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登校しているだろう学生達から変な目で見られている気がする。というか間違いなくそう見られている。

手にカバンを持っていないのも明らかだし内心笑われているんだろうな・・・

そんな思いから、自然と足は速くなる。家が見えるようなところまで行くころには駆け足に。

長距離走の選手でもないから当然息は激しくなる。

「ハァハァ・・・」

勢いよく家の中に入った直後体の限界が来た。玄関の段差・・・なんていったか。まぁいい。とにかく俺は玄関の段差に座り込んだ。走ってしまったのは逆効果だったか。

「おにーちゃん、どしたの?」

家にはまだ妹がおり、というか今日がまだ始業式前で休日な妹は当然家にいるわけで。

帰宅した俺を不思議そうに見る。

「ちょっと忘れ物」

ふーん、と聞いてきた癖して適当に返事された。

「そんなことよりお兄ちゃんリビングに来て。テレビテレビ」

手を引かれ仕方なくリビングに行く。少しならテレビを見る時間くらいあるだろう。少しだけ休むのも丁度良い

『さて、本日の特集コーナー!!なんと本日の特集は~』

溜めが一瞬だけ入った後、タイトルが表示される。

【本物のお姫様が留学に!?】

そこでテレビに映っていたのは先程、古畑と話して出てきたソレだった。

『では小山さんどうぞ。』

『先日、ヨーロッパ諸国ディスタニアの皇女が日本に留学されることが決定しました。ディスタニア国宮内庁によると、日本の文化を経験するとともに先進国から学ぶことを目的としているということです。皇女は日本語が堪能で日本で勉強することに支障は無いということです。それではVTRをご覧下さい。皇女の記者会見の様子です』

古畑から小国だとは聞いていたが、ディスタニアか・・・やっぱ聞いたことも無いな

やがで記者会見のVTRが流れる。よくある記者会見場に皇女が入ってくるところからそれは始まった。

長髪の金髪碧眼。典型的なヨーロッパ美女だ。何が典型なのかは知らん、基準は俺のイメージだ。

『今回日本に留学させていただくこととなりましたディスタニアの皇女、サンカニア・ローウェルと申します。こちらではニアと呼ばれています。まずは、なぜ交流の無かった日本への留学を決めたかについて話させていただきます』

VTRによるとローウェルの両親、つまり国王がこのことを決定したらしい。しかしその決定は15年前。つまり彼女が生まれた直後。そこから日本語の勉強を始めて、それに備えたそうだ。そして15歳となる今年、留学することを決定したと。

ディスタニアの教育事情はあまり芳しくなく、どうしても家庭教師による学習になってしまう。しかし、それでは一般知識や常識、そして対人能力は育たないから学校教育が充実した国に行かせることにした。という点、あと単に両親が日本好きらしい。

それにしても確かに日本語が上手い。喋りだけ聞いてりゃ日本人と勘違いするレベルだ。さすが幼少期から日本語の勉強をやっているだけある。

テレビの情報を見る限り、彼女はやはり俺と同じクラスになるらしい。

「すごいでしょ?同じ学校でしかも同じ科なんて。なんか運命感じるよね?」

妹がキラキラした瞳でテレビを見つめながら言う

もし同じクラスになるだけで運命感じるなら俺はクラスメイト全員と運命感じるということになる。それは、無い。

ま、そういう人と一緒のクラスになれるのだから運は良いと思うがな。

良い経験じゃないか。普通ヨーロッパの皇女と一緒に高校生活を送れる高校生なんていないぞ?

まぁ同じクラスになったからといって仲良くなるとは限らないし、一言も交わさず高校生活を終える可能性もあるんだが。

『以上、今日の特集コーナーでしたー』

いつの間にか特集コーナーが終わり、CMが入った。結構見入っちゃってたなぁ。

ん?見入った・・・?

