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 今日は土曜日、休日だ。今日は一日ゴロゴロ過ごすぜ!・・・と行きたいところなのだが、あいにく今日は時間をかけての本掃除だ。

集合時間は朝九時。さっさと朝飯を済ませ、家を出る。

「あれ?お兄ちゃん制服でどうしたの?」

丁度すみれが降りてきた。

「今日部活だから。帰りは遅くならないと思う」

「いってらっしゃーい」

妹に見送られた。

学校についたのは集合の十分前だったのだが、俺がラストだった。はえーなおい。

「じゃっ、全員揃ったことだしはじめますか」

部長の合図と共に掃除が始まる。今日は本掃除だ。

長期間、埃っぽいところに放置されていた本だからな。ちゃんとメンテナンスしないといけない。

今日は協力者が居る。野球部だ。

さすがに俺らだけで全ての本を運ぶのは不可能だからな。ということで野球部に応援を要請したのだ。

筋トレになり、そして七不思議の舞台として知られる図書室への興味心もあってか、快諾してくれた。

ちなみに、山神に「今日は見ているだけで何もするな」と言ってある。下手に何かして、野球部の連中が怖がって逃げたら困るからな。

そのせいか山神は少し不機嫌なようだ。後で機嫌を取っておかないといけないか。

「失礼します、野球部っす」

お、来たか。

タイミングよく野球部のメンバーがやってきた。

「野球部の人達には本を運んでもらいます。指示はそこにいる江神君からもらってください」

「まず、本を台車にのせ・・・」

野球部員に指示を出し、次々と本を運び出していく。

運ぶのは野球部員に任せて、本を干す場所の確認に行くか・・・。

力仕事は得意じゃないしな。俺が下手に手伝うより、野球部を信用するほうがいいだろう。

本を干すのは体育館。本当はバスケ部が使っているらしいんだが、特別に外練に切り替えてもらい貸してもらったのだ。ちなみに部長がその手筈を整えてくれていた。

体育館にはビニールシートが張られている。この上に本を置くのだ。

っと、空気を通すために体育館のトビラとか小窓を全開にしておかないとな。

駆け足で全開にしていく。

 窓空けが終わったころに、丁度本を持った野球部員が到着した

「その本はここに、その本は・・・」

と指示を出す。本当は分類シールでもあればもっと楽だったのだが、閉鎖されていた図書室だ。そんなシールでの本管理はされていなかった。

それから一時間以上かけ、全ての本を運び終える。

「野球部員の皆さんありがとうございました。これで一旦終わりです。夕方、本を戻す時にまたお願いします」

野球部員の出番はとりあえずここまでだ。ここからは俺らだけでやることになる。野球部にも部活があるからな。仕方ない。


「あ、そうだ」

ふと思いつく。野球部員達は幽霊に興味あるんだろうか。ちょっと山神に協力してもらって、本を運んでくれたお礼に山神にちょっと何かやってもらってもいいかもしれない。

運よく俺のすぐ傍にいた山神に聞いてみる。

「なあ、山神。野球部員をちょっと驚かせたいんだがいいか?」

山神が首を傾げる。

「なぜそんなことを私に聞くのかしら。勝手に自分でやればいいと思うのだけど」

「いやな、野球部の人達が手伝ってくれたのって、図書室の七不思議のおかげもあると思うんだよ。だからな・・・」

そこまで言って山神が察したらしい。

「まったく、そんな下らないことを思いつくなんてね。まあいいわ。手伝ってあげる」

「サンキュ、山神は何をするかでも考えていてくれ」

山神の同意が得られたことだし、夕方本を運び終えたときにやるかな。

「えっと夕方、この本を戻し終えた時に、七不思議に関連した少し面白いものを見せたいので、興味がある人は時間を空けておいて欲しいです」

実際は七不思議に関連したってより、七不思議の元凶そのものなんだけどな。

野球部員達がざわめく。興味を示してくれたようだ。これは結構な数見てくれるかな?

