表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

1-6

 部活を設立することが決まってからは早かった。というか水姫が予め用意していたようだ。もし俺達が反対してたらどうする気だったんだろうか。申請書関連は・・・というか全ての手続きを水姫がやってしまった。すごい行動力だ。

話によると、部名と部長は創部後一ヶ月以内に提出すればいいらしい。それまでにオカルト研究部よりもカッコイイ部名に決めておかないとな。

「んで、これからどうするよ?」

創部したのが信じられないが事実だ。部を作ったのなら行動しないとな。

「とりあえず顧問を紹介して欲しいんだが」

古畑が提案する。俺も気になるな。顧問が誰かは重要だ。

「んー、じゃあちょっと待って」

水姫は携帯を取り出し電話をする。顧問への連絡だろう。

「じゃお願いねー」


・・・・・・・・

何度か電話をかけなおしていたが、どうやら出ないようだ。

「顧問のほうが連絡取れなかった。顧問紹介は次の機会で」


そのまま教室へ戻る、

「あと話してないのは部室のことだね」

部室?そういや聞いてないな。部活するなら必然的に部室もいるか。まぁ部室を持ってない部も普通にあるだろうがな。

これから三年近く放課後に過ごす部室だからな。気になるところだ。

実は部申請があっさり通ったのと関係してるんだけどね、と前置きをして水姫は続ける。

「部室は七不思議の舞台のひとつでもある、『閉鎖された図書室』です!」

耳を疑った、なんであそこなんだ。

「あんな埃っぽいところお断りだ。病気になる」

閉鎖されていただけあり、あの図書室の埃はヤバい。

しかも幽霊もいるんだぞ。まぁアイツがいたところで別に構わないが。見えてりゃ何も怖くないしな。

「あれ?あんな埃っぽいって、ユイってあの図書室行ったことあるの?」

「ああ、昨日行ったよ。七不思議の場所だってんでな。こいつらと一緒に」

と他のメンツに目線を送る。

「じゃあ話は早いね」

ここぞとばかりに水姫が切り出した。

「実はね、部室に使えそうな部屋なんてもう無いんだよ。一応運動系部活の部屋なら空いてたけどそんなとこ使いたくないでしょ?」

そりゃそうだ。運動部の部室ってことは元更衣室だったり、元倉庫だった可能性が高い。つまり汚い。

「で、他に部室に使えそうな部屋が無いかって探したんだけどね、そしたら閉鎖された図書室に行き当たったってわけ。元々七不思議について調べる予定だったし、七不思議の舞台が部室なのは好都合。でしょ?」

まぁそうだな。結局あの図書室の七不思議を解きに行っただろうし。と言っても俺は既に答えがわかってるわけだが。

「生徒指導の先生に聞いてみたんだけどね、『別に構わんぞ、あそこは言わば不良債権だ。使えるなら有効活用してもらって構わない。けど呪われたりしても知らんぞ』だって」

不良債権か。まぁ確かにそうだな。あの図書室結構な大きさだった。

 まったく、面倒なことの元凶になってんな山神は。

ま、あいつがイタズラした原因は図書館で乱暴してたバカらしいから、別にそのことを責めないが。

だが

「あそこを使うって事は俺らで掃除すんのか?ずっと放置されてたからか、かなり悲惨な状況だったと思うんだが」

あそこをキレイにするには最低一週間はかかるだろう。本もキレイにしようとしたら放課後だけでは一月近くかかるかもしれない。

「その通り。私達一年は一週間オリエンテーションだけだから午前中に終わる、でその時間を使うってわけ。一週間も午後に掃除すればある程度キレイには出来ると思うんだよね」

