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第7話 正体

 目の前に誰かいる。何故か視界がぼやけていてそれが誰かわからない。

 それが誰かを確認しようとしたが身体が思うように言うことを聞かない。

 乙矢がもがいていると、その誰かが近づいて来た。あれは、誰だ……乙矢には見覚えがあった。

 それもそうだろう。なにせ、自分と同じ顔をしているのだから。

 それが乙矢の目の前に来て、ニタァと笑った。

 そして徐に手を伸ばしてその手を、乙矢の首にかけた。



 そこで乙矢は目を覚ました。

 全く嫌な夢を見たものだ。昨日『幻想堂』で聞いた話の影響だろう。

 そんな夢を見たせいか、乙矢は嫌な予感がした。

 その予感を振り払うように乙矢は二、三度頭を振ってベッドから起きた。


 学校に到着して、乙矢は一限目の授業の準備を始めた。

 今日のお昼休みに菖蒲にどう話そうかと乙矢が悶々としていると、ちゃんと授業を聞け、と教師に注意された。

 本当に今日はついてない。朝から悪夢は見るし、教師には注意されるし、踏んだり蹴ったりだ。

 昼休みまでの授業全てで、乙矢は教師に注意されていた。

 本当に今日は運が悪すぎる。

 クソッと乙矢は悪態をつき、菖蒲に会うために屋上に向かった。そこには既に菖蒲が待っていた。


「こんにちは、先輩」


 菖蒲は儚げな顔で乙矢に挨拶をした。


「こんにちは、菖蒲ちゃん。大丈夫?」


 乙矢が聞くと、はい大丈夫ですと菖蒲は言った。

 乙矢は、昨日と同じくフェンスの側に座っている菖蒲の横に座りお弁当を広げた。


「それじゃドッペルゲンガーについて聞いて来たから説明するね」


 乙矢の言葉に少し怯えたような顔をしてから、菖蒲はお願いしますと言った。


「それじゃあまず、簡潔に答えを言うね。ドッペルゲンガーを見ても殆ど危険はないんだって」


 すると、菖蒲はほっとしたように良かったと呟いた。

 信じているのか、いや恐怖を感じたのなら当然か。


「でもね。稀に、本当に極稀に危険な事もあるらしくて、もし心配なら直接調べてくれるって言ってたけど、どうする?」


 すると菖蒲は間髪入れず、行きますと言った。

 いつ行くかと乙矢が聞いたら、今日にでも、と菖蒲は言った。


「じゃあ放課後にE区の駅前にあるコンビニにで待ち合わせね」


「わかりました。着替えたらすぐ行きます」


 にこやかに菖蒲は答えた。

 それに乙矢は何か違和感を感じた。何故だ。


「先輩、どうかしましたか。」


 キョトンとして菖蒲が聞いてきた。

 ようやく乙矢は違和感の理由に気付いた、表情だ。さっきまで怯えた表情ばかりだったが、今は少しではあるが菖蒲の顔に笑みが浮かんでいる。

 その笑顔はとても可愛いかった。

 同性相手に見惚れるなんてビックリだ。


「そうだ菖蒲ちゃん。そんな堅苦しく先輩なんて呼ばないで乙矢でいいよ」


 そう菖蒲が言うと、わかりました。乙矢さんって呼ばせてもらいますと菖蒲は言った。

 乙矢さんて、響きだけなら完全に男じゃないか。


「あの、私の事も呼び捨てでお願いします」


 分かったよ、菖蒲。と、乙矢が言った所で昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。



 放課後、菖蒲と待ち合わせをしていたコンビニに乙矢が行くと、既に菖蒲は到着していた。


「お待たせ。それじゃあ行こうか」


 菖蒲ははい、と可愛らしく返事をしてくれた。

 『幻想堂』に向けて乙矢達が進んでいると、不意に菖蒲が若干の照れを含んだ感じで、声をかけてきた。


「あ、あの。お、乙矢さん、これから行く場所ってどんな所なんですか?」


 照れながら言われて、乙矢まで恥ずかしくなってきた。


「えっとね、『幻想堂』って言う雑貨屋さんなんだけどね、すごい美形の男の人と、超生意気で古臭い喋り方をする、これまたとんでもなく美形の女の子がいるんだけどね、怪しい所じゃないよ、雰囲気は妖しいけど、別に変な所じゃないから安心してね」