「では野球部の方々は解散で」

といっても即部活に行くんだろうがな。


 さて、ここからは図書部員・・・じゃなかった、オカルト研究部員(仮)の役目だ。

本をペラペラっとめくり、空気を通しつつ軽くぬらした雑巾で拭く作業。これをすることにより、本の状態が多少はよくなる。

ついでに本としての役割を果たせそうに無い本は処分する。

ちなみに、山神は図書室以外で物に触れることが出来ないので図書室の本棚掃除を頼んだ。

本を全部出してる間にしか出来ないからな。かなり念入りにやってもらわないといけないだろう。


それから数時間後・・・

「やっと終わったわね」

「さすがに疲れたな」

一通りの作業が終わった。あとは夕方まで放置した後、野球部員と一緒に回収するだけだ。

時刻は昼一時。昼食を食べずにやっていたので空腹だ。

屋上で食べようという話になって、屋上に移動した。

 今日の昼食は俺と部長が全員分のご飯をそれぞれ持ってくることになっていた。

俺が作ってきたのは、俺が握ったおにぎりと、家にあったパン作成機(?)で作ってきたパンだ。

本当はちゃんとした弁当にしようかと思っていたのだが、メイド喫茶の一件のせいで食材を買うのをすっかり忘れていたのであきらめざるを得なかった。

「俺はおにぎりとパンだ」

と見せる。

「私はこれ」

といって取り出したのは・・・

「じゅ重箱・・・」

いかにもおせち料理を入れるのに使いそうな箱だ。

中身は明らかに高級食材っぽい。

水姫の親戚というだけあって、きっと部長も金持ちなんだろうな。

俺の作ってきたものと比べると比較にすらならないレベルだ。

「もう、お姉ちゃん、この料理また作ってもらったんでしょ」

水姫がクレームを言う。

「いや、私は作ろうと思ったんだけどね。コックさんが・・・」

やはりそうか。一般高校生がここまでの料理と量を作るなんて早々できるものじゃないからな。

はぁ。

俺の持ってきた奴が残らないことを祈る。

それから話しながらのんびりと昼食を終える。結局すべての料理が食べられ、余りは無かった。

「ごちそうさまー、じゃあ図書室掃除に行くよー。綾乃ちゃんだけに任せちゃってるからね」

そうだったな。山神は一人寂しく図書室掃除を割り当てたんだった。図書室以外では物に触れないからしょうがないんだが。

古畑が本を見渡しながら言う。

「・・・ふむ、いくら古本といえど放置するのは危険だろう、俺はここに残っておく」

確かにな。盗んだりイタズラするバカが居ないとも限らない。

「わかった」

古畑は体育館に残り、他のメンバーで図書室に戻る。

図書室に戻ると山神は本棚掃除をしていた。

「山神、どうだ?どのくらい終わった?」

「あと三分の一くらいかしら。あと残っているのはここからあそこまでの区間だけよ。あ、でも数十分前に業者が照明を置いていったわ」

照明切れてたから教師に頼んでたけど案外早かったな。

見た感じ掃除されたほうの本棚はちゃんとキレイになっている。真面目に掃除してくれていたようだな。

「おっけー。んじゃ残りは俺らでやるから山神は休んでてくれ」

さすがに疲れているだろう。幽霊に疲れがあるのか知らないが。

山神は図書室を出て行った。図書室にいてもやること無いんだろうな、今、本を皆だしてしまっているし。

山神が見えない勢に残っている部分を割り振り掃除を始める。ただし俺は本棚掃除ではなく照明取替えをした。

山神がかなり掃除していたので割り振られた本棚はかなり少なく済んだ。

三十分程で本棚掃除と照明入れ替えが終わり、埃が落ちているだろうということで床掃除を始める。

 床掃除もすぐに終わり、外していた窓やドアをはめる作業にはじめる。これらの作業は三十分ほどで終わった。時間はそろそろ夕方四時になろうとしている。

「カーテンどうするわけよ。結構汚いわよね」

京香がカーテンを汚物を持つかのような持ち方で俺に見せる。

「ああ、どこかで洗濯しなきゃならんと思うんだが、誰かやってくれないか?」

誰も手を挙げない場合は俺ん家でやるつもりだ。学校に設置されている洗濯機を借りるという手もあるのだが、確か洗濯機は泊り込みの人用しかないはずだ。借りられる可能性は低い。それにこんな汚い奴をそういう洗濯機で洗うのは失礼だろうしな。

