人がいるなかで堂々と物を触っていたことはこれまで無かったことだろう。

「そうだな。俺達は江神のおかげでその存在を認識できたに過ぎない。本当は姿を見て見たいものだ」

こいつらは山神がどんな人間か(幽霊だが)知らないし、声も聞こえない。俺と違い持っている山神に関する情報が皆無だ。

しかも俺か静香がいなければ、アイツがどこにいるかすら認識が出来ない。

「しかし不思議だねぇ。なんでユイと静香ちゃんにだけ見えるんだろうね」

水姫が不思議がる。

「確かにそうだよなぁ。俺別に超能力者とかじゃねーんだがなぁ」

それにこれまで幽霊とか怨霊の類を見たことは無かった。山神が初めてだ。

突如力に目覚めた!なんてわけは無い。俺に力が無いことは伊藤が証明している。

どうして見えるんだろうという疑問の答えが見つかることは無かった。


その日の夕食、幽霊の話題になった。

「幽霊が見える人がいるとしたらどうして見えるんだと思う?」

「お兄ちゃん何突然意味が分からない事言ってるの?」

すみれに呆れられたが俺らの事情を全く知らない第三者の意見も知りたかったというのが俺の気持ちだ。

「いやな、よく言うだろ?幽霊見えるって人と、幽霊なんて見えないって人。その差は何かなって思ってさ」

適当な理由をつけておく。このくらいが無難だろう

「んー、やっぱり霊感じゃない?」

霊感か。でも俺霊感なんて絶対ないよな・・・。

「他には?」

すみれは少し考えてから

「幽霊さんが思い残したことに関係が深いとか?」

そういや幽霊ってのは、未練がある人がなるんだったな。幽霊の意味をすっかり忘れていた。

でも俺と山神に接点なんてないぞ?赤の他人だ。そもそもアイツかなり昔からいるんだろ?

「あとは・・・思いつかないや」

「そっかありがとう」

理由なんて簡単に見つかるもんじゃないか。ま、アイツが見えることでの弊害があるわけでもないし別に放置でいいか。

幽霊が見えるのに理由なんていらない。それでいいや。

考えるのが面倒になった俺は無理やり結論付け、考えるのを止めた。

「ごちそうさま」

席を立とうとしたとき、妹に呼び止められた。

「あ、お兄ちゃん。週末友達の家に泊まりに行くからよろしくね」

「おっけー」

すみれは大体月一回程度のペースで友達の家に遊びに行く習慣がある。週末独りになるのは慣れている。

俺が家事とか料理できるのはその機会しかないから、結構楽しみにしてたりする。

家事や料理を楽しみにする男なんて早々いないだろうが、俺は楽しみだ。

 しばらくダラダラした後、俺は眠りについた。今日は良い夢が見れそうだ。


某所にて。

「・・・・・・」

「そうだねぇ、長い間待ち続けたけど、やっと動き出した。遠くない未来、ひと波来るね」

「・・・・・・」

「七個目の七不思議、六つの真相を知った者のみが知ることができる最後の七不思議。そこに辿り付けるかい」


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