そういやそうだったな。確か十二時半頃には終わるはずだ。そこから夕方五時くらいまでの四時間ちょい毎日やってりゃ普通に部室として使える程度にはキレイになるだろう。

「で、どう?」

「俺はいいぜ」

掃除はちょっと面倒だが、この人数いれば何とかなるだろう。運動部用のトコを使うのはゴメンだ。

「俺も構わない」

俺に続くように他のメンツも同意した。

なんか部に入るかどうかの時に似てるな。

 じゃっ、さっそく行きますか。という水姫の提案に乗り、俺達はそのまま図書室に直行した。

昨日「気が向いたら行く」的な気の無いこと言ってたのに、まさかこんな早く図書室に行くことになるとは。

というか山神はあそこを部室に使われていいんだろうか。その辺のことすっかり忘れてた。

もし部室にされることが気に入らなくてイタズラされたら、たまったもんじゃない。

 水姫が図書室の鍵を開けると同時に、俺は真っ先に山神の姿を探した。アイツは昨日と同じ場所で本を読んでいた。

俺はそっと近づくと、周りに聞こえないような小声で

「おい、ちょっと話がある」

と言いながら山神の腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと」

慌てる山神を無視し

「ちょっとトイレ行って来る」

と他の奴等に言って、急いで図書室を出る。

もし山神が他の奴等から見えていたら、男が女と一緒にトイレに行くというなんとも意味不明な状況だな。

そういや静香にも見えてるんだったな…。ま、後で説明すればいいか。

 そのまま山神を連れて人気の無い場所に行く。といっても旧校舎図書室付近なんて全然人いないから大して歩いてないが。

「何かしら?」

山神はちょっとイラついた表情で俺の手を振りほどいた。

「実はな、あの図書室を俺らの部室にすることが決まったんだ。で、お前はそれでいいのかを聞きたい」

「そんなこと。私は既にそのことを知っていたわよ」

山神の話によると、昨日俺達が図書室にやって来る少し前に生徒指導と水姫がここを訪れていて、そのときの会話で知っていたらしい。

閉鎖された図書室の鍵が開いてたのは水姫達が来てたからなのか。で、そこを離れた後に俺達が来たから図書室の鍵が開いていたと。

俺達がさっき図書室に来たときは鍵閉まってたしな。タイミングが良いんだか、悪いんだか。

「で、どうなんだ?良いのか嫌なのか」

「なんで私にそんなこと聞くの?勝手にすればいいじゃない」

呆れたように山神が答えるが

「いや、お前図書室で不快に思った奴にイタズラしてたらしいじゃん。だからお前が気に入らなきゃ俺らにもイタズラするのかな的な?」

「なぜそこで疑問系なのよ・・・。別に私も鬼じゃないわ。図書室を部室に使う程度でイタズラなんてしない。そもそも図書室は私の所有物ではないのだし。本を乱暴に扱うようなことをしたら話は別だけれど」

山神の意見を確認できたことだし、これで図書室を部室にすることに反対する人はいない。さっさと戻って掃除しますかね。

「それにしても驚いたわ。他人からは私は見えないから、人間に手を引かれるなんて初めてだもの」

悪かったな、俺にも事情があるんだよ。あそこで山神とコソコソ喋っていたら、他人からは独り言を言う変な奴にしか見えないからな。

・・・と、そういやもう一つ山神に言っておかなきゃならんことがあったな。

「あと、俺と静香以外の奴がいるときは本を持つとか変なことするなよ?・・・ん?オカルト研究部なんだからむしろそのほうが良いのか?

こいつを「ここにいるのが幽霊の山神です」とか言って紹介するのもそれはそれで面白い気がする。

「お前の存在を他の奴に教えるか教えないかどうしたほうがいいと思う?」

と命令から質問に変えた。俺としては面白そうだから山神の存在を水姫達に教えたい。

「どうせすぐバレるから、教えるほうが賢明だと思うわね」

確かになぁ。図書室はこいつのテリトリーだ。これからずっと部室として使っていくとするならば浮遊する本とかあっという間に見つかりそうだ。

そこからなし崩し的に幽霊の存在が知られ、俺が知っていて黙っていたことまでバレて・・・。

うん、厄介だな。しかも古畑と京香は昨日の一件で不信感を抱いている。あいつ等で何か調べ始めるかもしれない。

確かに予め教えておいたほうが賢明だ。


「分かった、さっそく言いに行く、お前も来てくれ」

善は急げだ。善かは知らないけどな!

もし信じてもらえなくても浮く本でも見せりゃ嫌でも信じるだろう。

図書室に戻り、話があるからと掃除を始めようとしていたメンバーを集める。

「何よ、さあ掃除しようって時に集めるなんて、相当重要な用なんでしょうね?」

「ああ、重要だ。時間はとらせないから大丈夫」

全員が図書室のイスに座る。埃っぽいが仕方ない。

「まず聞く、幽霊って存在すると思うか?」

こういうのは話し出しの印象が大切だ。最初の発言で興味を引かなければそれで終わり。インパクトだ!