悪寒がして時計を確認する。

「やべっ」

時計の針は非情な位置を指していた。下手すりゃ遅刻だ。

カバンを手に取り、妹に見送られつつ急いで家を出る。

そのまま桜咲く通学路を一心不乱に走る。

他に生徒がいない道をとにかく走り続けた。

しばらく走ると古畑の姿を見つけた。どうやら待っていてくれたらしい。

「すまん古畑」

「せっかく待っていてやったのに遅いぞ。やけに時間がかかったようだが何があった?」

返事をしたいところだが時間が無い。話は後だ、急ぐぞ。と急かし再び走り出す。

しかし古畑は俺の運動能力を遥かに凌ぐ上に、俺のほうはずっと走りっぱなしなので一瞬で追い抜かれ、姿が見えなくなった。

何のために待っていたんだ古畑・・・

それから進むことしばらく。

通称『遅刻者殺しの坂(命名俺)』に差し掛かる。

学校は基本的に地震が来たときのために地盤が硬く、かつ高台で津波や洪水の影響を受けにくい高台に置かれることが多いらしいが・・・正直学生にとっちゃ溜まったもんじゃない。数十年に一度しか起きない災害のためにこれだけの坂を毎日上らなきゃならないのは割に合わないぜ。

その坂の前で古畑が待っていた。

「遅いぞ。そんな速度では確実に遅刻する」

古畑に手を掴まれる。

「行くぞ」と手を掴まれたまま走り出した。

ここまでもかなりの速度で走ってきたというのに、この急な坂を俺の手を引きながら走れるとは体の造りが違うな・・・

俺はそんな古畑に手を引かれながらなんとか校門にたどり着いた。集合時間の五分前。何とかギリギリ間に合う時間だ。

途中、ギブアップしたのであろう徒歩の学生が何人かいたがあいつら間違いなく遅刻だろうな。ご愁傷様だ。

人がいないクラスわけ発表の張り出しの前に立つ。

 だが、正直俺はクラスわけを見る必要がほとんど無い。俺の科は四十人募集だから、どのクラスに配置されるかわかるし、知り合いのクラスメイトがどれだけいるかもわかっている。

他校の生徒の名前なんて見たところで知り合いなんていないだろうし。

そのクラスわけの張り出しで一際目立つ、カタカナの名前があった。その名は『サンカニア・ローウェル』

やはり同じクラスだったか。

時間が無いのでそれだけを確認し急ぎ足で教室へ向かう。俺の教室は4階だ。

 小学校は高学年になるほど上の階なのに何で中学以降は逆になるんだろうな。

確かに小学生低学年は階段を上るのが辛いからわかる。けど中学以降それが逆になるのは理解出来ん。

小学校と同じでいいじゃないか。低学年ほど下階。最高学年は最上階。職員室も基本下のほうの階にあるだろ?偉い人ほど下ってのおかしい。

だってそうだろ?『上から目線』『見下す』って言葉がある通り、本来偉い奴ほど上にいるべきなんだ。

なのに学校の階だとそれが逆。

納得いかないぜ。

そんな無駄ことを考えていた時ふと上のほう物音がして目線を上げる。

人が階段を踏み外して後ろに傾き、今にも転がり落ちそうな状態だった。

「ちょっ」

反応する暇も無く、その生徒が俺に直撃する。

ドン、と衝撃を受けた

俺は軽く後ろに仰け反りながらも何とか耐えることが出来た。女生徒で助かった。これでガタイの良い男だったら間違いなく俺も一緒に落ちていただろう。

「大丈夫ですか?」

と言いながら軽くその人の体を揺らしてみるが反応がない。身体に力が入っておらず、ぐったりしている。

どうやら気絶しているらしい。

足を踏み外したんのではなく、階段を上っている最中に立ちくらみか何かで気を失ったからなのか。

階段を上る最中に気を失うってある意味すごいな。普通そんな状態なら階段なんて上れないんじゃないか?