 誰も手を挙げなかった。

「んじゃ、俺の家で洗う」

洗うのは別に良いのだが、カーテンは結構な量がある。俺一人で運ぶのは無理だな。古畑に頼むか。

「古畑、悪いが・・・」

って。古畑体育館に残ってたな、こっちに来てないのか。それに・・・そういや山神の姿も見えないな。

体育館に残った古畑はともかく、休憩で出て行ってから一度も山神が戻ってきていないのは少し気になるな

「とりあえず体育館に行くか」

古畑がいるだろうし、それにそろそろ本を戻す時間だ。野球部員も来るだろう。

 体育館に到着する。しかし

「あれ、居ないな」

古畑の姿は無かった。まぁ古畑が突然居なくなるなんてよくあることだ。気にしないでおこう。

だが山神が居ないのはちょっと困るな。野球部員に幽霊の存在見せて驚かせてもらおうと思っていたのだが・・・

 数分後、野球部員の一団がやってきた。山神、そして古畑の姿は無い。

「ではいまから本を戻してもらいます。この本から・・・」

ここに運んだときと同様、野球部員に指示を出し本を移動する。野球部員も慣れてきており、ここに運んだときよりも早く本が運ばれていく。

周囲を見回したり軽く古畑と山神の姿を探したのだが、二人とも姿を見せることは無かった。

数時間後、本を図書室の本棚に戻し終える。運ぶのは早かったのだが、元の本棚に戻す作業に案外時間を食ってしまった。

日はかなり落ちており、結構暗い。

 野球部員、そして俺達は今全員図書室に居た。

「今日はありがとうございました。お疲れ様です」

野球部員達の手伝いがあってもこの時間だ。もし手伝いが無かったら、一日じゃ終わっていなかっただろう。本当に感謝している。

本当は野球部員達を驚かせようと思っていたのだが、肝心の山神が居なけりゃどうしようもない。しかたないがお帰り願おう。

「えっとですね・・・」

カチッ

その音と同時に照明が落ちる。誰かがスイッチを押したのか?

既に日が沈みかけなのでかなり暗い。ただし遠くから来るグラウンドの照明があるからか明るい月明かり程度は周りが見える。

「面白いものが始まるんですか?」

野球部の一人が俺に訊く。

「そんなはずは無いんだけどな・・・」

山神が居ないから俺は断念するつもりだし、それに俺は何も知らない。

「!?」

その野球部員が突然驚いたようにある方向を指差す。

そこに居た人が一斉にそこを見ると・・・

デカイ布を被った人がいた。布で体は見えないが誰かがいるんだろうということはわかる。動いてるし、手の形もわかる。

「う~ら~め~し~や~」

突如いかにも偽者の幽霊って感じの声が響く。

ん?この音は確か・・・

「これが面白いものって言うのか?人をバカにするのは大概にしろよ」

野球部員の一人がそう言いながら布に触れ、そして思い切り引っ張った。

そしてその布が剥がれるとそこにいたのは・・・

山神?

山神だった。ずっと姿が見えなかったのに一体いきなり何してんだ。って待てよ。

「だ、だれもいない・・・」

他の奴には山神の姿は見えない。つまり、明らかに誰かが被っているはずの布を外したはずなのにだれもいなかった、と見えているはずだ。

「こ、こんな程度・・・」

野球部員達は驚いている。静香や部長達は、一体何が起きているのかなんとなく気づいているっぽい。幽霊の存在知ってりゃ当然か。

山神は死角となっている本棚のほうへ入る。

「取ったなー、ユルサナイ・・・ユルサナイ」

そんな声が響く。というかこの声、あのノートPCのソフトだろ。

そして手に小包丁を持った山神の姿。料理でよく使う奴だな。

っておい、それじゃ包丁が浮いてるように見えるだろ。

・・・なるほど。

俺はどういうことか理解した。裏幕は・・・古畑だな、間違いない。それなら二人の姿を見なかったのも頷ける。

「コロス・・・コロス・・・コロス」

ホラー風に加工された声が流れる。

山神はナイフを持ったまま不思議な踊りをしていた。他の奴から見たらナイフが独りでに動いている図に見えるだろう。しかし種を知っている俺から見たらまったく怖くないな。が、驚いている人を見るのは面白い。お化け屋敷の驚かせる側の気持ちがよくわかった。

