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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第五章 風邪と優しさと謎の少年

休みの日。

特にやる事の無かった天地は部屋で五龍神の手入れをしていた。

天地の部屋は玄関を入ると右側に風呂とトイレが縦並びになっていて、左側には冷蔵庫・流し台・コンロと横並びになっていた。

寮のどの部屋も大体はこんな並びだ。

食器棚が左端の壁にぴったり付いてたってあった。

キッチンはこんな感じだ。

奥の部屋にはベッド・机・テーブル・本棚・テレビなどがあった。

ベッドが右端の角にぴったりとくっ付いていて、その隣に机が立て並びにおかれていた。

机の反対側にテレビが横に立てられた本棚の上に乗っかっていた。

そして、テレビと机の間にベランダに出るための窓があった。

中央にあるテーブルに五龍神を鞘に入れて置いた。


「ん〜っ・・・・。暇だ・・・・。」


そうぼやきながら天地はベッドにもたれながら窓の外を見た。

外は青空が広がり雲がポツポツとあるだけだった。

三階建てのこの寮には10個の部屋があるが天地・裕二・由美・歩美の四人しか暮らしていない。

天地の部屋は二階の階段を上がってすぐ右の部屋で、その隣に裕二が暮らし、向かいの部屋に由美・右斜め前の部屋に歩美が住んでいる。

一階には管理人の部屋と大浴場がある。

寮を入って右側には二階に上がる階段があり、真っ直ぐ行くと大浴場がある。

大浴場は一つしかないため、男女でちゃんと曜日分けされている。

月・水・金は女子。火・木・土は男子。日曜は掃除の日だ。

この大浴場は一般の人もよく入りに来るため天地はあんまり大浴場に行く事はなかった。

だが、この日は何故か大浴場に入りたくなってしまった。


「この時間帯は誰もいないだろ・・・・。」


着替えとタオルを持ち天地は一階の大浴場に向った。

脱衣所で鼻歌を歌いながら服を脱いでいた。

服を脱ぎ終えるとタオルを巻き大浴場の扉を開いた。


「オオッ!やっぱし、大浴場は広いな!」


そう言いながら笑っていると湯船の方に人が居るのが見えた。

湯気でよく見えないが天地は声を掛けながら桶でお湯をすくい体を流した。


「いや。こんな時間帯に入っている人がいるなんて、知りませんでしたよ」


入っているのが誰かよく見えない天地は何となく敬語になっていた。

しかし、湯船に浸かっている人は返事を返さなかった。

首を傾げながら天地は湯船にゆっくりと浸かりその人の方へ近付いた。

そして、顔を見て驚きすぐに湯船から出た。


「オワッ!ごめん!」


そう叫び天地は脱衣所の方に走った。湯船に浸かっていたのは由美だったからだ。

自分が曜日を間違えたのだと思った天地だったが、よく考えてみた。

確かに今日は男子の日だった。

そう思った天地はすぐに引き返し湯船に浸かる由美に叫んだ。


「お前!今日は男の日だぞ!何でいんだよ!!」


「・・・・。」


湯船に浸かりながら由美は天地を見た。由美はタオルを巻いているが天地は由美の方を見ない様にしていた。


「聞いてるのか!今日は・・・・。」


最後まで言う前に由美が言った。


「わかってる・・・・。一回言えば聞こえるし・・・・。」


「な!わかってるなら、何で!!」


「・・・・誰も、居なかったから・・・・。」


「いや!そんな問題じゃ!」


「それに・・・・。タオル巻いてるし・・・・。」


「か!関係ないだろ!!」


色々と由美に言ったが由美の方は全く気にせず、結局天地が出る事にした。

完全に湯冷めしてしまった天地は脱衣所で何度もクシャミをしていた。


次の日、やはり天地は風邪を引き部屋で寝込んでいた。

咳が止まらず、頭痛も激しかった。体もだるくて動く事も出来ないでいた。

天地が寝込んでいると部屋に裕二がやってきた。

裕二はビニール袋をテーブルに置き天地の向いに座った。


「大丈夫か?こんな時期に風邪なんて。」


「ゴホゴホ・・・・。大丈夫だ・・・・。寝てれば治るから・・・・。」


「馬鹿は風邪引かないって言うけどな。」


そう言いながら裕二は笑った。その笑い声は天地の頭に響いた。

右手で頭を押さえながら天地は言った。


「頭に響くから・・・・。少し静かにしてくれ・・・・。」


「あぁ、悪い悪い。まぁ、今日は安静にして置くんだな。」


「わかってるさ・・・・。」


「これ、薬と栄養剤と果物。どうせ、薬飲んで無いんだろ。ちゃんと飲めよ。」


「あぁ、わかった。ありがとうな・・・・。」


天地はそう言って軽く手を上げた。

裕二が天地の部屋を出て、何分か経ってから誰かやってきた。