いきなり気絶するってことはそうとうヤバい状態ってことだ。当然階段を上るなんて無理。というか俺がさっき上ってきた遅刻者殺しの坂すら上れないんじゃないか?ってことは階段を上るまでは普通だったけど上ったら突然気絶した・・・と?意味が分からん。

ふと、その女生徒顔をみると見覚えのある顔のような気が・・・って

「京香じゃん・・・」

そいつは紛れも無く俺の幼馴染の一人、京香だった。

宮川京香 俺の幼馴染の一人で活発なタイプだ。


「宮川は完全に気絶してるな、どうする江神」

それまで無言を突き通していた古畑が喋る。というかお前俺がクラスわけを見ているときから何か考え込んでたよな。存在忘れてたぜ。

「どうするってそりゃ・・・」

保健室に運ぶしかないだろ・・・気絶してるし。

「そうか頑張れ、保健室は階段を降りて右だ」

そう言った古畑は「俺は知らん」と言っているかのようにとっとと行ってしまった。

入学式前の教室集合時間直前というだけあって校舎内は静まり返っている。



 そこから保健室に行くまでの間にちょっと・・・いや、かなり色々あったんだが割愛させてもらう。

「軽い貧血だね、いや睡眠不足かもしれないな。ま、大事じゃないから安心してもらって構わない。しばらく休めば体調も戻るだろう」

校医の話を聞く限り問題ないみたいだ。入学式前で興奮して眠れなかったとかだろうか。

「んじゃ、宮川をお願いします。俺は入学式にいかなきゃならないので」

と言って保健室を出よる直前に止められ

「君、名前はなんだね?遅刻扱いにしないよう取り次いでおくから」

「あっ、一年A組の江神です」

校医の配慮により、遅刻になることはなさそうだ。これで高校無遅刻無欠席記録は守られた。

結局三十分くらいの遅刻(遅刻してないが)になった。おかげで教師の話とかを聞けない部分があるんだろうな。後で古畑から聞かなければ。

教室についた俺は担任と思しき人物に事情を説明した後、自分の席についた。

担任は若い男。

例えるなら・・・そうだな。あれだ。

筋肉マンだからといって顔に「肉」の文字は無いぞ。

「今来た奴がいたから再度軽く説明しておくぞ。」

「今日はこのあと入学式、式終了後は教室に戻り、自己紹介などを行う。それから…」

教師が気を利かせて軽くだが再度説明してくれた。有難い。


 俺が今日から通う高校は通称「本校」。別に下に学校があるとか、そういう理由ではない。単に本町にある高校だから本校と言われているだけだ。

この学校の特徴は校舎の造りにある。

自然と過ごせる校舎というコンセプトで、屋上は全面緑化されており、誰でも自由に出入りできる。屋上以外も非常に緑が多いつくりで、良くいえば風が通る校舎。悪く言えば冬寒い校舎。

校内にビオトープや、池がある高校なんて全国探してもほぼないだろう。

ただしそういう風に造られているのは新校舎だけで、旧校舎はドコにでもある感じだ。普通と違うところといえば、4階が立ち入り禁止になっていることくらいだ。

古畑曰く旧校舎は「ミステリーの宝庫」だそうだ。

例えば旧校舎4階も七不思議のひとつであり「旧校舎四階に入った人は数えられるほどしかいない」と言われているほど厳重に管理されている」「入ろうとした勇者も数多くいたが、誰一人としてたどり着けたものはいないという」とか、とにかく大量の噂がある。

新校舎、旧校舎、のほうかもうひとつ部活棟という部室専用の建物がある。

この高校の図書室は利用出来ない。古畑によると、二十年ほど前までは図書室があったらしいのだが、利用した人が次々と不幸な事故に逢うようになり、それ以降閉鎖されてしまったとか。また、そのせいで図書室を設置しないことが暗黙の了解となっており、別の場所に図書室を再建することすら話題にされていないとか。

この「閉鎖された図書室」も学校七不思議のひとだ。

ところで、なぜそんな細かいことを入学前の俺が知っているか、それは以前古畑に教えてもらったからだ。古畑曰く「独自のネットワークを持っているから」らしい

報道前の事件情報が分かっていたこともあり、そのネットワークが果たしてどれほどのものなのか想像もつかない。


 そんなことを考えているうちに入学式の時間となり体育館へ向かった。

入学式は特徴のない無難なもので、あっという間に終わってしまった。保健室で休んでいた京香も、入学式中盤辺りで入ってきて自分の席についた。どうやら問題なかったみたいだな。良かった良かった。

