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―――とまぁこんなことがあったわけだ。
山神の質問攻めは本当に辛かった。納得するまで聞き続けるんだからな。おかげで家に帰る気力なんて無かったのだ。それで図書室で寝ることにした。警備員とか一切来なかったな。ザル警備だ。
昨日すみれに『古畑の家に泊まる』とメールしてあるので、心配はかけていないし、怒られることは無い。
「とりあえずご飯を買いに行くか」
近くにあるコンビニへ向かい、朝食を買う。ついでに昼食も買っておいた。どうせ家には帰れないのならと集合時間まで学校で過ごすことにしたのだ。
屋上でのんびりご飯を食べた後、図書室に戻ると既に山神は起きて本を読んでいた。
山神と世間話をしながら部活の時間までボケーっと過ごした。平行世界の件が全然解決していないが、暗くなっていては何も始まらない。向こうの世界のことあまり知らないから俺じゃどうしようもないしな。いつも通り過ごして問題ないはずだ。
あっという間に時間となり、人が集まってきたのだが・・・・・・
「あれ?そちらはどこの誰?」
「見ない顔だな。恋人か何かか?」
「あれ?入部希望者さん?」
と、なぜか部員全員が山神の姿が見えるようになっていた。
おかげで、説明するのに小一時間を要した。昨日水穂さんも見えるようになっていたのと何か関係があるのだろうか。
「へぇ。あなたが山神さんなのね。よろしく」
「こちらこそ。よろしく」
山神は何のことも無く普通に打ち解けていた。うちの部員が個性的なおかげだろうか。
詳細は伏せたが、山神が幽霊ではないらしいということだけは伝えた。
ちなみに古畑は「せっかくソフトを購入したというのに僅か一日の命だったか・・・・・・」と嘆いていた。
ソフトが地味に高かったらしい。まったく、よくそんなものを買う気になったな。ま、またいつか機会があったら使うことがあるだろう。その機会がいつ来るかは知らんがな。
「さて、日曜日にわざわざ集まってもらった理由ですが、部名を早く決めようよってことです。早いとこ決めちゃわないと、どんどん先延ばしになっちゃうからねー」
部名か。普通の名前じゃつまらないということで後回しにされたんだったな。前は微妙な意見ばかりだったからな。俺も多少良さそうなものを考えてきた。俺の提案した部名が使われて欲しいというわけではないが、部名決めが楽しみだ。一体どんな部名になるんだろうな、と期待に胸を膨らませる俺だった。
―――数十分後
ホワイトボードには三種類の部名候補が残っていた。今は最後の決選投票の時間だ。
ちなみここまで絞り込むのに地味に時間がかかった。部員全員が割りと真剣に考えてきていたらしい
候補一 オカルト研究部 最悪これにしようというの手だ。基本的には選択しない。
候補二 七不思議部 そのまんま。まぁ、七不思議を解明した時点で廃部という選択肢が出てきそうだが。
候補三 探偵部 古畑の案だ。周りの興味が引け、教師に悪い印象を与えず、探偵部という名なら情報収集も楽、という理由で候補に残っている。多少部名詐欺な気はするが時間はたっぷりあるし、たまには探偵業しても面白いだろう。
とまあこの三つが残っていたわけだ。正直、どの部名にするかは決まっているも同然だ。なぜかって?