カチッ

一気に明るくなる。どうやら、部員の一人が電気をつけたようだ。

「ど、どうせ誰かが何か仕掛けをしているだけ・・・。なっ、何もない・・・!?」

しかしそんなものは無いんだな、それが。というかそれしてるの実際に幽霊だし。

山神が一歩、また一歩、野球部員に近づいていた。

「来るな、来るな、うわあああああ」

野球部員の一人が逃げ出した。それに続いて他の野球部員も逃げ出す。

 結局、図書室から野球部員の全員が居なくなった。

「ハッハッハッ、計画通り」

本棚の影から古畑が出てくる。

「やっぱお前が裏幕か」

「裏幕ではない。山神と共闘しただけだ」

そういいながら古畑は手に持っていたリモコンらしきもののスイッチを押す。すると図書室の照明が付いた。

「どうなってんだ?」

この学校の照明に遠隔操作機能なんて無かったはずだ。壁にあるスイッチを押さなければ付かない。

「すごいだろう。今日電子機器部に依頼して、大急ぎで作ってもらったのだ」

自慢げにリモコンを見せつける。

電子機器部なんてあるのか・・・一日でそんなもんを作るなんてすげーな。

「お前が山神と組んでなにやら企んでいるようだったのでな。しかしお前は甘いから中途半端になるだろうと思い俺からも動かせてもらった。山神が協力的で非常に捗った」

やれやれ。あの野球部員達にとってはトラウマだろう。図書室の本掃除を手伝っていたはずなのに幽霊に殺すとか言われるんだからな。変な噂流されなきゃいいが・・・

「でもあれねぇ、仕掛けがわかってると全然怖くないわね」

京香が当たり前のことを言う。

仕掛けがわかってるものを見て驚くようなら、それこそ本物のホラーだろう。映画なら「全米が恐怖した」という売り文句になるレベルだ。

 全米って何で全米なんだろうな。米はアメリカだろ?全米、つまりアメリカの全部って意味だこの場合、アメリカ人皆と言う意味に受け取れる。しかし、なぜアメリカ人に限定する必要があるのか。多くの人がって意味で使うのならば、「全世界が~」のほうが適当だと思うのだが。狙いがよくわからん。今度ネットで調べてみるか。

 ふと山神を見ると、かなり機嫌がよさそうだ。何か生き生きしている。幽霊なんだけどな。こいつ人を驚かせるの好きなんじゃねーか?

「さて、帰らないとな」

時計を見ると七時近かった。本当は山神に色々訊きたいのだが・・・

妹に遅くはならないと言って来たが、もう十分に遅い時間だろう。これ以上遅くなるとヤバい

「そうね、帰りましょ」

その前に明日どうするか決めないといけないか

「部長、明日どうします?一通り掃除終わりましたけど」

と部長の意見を仰ぐ。

「うーん。明日も来てくれないかな?」

何かやるべきことがあるのだろう

「了解です。じゃあ今日と同じ時間に集合ってことで」

そのまま流れで帰宅し・・・というところで

「ちょっといいかしら?少し話があるから残ってくれると助かるのだけれど。今日話したいの」

山神に引きとめられた。

ちょっとだけだぞ」

これ以上遅くなったら妹に何言われるかわからんからな。

「失礼する」

「じゃあまた明日」

「お疲れ~、鍵返却お願いねー」

と皆を見送り、図書室に居るのは俺と山神の二人だけになった。

「んで、話って何だ?」

明日も来るってのに引きとめてまで話すべきことってなんだろうか。

「ついて来てくれるかしら。こっちよ」

俺が答える前から勝手に歩いていった。

「やれやれ」

山神の背中を追いかけ、俺は図書室を出て行くのだった。




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