 入学式が終わると教室に戻り、予定通り自己紹介タイムになった。

「自己紹介を始める。出席番号順に一番の安藤からやってくれ」

「初めまして、安藤です。出身校は・・・」

自己紹介が始まった。出席番号が早めだから参考にしておくかな。

「えっと・・・・・・・・・・・・よろしくお願いしまうっ」

あ、噛んだ。

この安藤って奴は喋るのがあまり上手くないっぽいな。オドオドしている。

「北中出身の入江優です。よろしく」

結局無難な自己紹介している奴ばかりだったから、俺も無難な自己紹介にしておくことにしようと思ったのだが。

 俺は自己紹介を始めるために斜め横を向こうとしたのだが・・・突然体の力が抜けてへたり込んでしまった。

突然のことにクラス中がざわめいた。教師も心配するような声をかけてきた。

「どうした?大丈夫か」

すぐ立ち上がろうとしたのだが、なぜか体に力が入らない。仕方ない。こんなこと初めてだ。仕方ない後回しにしてもらうか。

「ちょっと立ち眩みがしたので、俺のことは後回しでお願いします。ちょっと待てば治ると思うので」

しかし立ちくらみなんて人生初だぞ。しかもすぐ立ち上がれないとは。恐るべき立ち眩み。

 結局俺は一番最後に回してもらえた。次々と自己紹介が終わっていく。そして宮川の番となった。

「はじめまして、宮川京香です。好きなものは非日常。嫌いなものは日常。そして当面の目標は学校七不思議制覇!!あとは部活を頑張りたいわ」

驚いている奴もいるが、俺は驚かん。京香はこういう奴だしな。むしろ今回は京香にしては控えめな自己紹介だ。去年の自己紹介はかなりヤバかった記憶がある。「あたしね、空を飛んだことがあるの。だから今年の目標はもう一度空を飛ぶことにするわ」だったかな。アレに比べればかなり成長していると思う。七不思議を制覇するなんて誰でも一回は考えることだしな。それを行動に移すかどうかは別として。

京香は俺と同じで超能力の類を信じている一人だろう。京香の言う「空を飛んだがある」というのもあながち間違っていないのではないかと思う。そんなことは絶対口には出さないがな。

 多少空気が変になったがつつが無く進行していく。そして古畑の番となる。

「どうも、古畑だ。得意なことは推理。好きなことは面白いこと全般だ。知っている人もいるだろうが、江神とペアを組んで色々やることが多い。何か相談事があるなら気軽に話しかけてくれ」

古畑とはホント一緒に色々やったよなぁ。普通の子供じゃ絶対出来ないような経験ばかりだ。その経験があるからこそ今の俺がいると思う。それくらい有意義なものが多かった。数え切れないほどの事件を解決したり、迷いネコを探し出したり、屋根に乗っていたテニス部のボールを回収して野球のボールにしたり、とにかく楽しかった。某少年探偵団並みに事件に遭遇したせいで受けたくもないカウンセリング何度も受けさせられはしたが。その代わり俺は精神面が非常に強くなった。そこらの一般人には確実に勝てるだろう強靭なメンタルを持っている自信がある。ま、その強いメンタルを利用する機会は今のところ皆無なんだがな。

 さらに自己紹介が進行し、ついに俺の番まで回ってきた。ま、気楽に無難なことを言うさ。

「江神悠輝です。好きな科目は数学。嫌いな科目は体育。あと、一部の人間からはお遊びで「ユイ」というあだ名で呼ばれてるんで、混乱しないようにお願いします」

昔あだ名でトラブルになったからな。あれは軽いトラウマだ。

あだ名が付いてる人間は多いし、ユイなんてあだ名だとしても大して気にする奴はいないだろうきっと。

そんな軽い考えから言ってしまったんだが後で結構メンドウなことになるのはまた別の話だ。


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