 自分の発言が馬鹿だなぁと乙矢は思った。

 なんて言うべきか、支離滅裂かな。

 そんな乙矢の言葉にそうなんですかと菖蒲は目を輝かせていた。

 今の乙矢の説明の何処に目を輝かせる要素があったのか、そのうちに『幻想堂』の前に来ていた。


「うわっ、すごい」


 乙矢の隣で菖蒲は初めて『幻想堂』に来たときの乙矢達と同じ反応をしていた。


「でしょ、すごいでしょ? 中はもっとすごいよ」


 言って乙矢が扉に手を掛けようとしたら、カランコロンと音を立てて扉が開いた。


「何をしとるんじゃ乙矢。さっさと入って来んか」


 今まで乙矢が見た中で、一番機嫌が良さそうな顔をした玉藻が中から扉を押し開いていた。

 玉藻はそのままの姿勢で菖蒲を一瞥した後、紅蓮は今紅茶を淹れているからソファーに座って待っていろと言い、乙矢達を招き入れた。


「はじめまして。私は小野寺菖蒲と言います。今日はよろしくお願いします」


 と、菖蒲は玉藻に言った。

 玉藻はうむ、妾は玉藻と言う。さ、入るが良い。

 と言った。

 はたから見ても、乙矢と菖蒲に対する態度は全然違う。

 乙矢が中に入って呆然としていた菖蒲をソファーに座らせるとすぐに玉藻も戻って来て、菖蒲の向かいに座った。


「菖蒲よ、ぬしは何故ずれておる?」


 玉藻の発言の意味がわからず、二人して首を傾げていると、自覚はないのか、ならばよい、気にするなと玉藻は言った。

 玉藻の発言の意味を乙矢が聞こうとしたら、紅茶を淹れた紅蓮がやってきた。


「はじめまして。僕がこの『幻想堂』の店主、士道紅蓮。よろしくね」


「はじめまして。小野寺菖蒲です。よろしくお願いします」


 二人がのほほんとした雰囲気で挨拶を始めた。

 そんな事をしている場合ではないだろうに、二人してニコニコ微笑んでいる。


「あの、士道さん、彼女がドッペルゲンガーを見た子なんですけど……」


 乙矢の言葉を聞き、紅蓮はそうだったねと言った。


「じゃあ、菖蒲ちゃん、でいいかな? 早速だけど視させてもらおうかな。楽にしてていいからね」


 そう言った紅蓮は席を立って菖蒲の後ろに回った。


「くすぐったいかも知れないけど、身体から力を抜いてリラックスしててね」


 邪魔になってはいけないと乙矢も席を立って紅蓮から数歩離れた所に移動した。

 乙矢が見ていると、紅蓮は菖蒲の両肩に手を置いた。

 すると、紅蓮の手が前みたいに徐々に光り始めた。

 その光りが菖蒲の身体中に広がると、菖蒲はくすぐったそうにビクッと身体を動かしたがそれも一瞬で、すぐにまたリラックスし始めた。

 ほんの一分程だろうか、紅蓮は菖蒲の肩から手を離した。


「もう終わったよ」


 そう言って紅蓮は元の席に戻り、乙矢もまた菖蒲の隣に座った。


「非常に言いにくいんだけど……かなり危ない状態だ」


 危ないと紅蓮はいったが、シェイプシフターなのだろうか?

 しかし、シェイプシフターの可能性はかなり低いのではなかったのか。


「まさかシェイプシフターなんですか?」


 そんな低い可能性に当たったとしたら菖蒲はどれだけ不幸なんだろうか。


「いや、シェイプシフターじゃなかった。でも危険度ならこっちの方が高いよ」


 シェイプシフターより危険なのか。紅蓮の話を聞いた限り、シェイプシフターはかなり厄介そうだったのだが、それより危険なモノとは何だ?

