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まさか超能力者と出会うより先に幽霊と出会うなんて誰が予想しただろうか。
話によると、どうやら他の人には見えないらしい。当然、古畑や京香には見えていない。しかしなぜか俺と静香には普通に見えるんだから不思議だ。
あの後、何が起きているのか理解出来ない京香と古畑は無理やり帰らせた。いても面倒になるだけだしな。
静香と俺、そして山神の三人で図書室の椅子に座る。正直埃っぽくて長居はしたくないのだが致し方ない。
「私が見えるって人はあなた達が初めて。もう長い間ここにいるけど私のことが見える人なんてずっといなかったの」
と話し始め、様々なことを教えてくれた。
「私の名前は自己紹介したとおり山神綾乃。いつの間にか幽霊としてこの図書室に存在(?)していた。ここから出ることも出来るが、物に触れることが出来るのは図書室内のみで、ここを出てしまった場合一切物に触れることが出来ないの」
他にも色々話していたが、今はどうでもいいものだったので、隅に置いておいて機会があったら思い出すことにしよう。
「で、私は図書室内なら物に触れることは出来るっていったけれど、図書室内であっても人には触れることが出来ないわ。こんな風に」
と俺の方を触る。普通に触られてる感覚があるんだが。
「あら、さわれるわね…。あなた達だけが私を見ることが出来るということに関係しているのかしら」
「ま、そうだろうな。さっき古畑に対しては触れられず通り抜けてたし」
しかしそうなるとさらに不思議だな。俺と静香の二人だけが視認できる上に触れることも出来るなんて。
「それにしても、あなた達ってすごいわね」
いきなり山神が呟いた。
「何がだ?」
どこに俺達がすごいなんて要素があるんだか。
「私が見えるというのもすごいけど、それ以上に幽霊が目の前にいても驚きすらしないのが驚きだわ。一般人なら幽霊を目の当たりにすれば驚くでしょうに」
「そりゃ映画とかでテレビから出てくるみたいな幽霊なら俺も驚くさ。でもどこからどう見ても女子高生の容姿の幽霊を見て驚けってほうが難しい」
それに俺は超能力信じてるし、幽霊だっていてもおかしくは無いと思う。実際居たしな。
「ところでお前この図書館が七不思議のひとつに入っていることしってるか?」
ここを利用した人が次々と不幸な目にあって、そのせいでここ閉鎖されたという例の七不思議を説明した。その説明を最後まで聞いた山神は苦笑して答える。
「それは多分私ね。昔ここが図書室として機能していたころ、本や施設を大事に扱わない人にちょっとしたイタズラをしていたの。古雑誌を足に落とすとか、イスで転ばせるとかその程度のものね。ある時期突然図書館が閉鎖になったから何事かと不思議に思っていたの。まさか私のせいだったなんて」
他人から見えないことを良いことにそんなことをしていたのか。まぁ公共の物を乱暴に扱ってたのならそいつが悪いな
しかし、そんな軽微なイタズラでもそれが連続して起きると閉鎖されるまで行くのか。というか昔の生徒はどれだけ図書室を粗末に扱ってたんだって話だよな。そもそも大事に扱ってればイタズラされてなかっただろうに。
七不思議のひとつ閉鎖された図書室、確かに真実だったな。七不思議なんて嘘しかないと思っていたが、事実のこともあるんだなぁ。と呑気に考える
「さて、そろそろ帰るか」
山神の話を聞いているうちに、すっかり日が暮れていた。
「そう、だけど、私にとってはあなた達が初めての話相手だから、出来ればまた来てくれないかしら」
ずっと一人でいたんだもんな。
「いいぜ。いつとは言えないけどな」
じゃあ。と言った後席を立ち図書室を出る。
あー、埃っぽかった。また来るにしても次は換気するなり掃除するなりしたほうがいいな。病気になりそうだ。
そのまま静香と一緒に帰路につく。静香と二人で歩くってのも随分久しぶりの気がする。静香と京香ってなんだかんだで一緒にいることが多いし。
坂を下りきったあたりで、無理やり帰してしまった古畑と京香の存在を思い出した。
あいつ等になんて説明すっかなぁ。素直に「幽霊が見えました!」と言うべきか。それとも適当に誤魔化すか。誤魔化しきれるかと考えると正直厳しい。かといって、俺と静香にしか見えていないと思われる幽霊の存在を教えたところで信じてもらえるか微妙だ。一般人ならな。だが一般人じゃない。多分幽霊のことを信じてくれるだろう。
「静香、あいつ等に本当のことを説明するべきだと思うか?」
「・・・私はそう思う」
やっぱそうだよなぁ。あいつ等、俺と同じで厄介ごとに頭を突っ込むことが好きなタイプだし。
問題は、俺らにしか見えないものの存在をどう認識させるか、それが俺には思いつかなかった。最悪「俺のことが信じられないのか!」と無理やり言い包めることも出来ないことはないが最善の手とは言い難い。
「見えないのは姿だけ」
と言う一言を口にしただけだったがそれで十分だ。そういうことか。あいつ等からは姿は見えない、しかし、山神はモノを触ることは出来る。そして山神が触れているものだとしても見ることが出来る。今日の本が浮いているように見える現象がその証拠だ。
そういう現象を見せることで、間接的に何かがそこに存在していることを証明できるというわけだ。
案外簡単なことだな。あいつ等を図書室に呼べば解決だ。俺達の説明に加え、目の前でそんな現象を見せられれば信じるだろう。
とりあえずの見通しは立った。あとはいつそれを実行するかだが・・・。今日入学式だった俺達にとって正直そんな時間の余裕は無いだろう。昼休み程度の時間じゃ説明できる自信が無い。やるとしたら休日か?
俺達は分かれ道までそのことについて語り合いながら帰った。といっても俺が話すばかりで静香は耳を傾けているだけだが。
結局、その日結論は出なかった。しかし、説明する機会は予想外に早く来るのだった。
帰宅した俺は普段のように夜ご飯を食べ、テレビを見て、そして寝る。明日は各種オリエンテーションと部活見学だ。
意識が夢の世界に入る直前、幽霊事件の影響で旧校舎の四階だけ見にいけていなかったことを思い出した。暇があれば一度見に行きたいところだ。