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呑気なことを考えながらそれぞれの家の方向に別れていき、俺は一人で家に向かっていた。俺の家まであと百メートルというところで、塀にもたれかかる人影。
俺がその視界に入ると同時にもたれるのを止め、俺に手を振り喋る。その手には、指輪がはめられていた。
「待っていたよ江神君」
俺を待っていた人物は予想付くだろうが、当然の如く伊藤だ。まあそれ以外でわざわざ俺を待ってる奴なんていない。
アイツの付けている指輪、それは間違いなくゲートを開くためのものだろう。
「お前が指輪を回収してくれたんだな。助かった」
もし、指輪を回収してくれていなかったら厄介なことになっていた。
「僕は自分の考えに従ったまでさ。この指輪は君に渡しておくよ」
伊藤は手際よく指輪を外し、俺に渡してきた。
赤い宝石が付いている特徴のない指輪だ。強いてあげるなら、直前まで伊藤がはめていたのだから、当然生暖かい。・・・・・・そんなのどうでもいいな。とにかく、普通の指輪だ。何か特別な力を持っているようには思えない。
「その指輪自身には何の力もないよ。歯車みたいなものさ。なくてはならないものだけど、指輪だけでは大して意味はないよ」
指輪を注視しすぎていたか。しかし、これ自身には何の力もないのか。歯車のようなもの、わかり易い例えだ。
そのまま去ろうとする伊藤を呼びとめる。
「お前に質問したいことが山ほどあるんだが」
伊藤には当分会えないのではないかと内心思っていたが、自分から姿を現してくれて助かった。次会えるのがいつかわからない以上、情報を聞き出すタイミングは今しかない。
「本当は、いいよ、何個でも・・・・・・って言いたいところなんけどね。僕には時間が無いんだ。次の機会にしてくれないかな」
そう言った瞬間、伊藤のオーラが明らかに変わった。いや違うな。オーラそのものがなくなったと言った方が良いだろう。
伊藤はそこにいるだけで彼とわかるような不思議なオーラを出している気がする。気がするだけで、気のせいかもしれないがな。
そのオーラが消え、どうやら伊藤も消えてしまったらしい。目の前にいるこいつはおそらく宿主である安藤のほうだろう。
伊藤の言ったとおり時間が本当に無かったのか、それとも単に逃げただけなのかはわからない。しかし、何の情報も得られず、手に入ったのは異世界へのゲートを開く指輪だけだった。
七不思議から始まり、幽霊に出会い、さらには異世界。俺の波乱の高校生活はまだ始まったばかりだ。
某所にて。
「たった今、ご到着なされました」
カメラのシャッター音と大量のフラッシュ。そんな中、飛行機の中から出てくる人影が二つ。
「ここが……夢にまで見た日本。私が3年間を過ごす国」
「はい、ニア様」。
俺はすっかり忘れていた。入学式初日に知った、海外からの留学生の存在を。
~END~