 乙矢がそんな事を考えていると、玉藻がやはりな、と言った。何か知っているのだろうか。


「菖蒲ちゃん、君を狙っているのは鬼だ。まさかこんな回りくどいことをする鬼がいるとは思ってなかったからね、正直予想外だよ。何か鬼に狙われる理由に心当たりはないかな?」


 紅蓮の言葉に菖蒲は困ったように思案しているが、どうも心当たりはなさそうだ。

 すると玉藻がそれに答えた。


「心当たりなんぞないじゃろうな」


 玉藻は何か知っているようだ。


「理由は単純じゃ。なにせ存在そのものが狙う理由じゃからな」


 紅蓮も訝しんでいる。どうやら玉藻の言った事は紅蓮にもわからないらしい。


「なんじゃ、紅蓮もわからんのか。仕方ない、教えてやろう。名前じゃ、菖蒲と言う名前が狙われる理由じゃ」


 名前が理由とは、どういう事だ?

 菖蒲と言う名にどんな意味があるのか。


菖蒲あやめとは菖蒲しょうぶの古い読みじゃ。それにの、鬼にとって菖蒲は毒じゃからな。『力』を持つ菖蒲は鬼に害なす可能性があるからのう」


 『力』とは何か、乙矢にはわからなかったが、どうにか出来ないのだろうか。


「紅蓮、菖蒲を狙っておるのがどの程度の鬼かわかるか?」


 玉藻の質問に、大した『力』は感じないと紅蓮は告げた。


「ふむ、ならばこれをやろう」


 玉藻は菖蒲に金色のミサンガのような物を渡した。

 あれは何だろか、とても綺麗だ。


「何ですか、これ?」


 菖蒲の質問はもっともだ。それに玉藻が人に何かを渡すとは、乙矢はそのことに一番驚いた。


「御守りじゃ。それを身につけておけば、大方の鬼はぬしに近づけん。学び舎が休みになったら昼のうちに来るがよい、その時に鬼は退治する、良いな」


 否定を許さない強さを感じる声で玉藻は言った。


「あのさ、つまり週末までは何も起きないの?」


 乙矢の問いに玉藻は−−酒呑や大嶽丸ほどでなければ何も出来ん、と答えた。


「さあ、今日は帰れ。親が心配しても知らんぞ」


 そう言われて、乙矢達は、また土曜日に来ますと言い『幻想堂』を後にした。


 帰り道、乙矢は気になった事を菖蒲に聞いた。


「ねえ、退治するならすぐにしてもらった方が良かったんじゃないの?」


 その問いに一瞬思案して菖蒲は答えた。


「玉藻さんが大丈夫って言ったから。それに玉藻さんは信用出来る人だと思います」


 玉藻が信用出来るというのは分かるが−−正直、さん付けはどうなんだ。

 そう言った乙矢に菖蒲は笑顔で答えた。


「玉藻さんは、さん付けしないと駄目な気がして、それにこう見えて人を見る目には自信があるんですよ」


 そう言った菖蒲の顔は本当に安心していた。




 二人が帰った後、紅蓮は玉藻に問いかけた。


「玉藻、君の髪で編んだ御守りをあげるなんてよっぽどあの子が気に入ったのかい?」


 ふん、と一つ鼻を鳴らしてから玉藻は答えた。


「ただなんとなく気になっただけじゃ。それにあやつ、今は眠っているようじゃがかなりの『力』を持っておるぞ」


 そう言って玉藻は不敵な笑みを浮かべながら横目で紅蓮を見た。



 ドッペルゲンガーもシェイプシフターも今回は関係ありません。

 散々引っ張ってなんですが、一応ドッペルゲンガーは近い内に出てきます。

 むしろ今回は菖蒲の御披露目と次回の玉藻のターンがメインです。

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