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第2話 『幻想堂』

 夕飯の後、早矢に呼ばれて部屋に行くと何やらニヤニヤとした笑みを浮かべた早矢が、椅子の背もたれに顎を乗せながら此方を見ていた。


「何? お姉ちゃん」


 そう問いかけた私にの声に、早矢は一瞬笑みを深める。

 悪戯が成功した子供みたいだなと思っていると一転、真面目な顔に戻った。


「乙矢が帰って来たとき話してた事なんだけど、連絡先聞いたら場所教えられてね。E区にお店があるんだって」


 E区。家の最寄り駅から二駅の所である。

 一応首都圏近郊にあるこの街の中心部だ。

 所謂繁華街と言うやつで休日ともなればそこそこの人でごった返すことになる。

 それよりもだ。


「お店ってどういうこと? 事務所とかじゃないの?」


 そう、私の勝手なイメージだが、霊能者云々と言えば寺や神社、もしくは事務所的な何かだと思っていたのだが、お店とはこれ如何に?


「うん、お店らしいよ。駅を出てメインストリートを500mくらい進んで少し奥まった所にあるらしいんだけどなかなかいい立地だと思わない?」


 確かにいい立地条件だと思う。しかし問題はそこじゃない。


「そうじゃなくて、お店って何?」


「そこは何? じゃなくて何のお店? じゃないかしら。」


 そういうことではないだろう。

 私は自分のイメージとかけ離れすぎているそのお店とやらに不信感が募る。

 もともと胡散臭いとは思っていたが流石にこれはないだろうと呆れた。


「ああ、絶対ハズレでしょ、何か有り難さとかないよ」


「そうかな、意外と本物かもしれないわよ。まさかって所にいるのはありだと思うな」


 ありだと思うな、ではない。どこの夢見る少女だ。

 私はいい年齢して何を言っているのだろうと顔には出さないものの早矢の態度に呆れてしまった。


「何か余計な事考えてない?」


「あはははは、考えてません」


 むぅ、鋭い。

 早矢こそ、何かの能力者とかではないのか。

 それとも私が顔に出やすいだけなのか。


「それでね、そのお店なんだけどぱっと見は妖しい雑貨屋さんなんだって」


 妖しい雑貨屋? 益々持って何か駄目な感じがする。


「そうなんだ。確かに魔女とかが居るにはぴったりかな」


「そうね。でも妖しいのは外見の雰囲気だけらしいし。お店の中はいい感じのアンティークとかを取り扱ってるんだって」


「それこそ霊能者云々は嘘でしょ。それ絶対普通の雑貨屋さんだよね」


 妖しげな雑貨屋など沢山あるだろう。

 というより、アンティークな雑貨屋なんて大体そんな雰囲気を出しているものだ。


「そうでもないかもしれないでしょ。どうせ信じてないなら一回くらい行ってみてもいいんじゃないかな」


「それもそうだね。わかった、行ってみる。それでお店の名前は?」


 名前が分からなければ行きようもない。

 どうせ無駄足だとは思うがとりあえずと、店の名前を聞いてみる。

 いかにもな横文字を使っているんだろうなと勝手に想像しながら私は大きく溜め息を吐いた。

 もしかすると吐きそうになるような馬鹿馬鹿しい名前かもしれない。


「名前? ええそうね。お店の名前は『幻想堂』って言うんだって」


 と、勝手なイメージで"霊能者"とやらを馬鹿にしていると早矢がメモを見ながら答えた。

 横文字は使っていなかったが、これはまたあざとい名前だ。

 『幻想堂』か、どんな所かは知らないがまあいい。

 明日、其処にいけば分かるのだから。


「私も一緒に行くからね」


 ん? 早矢はなんといった。

 一緒に行く? まあいいが、何故そんなことを言い出したのだろう。

 休みの日は大体家で寝ている筈の早矢が、一体何故に?


「なんかね、其処の店長さんがスッゴいイケメンなんだって」


 この台詞を聞いた私は思いっきりこけそうになった。

 別にオチをつけなくていいのに。

 早矢と明日の朝10時に家を出発することを決め、私は自分の部屋に戻った。

 部屋に戻った後、私は今日の出来事を思い返す。

 幽霊なんていない。

 そう思っていたし、今でもそう信じたいと思ってはいる。

 しかし、ではあれは何だったのだろう?