「私は棄権するねー」と部長は棄権。静香も棄権。古畑は俺に任せたと棄権。水姫と京香は案三を選択。残るは俺のみ。
「んじゃ俺も探偵部で。七不思議調べるのも広義的に見れば探偵に入るだろうと。それに七不思議調べ終えた後もこの部名なら活動できるしな」
案一は論外。案二は面白みに欠けるし、いつまでも使える部名じゃない。となれば案三以外に選択肢は無いだろう。
無事探偵部に決定した。申請は部長がしてくれるそうだ。
しばらくの休憩の後、まだ夕方にすらなっていないので帰るのは早すぎる。ということで部活動の本来の目的をやることになった。
「図書室の七不思議はもう解けたとして、残る七不思議は六つ。休憩中にカギをもらってきたから、とりあえず現場に行くよー」
とカギをブラブラして歩く部長に続く。
「この部屋が目的地。『消失の間』」
到着したのは・・・・・・消失の間だった。部長よくここのカギを借りれたな。どう考えても厳重管理的なものな気がするのだが。
ガチャっとカギを外し、中に入る。
中は昨日と何一つ変わっておらず・・・・・・いや、あれは」
ほぼ変わっていないものの、机の上にはノートが一つ。間違いなく、昨日言っていた並行世界の人とコンタクトを取る手順所だ。
俺が動くよりも先に京香がそれを手に取っていた。
「手順書・・・・・・?なにこれ」
ペラペラとめくって流し読みしている。流し読みできるほど手順に量があるのか、骨が折れそうだ。
無理やり奪い取って誤魔化すという手も出来なくは無い。が、それをやるのは無謀だ。
「なになに、『まずゲートが開くのは夕方六時頃、その一回しかチャンスが無いから気をつけるように。朝六時では駄目だ』だって。ゲートって何のことを言っているのかしら。何かの手順が書いてあるということはわかるけど、何の手順なのかは書いてないわね」
「七不思議の場所にある謎の手順書。面白い、やってみようではないか」
「なにそれ面白そう」
古畑、京香、部長、水穂はやる気満々だ。
「『必要なモノは特殊な指輪。これを持った人間が近くにいなければゲートは開かない』」
そういえば水穂さんも指輪をしていたような気がする。至って普通のアクセサリー的指輪だったと思うのだが、それがキーアイテムだったのか。
「『その指輪は元々はここに置いていたが、軽い気持ちで侵入したバカが身に着けて不幸にもあっちの世界に行ってしまう事故が起きたから場所を替えた。その場所は・・・・・・』」
こいつらにゲートを開かせるわけには行かないな。それをしたら、間接的に山神に知られてしまう。それに、ゲートのことが広まるのはあまりいいことではないだろう。
(なんとかして防ぎたいところなんだが・・・・・・)
俺にはどうすることも出来ない。今無理やり奪っても、奪い返されるだけだし、指輪に先回りなんてとてもじゃないが無理だ。俺だけどこかに行ってしまったらそれこそ怪しまれる。そもそも俺指輪の場所なんて知らないし。
「『指輪は校長室前廊下の、額縁の裏にある。その指輪を持って、午後六時に消失の間にいるだけでいい。ゲートが開いてこちらの世界と連絡が取れるはずだ』」
色々考えるものの、良案が浮ばず非常に残念だが諦めることにした。なるようになるさ。
「指輪は校長室前廊下の、額縁の裏にあるみたいね。とりあえず行くわよ」
俺は気が進まないものの、トボトボと最後尾を歩く。
階段を降り、校長室へ向かう途中、人とすれ違った。
安藤?こんな時間になにやってるんだ
その人物は、安藤だった。
安藤と俺がすれ違った瞬間、安藤が俺に目配せをし、一言
「大丈夫」
安藤ではなく、伊藤だ。
伊藤が何に対して大丈夫と言ったか、なんとなくだがわかる。俺の予想が正しければ、指輪は見つからないはずだ。
それから、目的地に到着し、額縁をいくら探しても指輪が見つかることは、無かった。
「ふむ、既に誰かが持ち去った後か、そもそも偽情報だったかのどちらかだ。俺としては安藤だったか?まあいい。アイツが怪しい」
「そうね、明日コンタクトを取るべきね」
「でも、単に安藤君は職員室に用があっただけで無関係の可能性もあるんじゃない?」
部長達は熱心に推理している。おそらく指輪を持ち去ったのは伊藤で間違いないだろう。じゃなきゃ日曜に学校に来ている理由がわからない。なんらかの方法で指輪を取りに来ることを知り、先回りしたと考えるのが妥当だ。どんな方法を使って知ったのかはわからないが。
結局その日はどうすることも出来ないだろうということで、明日安藤に事情を聞くことだけ決め、解散となった。
「期待してたのにこんな結果になるなんてつまらないわね」
「しかし、この興味深い手順書を入手することが出来たのだ。まあ上出来だろう」
古畑が手元の手順書をヒラヒラさせている。分析するのは古畑が適役だろうということで、古畑が持ち帰ることになったのだ。結局タイミングが合わず、俺はあの手順書の内容を一切見ていないのが残念だ。対策の取りようがない。
ま、古畑が明日にでも報告してくれるからその時でいいか。