「幽霊、か。居たら良いなとは思う」

「超能力があるのだから、私は幽霊も存在すると思うわ」

「いるんじゃないかな?というか居ないって言ったらオカルト研究部を全否定するよね」

個性的な意見が多いことで。ちなみに静香は傍観に徹している。

「んじゃ紹介するな。あいつの名前は山神綾乃だ」

と山神が立っている本棚付近を指差す

「あいつって誰よ?どこにもいないじゃない」

「いやいや、いるから」

やはり見えていないらしいな。

「山神、適当な本持ってくれ」

という俺の指示の通りに山神は本を数冊手に取る。

「本が浮いているだと!?」

古畑が驚愕した。

他のメンバー(静香は除く)も驚きの顔を浮かべる。

「ドッキリ成功!って板を持った人が出てくるわけじゃ….ないよね」

という水姫の声。ドッキリなんかじゃないんだよな、これが。

「改めて紹介する。”幽霊”の山神だ」

俺は山神の横に立って彼女の肩に手をかけた。あいつ等から見たら不自然な姿勢になっていることだろう。

「私達には見えないのになんでユイには見えてるわけよ、納得いかないんだけど」

納得いかないと言われてもな…

「そんなの知らん。昨日ここに来たときに見えた。昨日の浮いてる本事件で噛み合わなかった時だな。あの時の浮いた本も、本が浮いていたんじゃなくこいつが本を持っていただけだ。で、こいつの姿を俺は見えたから本が浮いてるなんて見えなかった。ちなみに静香にも見えてるらしい」

静香が軽く頷く。

「俺には彼女の姿が見えるし、会話も出来る。それにこんな風に触れることも出来る」

「じゃっ、じゃあ図書室を利用した生徒が不幸な事故に会ったって言うのも・・・」

水姫が恐る恐る尋ねた。

「ま、そうだ。実は不幸な事故に遭遇した生徒は図書室の本とか備品を乱暴に扱ってて、その罰に軽いイタズラをしていたらしい。それが自然と噂に尾が付いて、広まって図書室閉鎖、七不思議になったってわけだな」

その時山神がバジッ、と持っていた本を俺にぶつけてきた

「いつまでさわってるの。そろそろ離しなさい」

「いてーよ、仕方ないだろ説明するためなんだから」


こういう風にしたほうが説得力があると思ってやったまでだ。

このやりとりが俺の一人芝居に見えてるんだったな。

「とまぁこういうわけだ。分かったか?」

「すごい!」

京香が歓喜の声を上げる。俺同様超能力を信じている彼女にとっては、幽霊の存在はホラーなんかではなく、興味の対象のようだ。

 それからしばらく、山神についての情報を話た後、なんと図書室には俺と山神しか居なくなった。

理由は簡単、他のメンバーが図書室の埃にやられて気分が悪くなったからだ。今は保健室で休んでいる。俺は一度山神と話すために廊下に出ていたのでそれほど被害を受けずに済んだ。今は保健室でもらってきたマスクをつけているので安心だ。


「さて、どうする?俺は一人でもここを掃除しようと思うんだが」

本来今日から掃除を始めるはずだったのに中止になったんだ、どう考えても後々影響が出る。俺が原因みたいなもんだし、それに暇だし。できれば山神にも手伝って欲しいと思う。図書室のものなら触れるらしいし問題ないだろう。猫の手も借りたい。