 顔面蒼白で血塗れ、そして身体が透けていたじゃはないか。

 あれは幻覚でも錯覚でもない。

 そこまで思い返して私は−−これがタイクツな日常を少しでも変えてくれるのならば幽霊がいてもいいかも知れないな。と思った。




 朝目が覚めて最初に思った事は、なんていい天気なんだ、だった。

 太陽も偶には職務を放棄したっていいのに。

 そんな馬鹿なことを考えていると、ノックの音もなく扉が豪快に開かれた。


「乙矢、朝だよ起きなさい! さあ早く起きるのよ」


 早矢は何故こんなに朝からハイテンションなんだろうか。

 このまま黙っていたらどんな反応をするのかなと思いつつも、私はとりあえず返事をすることにした。


「起きてるよ。それよりお姉ちゃん、朝から五月蝿いよ。なんでそんなにテンション高い訳?」


「そりゃテンションも上がるわよ。だってイケメンに会えるのよ」


 若干鬱陶しそうに返したのだが、どうやら早矢は気にもしていないらしい。

 昔から浮いた話のない早矢でも、一応色恋沙汰には興味があるようで安心した。

 モテるのだから恋人でも作ればいいと思うのだが、学生時代は勉強が、社会人になってからは仕事が恋人な早矢では寄って来た男にも気付いていない可能性もある。

 そんなことを思いながら私はベッドから起き上がり洗面所に向かった。


 昨夜話し合ったよりも少し早めに家を出た。

 乙矢達がE区へ向かう電車に乗り込むと、結構な数の人がいる。

 休日を過ごすのに繁華街に行く人はこんなに多いのかと乙矢が感心していると早矢に、乙矢もその内の一人だと言われた。

 そんなこんなでE区に着いた所で早矢が朝食にしようと言い出し、喫茶店に入ることになった。


「お姉ちゃん、本当に奢って貰っていいの?」


「あのね、乙矢は私の妹なんだからさ、タカってやる! くらいに思っていいのよ」


 早矢の給料額など知るよしもないが、妹なりに乙矢が気を遣ったというのに、あっさりとそう言われたので乙矢は、早矢と同じクラブハウスサンドと珈琲を頼んだ。

 遅めの朝食を終えて、再び乙矢達は件の『幻想堂』に向けて歩を進めた。

 それなりの人混みを通り抜けメインストリートから少し奥まった道に入ると、すぐに目的の店が出てきた。

 大きな看板に『幻想堂』と表記してある。

 なんだろうか、乙矢が想像していたよりもかなり妖しい。

 いや、妖しいと言うよりも幻想的といったほうが合っている。

 名前負けしていない、まさに『幻想堂』だと乙矢は感じた。


「何か凄いね」


 早矢の言葉に乙矢はコクリと頷きつつ、お店の扉を開いた。

 今時木製の手動の扉なんて珍しいなと乙矢が思っていると、扉の動きに合わせて、カランコロンと軽快にベルの音がなる。


「あの、お邪魔します」


 早矢が少し萎縮した感じの声でそう言うと、店内に入っていったので乙矢も後に続いた。


「うわっ、すごい」


 早矢は呟いたが乙矢は反応出来なかった。

 確かにすごい。

 いや、なんと言えばいいのか、言葉に出来ない。

 無理に言葉に当てはめるならば荘厳と言ったところか。

 乙矢は、教会などには入ったことはないが、恐らくはここまでの静謐さはないだろう。

 乙矢がしばらく呆けていると、早矢が店の奥に向かって行ったので、乙矢も後に続く。

 外観からは想像出来ない広さの店内を奥に進むと、一卓の大きな木製の机と、大きなソファーがあった。

 恐らくはこれらもアンティークだろう。

 その机の上には何処の言葉かは分からないが、文字や何かの模様のようなものが描かれ書類が、恐らくはこれも古いものだろうと分かる分厚い本と共に、乱雑に積まれていた。

 しかし、何よりも乙矢の目を引いたのは、その机を挟んで向かい側の椅子に座り、これまた分厚い本を読みふけるとても綺麗な男性と、ソファーに腰掛けながら何やら難しい顔をしている可憐な少女だった。

 そんな二人を見て言葉を失った乙矢達姉妹に、少女は気がついたのか、顔を上げ声をかけてきた。


「何じゃおぬし等は、客か?」


 客だと思っているのとすれば、あまりと言えばあまりな台詞だが、乙矢達は反応出来なかった。

 反応出来なかったというより、その声に、鈴の音のような美しい声に聞きほれていたのである。


「おい、余り呆けておらんで何か言ったらどうじゃ」


 そんな美しい声が全く似合わない音を出していることも気にならないほどに、乙矢は惹かれてしまっていた。


「あ、は、はい。えっと客です」


 なんとか正気に戻った早矢がそう返すと、その少女はそうかと一言呟き、ソファーから立ち上がった。

 その少女は乙矢が思ったよりも小さい。

 百四十cm位だろうか、腰まである流れるような綺麗な金色の髪を鬱陶しそうに一度後ろに払って、少女は大きな机の横に立ち、綺麗声を惜しげもなく披露した。


「おい紅蓮、客じゃ」


 どうやら机に向かう男性に声をかけているようだ。

 紅蓮と言うのはこの男性の名だろう。

 しかし男性は全く反応しない。


「おい紅蓮、客じゃと言うておろうが!」


 男性は声を掛けられてはいることにも気付いていないのだろうか、一心不乱に広げた本を読みふけっている。


「紅蓮! いい加減にせんか!」


 三度声を掛けた後、あろうことか少女は、男性が座っている椅子を蹴り倒した。


 乙矢達がどうしたことかとおろおろてしていると、男性は立ち上がり此方を一瞥したあと少女の方に向いた。


「玉藻、いきなり蹴飛ばすなんてひどいよ。それにお客様が来ているなら声をかけてくれれば良かったのに」


「阿呆か貴様は! 三度ほど声を掛けたわ、このたわけが」


 玉藻と言うのは少女の名だろう。

 しかしだ、男性が本当に声を掛けられたことに気付いていなかった事に乙矢は驚いた。


「本当に? ああ、またやっちゃったのか。ゴメンね玉藻。ありがとう」


 また、と言うことは以前にも同じ様なことがあったのだろうか。

 なんてことを乙矢が思っていると、少女は先程座っていたソファーに戻って再び腰掛けた。


 それを見た後、男性は乙矢達の方を向いた。


「すいません、お待たせしてしまったみたいで。私はこの『幻想堂』の店主、士道紅蓮と申します」

 



 引き続き拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

 一応自分の目標としましては、3日以内に次話を投稿したいと思っています。


大したクオリティではありませんが、これ以上クオリティを下げないように(これ以上下がりようはない)気を付け、ペースも最低3日に一度は投稿を崩さないよう努力いたしますので、引き続きお読みいただけると幸いです。




厳しいご意見、ご感想なども真摯に受け止め益々精進していきますのでよろしくお願いします。

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