第八章 全てを破壊する鬼 現る
魁人と昴も寮の生活に慣れ、天地達とも馴染んできていた。
相変わらず、朝は騒がしくドタバタとしていた。
変わった事は魁人が居る事で裕二は朝食も少しは落ち着いて食べる事が出来る様になった。
ただ、天地のせいで学校にはいつも遅刻ギリギリだった。
「ハァ・・ハァ・・・・。」
天地・裕二・魁人の三人は息を切らせながら教室に入った。
教室に入ると一斉に席に着いている生徒の視線が集まった。
黒板の前には体格の良い男の先生が立っていた。この人が天地達の担任だ。
「また、お前達か!何度も何度も遅刻ばかりしよって!!」
「す、すいません!」
三人は同時に頭を下げた。この先生は天神学園でも一位、二位を争うほど怖い先生だ。
そのため、天地達は口答えしないようにしている。
頭を下げた三人を見た先生はため息を吐きながら言った。
「もういい。明日は遅刻するなよ。」
「はい!」
返事を返してすぐに自分の席に向った。
天地の席は窓際の一番後ろで、その右横が歩美の席だ。
裕二は廊下側の一番後ろで前の席に昴、左横の席が魁人だ。
由美は違うクラスで学校ではあんまり顔を合わさない。
天地が席に着くと歩美が笑いながら天地を迎えた。
「また遅刻ね。」
「またって、昨日は遅刻してねぇ。」
「って言うか。少しは学習したら?」
「何をだよ?」
「毎朝遅刻してるのにちっとも変わらないから。」
呆れ顔で歩美はそう言った。歩美を軽く睨みつけながら天地は言った。
「悪かったな。」
「まぁ、わかればいいのよ。」
「ヘイヘイ・・・・。」
歩美に口では勝てないとわかっている天地は怒りを堪えて負けを認めた。
裕二と魁人はその二人のやり取りを見て小さく笑っていた。
「クククッ・・・・。あの二人、またやってるよ・・・・。」
「いつもの事だけど、見てると楽しいんだよね・・・・。」
二人の笑い声が聞こえた昴は体を横に向けて二人の方を見た。
「また、やってるの?」
「あぁ。喧嘩するほど仲が良いって言うけど、あの二人もそうだったりすんだよな。」
「そうかしら?私は違うと思うわ。」
「どうして?」
首を傾げた裕二に腕を組みながら昴が不適に笑い始めた。
裕二と魁人は引きつった表情で昴を見た。
「フフフッ・・・・。私の直感がそう言ってるのよ。」
「直感って・・・・。当てにならないだろ?」
「女の直感は鋭いのよ。それに、私の直感はよくあたるんだから。ねぇ。」
ウィングをしながら魁人を見た昴に魁人は軽く苦笑いを浮かべながら会釈した。
「どう言う事だ?」
「まぁ、色々とね・・・・。」
裕二の質問に魁人はアイマイな答えを返した。
何の事か全くわからない裕二を尻目に昴は話を進めた。
「あの天地の様子を見る限りじゃあ。好きな人が居るわね。」
「だから、歩美じゃないのか?」
「違うはね。他に居るはずよ。もっと近くに・・・・。」
「それじゃあ。お前か?」
「馬鹿じゃないの?私なわけ無いでしょ!」
「自分で言ってて虚しくない?」
そう言って裕二が笑いながら魁人の方に顔を向けた瞬間、昴の右ストレートが右頬を直撃した。
殴られた衝撃で裕二は椅子ごと後ろに倒れた。
その音に生徒が一斉に裕二の方に向けられた。
昴はいつの間にか前を向いていて裕二が勝手に後ろに倒れた形になっていた。
「何をしてるんだ倉敷!」
「す、すみません・・・・。(覚えてろよ!)」
先生に頭を下げて昴の背中を睨んだ。
昼休みになり、天地・裕二の二人は屋上のタンクの横で買ってきた弁当を食べていた。
赤く腫れた裕二の頬は見ているだけで痛々しかった。
それを、見ない様にしようとすると、余計に目に入った。
「お前・・・・。痛く無いか?」
恐る恐る天地は裕二に聞いた。裕二は眉間にしわを寄せて睨みつけた。
昴に殴られてから裕二の機嫌は悪かった。
痛みのせいもあるが、女に殴られたのが一番効いたのだろう。
裕二が黙ったまま弁当を食べているので、天地もゆっくりと弁当を食べ始めた。
暫くすると、弁当を持って魁人がやってきた。
「遅くなったね。もしかして、食べ終わっちゃった?」
微笑みながら魁人はそう言って二人の前に座った。
すでに、弁当を食べ終えた裕二は冷たいお茶の缶で頬を冷やしていた。
「大丈夫?昴って結構力が強いんだよ。」
「・・・・。」
「聞いてる?」
「・・・・。」
何の返事も返さない裕二の顔を魁人が覗き込んだ。
その瞬間、裕二が魁人を睨みつけた。
笑みを浮かべながら魁人は天地の側にやってきた。
「やっぱり、怒ってるの?」
「らしいな。」
「怒のオウガになったりしてね。」
「そんなわけ無いだろ。」
そう言って二人は笑ったが、裕二に睨まれてすぐに笑うのを止めた。
静かに会話も無く、二人は弁当を食べた。
誰も話さないと屋上は静かで、運動場で騒いでいる者の声がよく聞こえた。
校門の前には一人の少年がいた。細目で白い髪、色白の肌。
服装は死に装束だった。手は袖に隠れて、足は裸足だった。
校内に入った少年はゆっくりと人気の多い運動場へと向った。