「暇だし手伝ってあげるわ。それに今日掃除が無しになったのは私の責任もあるし」

「そう言ってくれると助かる。ここなら物に触れるんだよな?空気を入れ替えたいからカーテンを外して窓をあける」

カーテンなら外したままでも問題ないだろう。

本当は本に直射日光が当たるのは良いことではないんだがこの際仕方ない。本が日焼けするリスクよりも、空気を入れ替えることによるメリットのほうが大きい。

二人で協力し手際よくカーテンを外し窓をあける。

うわ、カーテン汚ねぇ。

「山神、カーテンは洗濯したほうがいいから除けておいてくれ」

「わかったわ」

空気を通すためには廊下側のトアとかも開けておかなきゃ。

ということで廊下側のドアと小窓は外せるものは外し、無理なものは全開にする。当然、廊下の窓も全開だ

「しばらくしたら空気は入れ替わるだろう」

埃もある程度飛んでいってくれるはずだ。

他に二人でもできる作業は…本棚の掃除か。

本棚を掃除する場合、まずは上のほうにあるものから掃除していったほうがいい。埃が落ちるからな。

「本棚の上を拭くか。雑巾持ってくるから待っててくれ」

本棚の上くらいなら二人でもすぐ終わる。

 水を入れたバケツと雑巾を持ってきて二人手分けして本棚の上を拭く。埃がすごい。ひと拭きで新品の雑巾が真っ黒だ。

本棚の上掃除は拭くだけなのであっという間に終わる。

あとは・・・そうだ、電気。

長いこと人使われていないのならメンテナンスもされていない可能性が高い。

そう思った俺はとりあえず電気をつけてみた。

ふと思う。なんで蛍光灯とかの明かりのことを『電気』って言うんだろうな。「電気つけて」と言ったらそれは照明をつけることだと確実に伝わる。実際俺だってそう受け取る。けど、「電気つけて」の言葉を真面目に考えるとおかしいよな。電気ってのは機械を動かすエネルギーのことだ。照明のことではない。

「和製英語?」

ふとそんなことを口にしていた。電気って英語ですらないだろ・・・

自分で自分に突っ込んでバカらしくなった。

「何しているの?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」

まぁとにかく電気をつけようとスイッチを押したが、まともに電気がついたものは無かった。こりゃ全部取り替えなきゃいけないな・・・。照明付近の掃除は取り替える時にやったほうが良いだろう

 やらなきゃいけないことは・・・。と、ざっと図書室を見回して考える。

 まず本棚の掃除だろ、本に風を当てるために本を全部持ち出しての風当てだろ、机イスの掃除だろ。机は一回水洗いしたほうがいいかもしれないな。かなり汚い。

あとは床掃除か。この中に二人で出来るような作業は思いつかないな。

「山神、他にどこか二人で掃除できそうなのないか?」

「無いわね」

即答だった。ま、俺も思いつかなかったし実際二人じゃ掃除できるようなところもう無いだろう。これ以上ここにいても仕方ないか

「んじゃ、俺帰るわ。戸締り・・・じゃないな、夜間図書室を頼んだ。明日まで空気入れ替えすりゃかなりまともになろうだろ」

「了解」

さっさと図書室を出て職員室に行く。空気の入れ替えのために図書室の窓が全開になってることを言っておいたほうがいいという俺の独断だ。水姫は生徒指導に許可取ってたんだったな。俺も生徒指導のとこいくか。

 生徒指導室に向かい、名前と用件を伝える。それから数十秒で生徒指導が出てきた。中年の熱血というか体育会系というかそんなタイプの教師だ。

「一年の江神です。七里と同じ部でちょっと伝えたいことがあって来ました。今日換気したいので図書室の窓とドアを全開にして帰ろうと思うんですが、いいですか?」

いいですか、と聞いてはいるが実際は既に窓とドアを全開にした後である。もしダメだと言われたらかなり面倒だ。

 しかし生徒指導は

「わかった。空気を入れ替えるのは必要だよな。宿直の先生に気にかけるように頼んでおくから心配するな」

と快諾してくれた。そのまま生徒指導室を出、帰路につく。

本当は皆と帰りたかったんだがなぁ。埃の一件のせいで俺一人で帰宅することになりそうだ。

ちょっと寂しい気持ちになりながら校門を出ようとした時

「待ったよ」

校門の前にいた奴から声をかけられた。確かクラスメイトの…

「安藤…?」

俺に声をかけたのは安藤だった。俺がこいつと初めて会ったのは入学式後の自己紹介の時だ。以前からの知り合いではない。

 実は俺の後ろに他の誰かいるのかと思い、振り返ってみたが後ろには誰もいなかった。

今日は午前授業だからな。この時間まで残ってる奴は運動系部の奴等だろうが、そういう奴はまず間違いなく日が暮れるまで部は終わらない。

「待っていたのは君だよ、江神君」

「何の用だ?」

安藤は不敵な笑みを浮かべる。

こいつこんなキャラだったか?オドオドしているようなキャラだったと思うんだが・・・

俺の中にある、安藤の自己紹介の記憶はそうだったはずだ。

 しかし目の前にいる安藤は何かその時と明らかに雰囲気が違う。容姿は安藤なんだが、違和感が拭えない。

「ここじゃ話しにくいから、ちょっと付いてきて欲しいんだ」

「……」

全く話してもいない奴がいきなり俺に何の用なんだろうか、全く検討がつかない。

「無言とはひどいな」

「ああ、いやすまん。別に良いぞ今は一人だし時間もあるから」

ま、用件はその話とやらを聞けば分かるか。

俺は軽い気持ちから安藤に同意し安藤についていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