運動場が見えて来ると、立ち止まり口元に笑みを浮かべた。
その瞬間、凄まじい殺気が校内を包み込んだ。
屋上に居た天地と魁人は勿論、裕二もその殺気を感じ取った。
「オウガか!」
「でも、こんな凄い殺気は初めてだ・・・・。」
魁人は強い殺気に押し潰されそうになった。
何とか立ち上がった天地は五龍神を手にした。
運動場で遊んでいた生徒達もその強すぎる殺気を感じ取ったのだろう。
吐き気を訴えドンドン倒れていった。
急いで殺気のする方に行こうとするが、思うように動く事が出来なかった。
天地達が苦しんでいる中、少年は着実に運動場に近付いていった。
運動場で気を失っている生徒に近付こうとした時だった。
風の刃が少年を襲った。
とっさに風の刃をかわした少年はそれが飛んできた方を見た。
そこには、疾風丸を持った由美が立っていた。
風の刃で殺気が弱まった。
「君は、ハンターだね?」
「・・・・だったら?」
少年の言葉に由美はゆっくりそう答えた。
すると、少年はゆっくりと微笑み頭を下げた。
その態度に由美は怒鳴った。
「どういうつもり!」
少年は顔を上げてまた微笑みながら言った。
「挨拶だよ。」
「挨拶?・・・・なぜ?」
「君達ハンターと長い付き合いになるからね。一応、挨拶を。」
ニコニコと笑顔でそう言った少年に由美は疾風丸で斬りかかった。
だが、由美の疾風丸は軽々とかわされ後ろを取られた。
由美の後ろを取った少年は攻撃をしないでただ由美を見ていた。
「僕は挨拶に来ただけですよ。あなた方ハンターに危害は加えませんよ。」
そう言いながら少年は背後から飛んできた数十本の矢を全てかわした。
「くっ!」
悔しそうに風鳥神を下ろした昴は木の上から降りた。
矢は地面に刺さり消滅した。それを見た少年は少し驚いた表情で昴の方を見た。
「今のは、風鳥の力ですね。力の方は衰えて無いようですが、使い手が未熟ですね。」
「何ですって!!」
細目でニコニコと微笑む少年に向って、昴は矢を無造作に放った。
軽やかな身のこなしで少年は矢をかわした。
かわされた矢は昴の正反対に立っていた由美を襲った。
疾風丸で矢を防ぐ由美だったが、矢の勢いが凄く由美は全てを防ぐことが出来なかった。
数本の矢が体に刺さり地面に膝をついた。
「由美!!」
「ぐっ・・・・。」
「ダメですよ。状況は冷静に判断しないと・・・・。仲間を殺す事になりますよ。」
大量の矢を全てかわした少年だったが、息一つ乱していなかった。
そこに、五龍神を持った天地と水鮫神を持った魁人がやってきた。
矢の刺さった由美を見て、天地と魁人が同時に叫んだ。
「由美!」「由美さん!」
死に装束の少年は天地と魁人に気付いて振り返った。
やはり、笑みを浮かべたまま言った。
「あなた方もハンターの様ですね。」
「お前!!」
天地は階段を駆け下りて、少年に向って五龍神を振り下ろした。
しかし、五龍神は空を斬り砂埃を上げただけだった。
「くっ!」
「力任せな戦い方ですね。伝説の五龍神が泣きますよ。」
少年はサッカーゴールのバーの上に立ち天地にそう言った。
怒りの納まらない天地は五龍神を目の前に添えて叫んだ。
「ふざけんな!!目覚めよ!火龍神!!」
五龍神の刃の龍が赤く染まり火龍神へと変わった。
真っ赤に燃える炎が火龍神を包み込み、天地が叫んだ。
「喰らえ!炎裂弾!!」
素早く火龍神を横に振ると、火龍神を包んでいた炎が少年に向って飛んでいった。
そして、途中で分裂し一斉に少年に襲い掛かった。
炎を一つになり燃え盛った。
「やったか・・・・?」
足がもつれ天地は地面に膝をついた。
しかし、炎が消えた所に少年の姿は無かった。
「残念だったね。」
天地の背後で少年の声がした。いつの間にか、天地の後ろに回りこんでいた。
天地も魁人も由美も昴も気付かなかった。
天地が危ないと思った魁人は水鮫神を構えた。
水鮫神の周りに水が集まり渦巻いた。
「噛み砕け!水牙鮫!!」
水鮫神を突き出すと集まった水が鮫の形になり、少年に襲い掛かった。
少年は魁人の方に向って微笑んだ。そして、次の瞬間、姿を消した。
「天地君!」
魁人の声で自分に水牙鮫が向っている事に気付いた天地は、とっさに火龍神で防ごうとした。
しかし、水で出来た鮫を刃で防げるわけも無く、水の鮫の牙が天地に襲い掛かった。
火龍神だったおかげで、ダメージは半減されたが着ていた服は裂かれ、体中傷だらけだった。
特に、火龍神を持っていた右腕は酷い傷で火龍神を握ることが出来なかった。
火龍神は地面に落ちると五龍神に戻った。柄は天地の血で真っ赤に染まった。
力の入らない右腕を左腕で押さえながら辺りを見回した。
その時、少年の声が響いた。
「この街を護る四人のハンターさん。僕の名前は絶鬼。
これから、君達とは長い付き合いになるから、覚えておいてね。
それから、もっと強くなって僕を楽しませてね。
僕は君達が強くなった時にもう一度会いに来るよ。全てを破壊しに・・・・。」
天地はこの声を聞いてすぐ気を失った。