目をうっすらと明けて、ぼやけながらもその人物を見た。

天神学園の制服を着た少女だった。

この寮に住む女子は由美と歩美の二人に絞られる。

髪の色で大体わかるはずなのだが、よく見えなかった。

だが、彼女が由美だと天地はすぐに気付いた。


「お前・・・・。何してんだ・・・・。」


ダルイ体を無理やり起こして台所の方に居る由美に視線を送った。

天地の方を振り向いた由美はエプロンをしていてゆっくりと天地の方に歩いてきた。

そして、テーブルの前で足を止めてテーブルの上のビニール袋を手に取った。

何がしたいか全くわからない天地はもう一度聞いてみた。


「なぁ・・・・。何してるんだ?」


「・・・・。」


何も言わずに由美はビニールの中の物をチェックしていた。

暫くするとビニールをテーブルの上に戻して台所に行った。

フラフラながらも天地は立ち上がり壁を支えにして台所までやってきた。


「おい・・・・。」


「包丁・・・・。どこ?」


天地に気付いた由美はそう聞いた。

一瞬、怖い事を想像してしまった天地は素直に教える気にならなかった。

由美は黙々と包丁を探していた。

そして、包丁を見つけると手に取ってゆっくりと天地の方を見た。


「お、お前・・・・。病気の俺を・・・・。」


「・・・・殺す。」


その言葉を聞いて天地は思わず壁から手を放した。その瞬間、目の前が大きく揺らぎ床に倒れた。

由美はキョトンとした表情で天地を見下していた。


「冗談・・・・。」


「お、お、お前が言うと冗談に聞こえないよ・・・・。」


「・・・・そう?」


首を傾げながらそう言って軽く微笑んで見せた。天地はこの時初めて由美の笑顔を見た。

由美もこんな風に笑顔で笑うんだなと思った。

壁を掴みながら立ち上がると鍋がコンロで火に掛けられている事に気付いた。

由美は包丁をまな板の上に置き天地の方に歩み寄った。

そして、天地の前で止まり顔を見上げた。


「・・・・トイレ?」


「エッ?」


「トイレ。・・・・行くんじゃないの?」


「あ・・あぁ・・・・。」


天地はようやく何の事かわかり、苦笑いを浮かべながらトイレに向った。

トイレに入り便座を下ろすと座り込んで頭痛のする頭で考えはじめた。


『由美が、何しに部屋に来たのか?』


『あの鍋の中は何があるのか?』


『お見舞いと見せかけて何か裏があるんじゃないか?』


色々な事が天地の頭の中をよぎった。

だが、すぐに頭痛が起こり考えるどころじゃなかった。

一方、由美は先程裕二の持ってきたビニールに入っていたリンゴの皮を包丁で剥いていた。

皮を剥き終えるとと、トイレに行って中々出てこない天地の事が気になった。

トイレのドアをノックすると天地の驚いた声が聞こえた。


「・・・・どうかした?」


「い、いや。どうもしないよ!」


その声がすると水を流す音が聞こえドアが開いた。

ドアが開くと由美の目線の高さに天地の胸があった。

由美は顔を上げて天地の顔を見上げた。


「ベッドに・・・・。一人で行ける?」


「あ、あぁ。大丈夫・・・・。」


天地はそう言って壁を支えにベッドに向った。

ベッドの脇に座ると由美がリンゴを皿に盛ってやってきた。


「リンゴ・・・・。食べて・・・・。」


「ゴホゴホ・・・・。あ、ありがとう・・・・。」


やはり、由美がいつもと違う気がした。

いつも、『邪魔』とか『お邪魔ムシ』とか言うのに今日はまだ一度も言ってない。

それどころか、物凄く優しく、笑顔も見せてくれた。

それが、やけに怖かった。

リンゴを食べようとする天地の顔を由美はジッと見ていた。

普段は別に気にならないが二人きりだと、とても気になった。


「なぁ・・・・。学校は行かないのか?」


目覚まし時計を由美の前に置きそう言った。

由美は目覚まし時計を天地に返して言った。


「・・・・。管理人さんが、用事があるから・・・・。」


「それで、お前が残ったのか?」


「・・・・。」


由美は黙って首を縦に振った。

天地は「ふ〜ん」と相槌を打ちながらリンゴを口に運んだ。

シャキシャキのリンゴは甘くておいしかった。


「ンッ!美味しいな・・・・。お前も食べてみろよ」


「・・・・うん。」


リンゴを一切れ口に運ぶと笑みを浮かべた。


「美味しい・・・・。」


「裕二の奴、結構見る目があるからな」


そう言いながらリンゴをまた口に運んだ。

暫く由美と話し込んでいたが台所から焦げ臭いのするのに気付いた。


「何か、臭わないか?」


その言葉に由美は鍋を火にかけてる事に気付き台所に走った。

台所では黒い煙が鍋から出ていた。コンロの火を消した。

暫く経っても由美が台所から戻ってこなかった。


「おーい。どうかしたのか?」


その声でやっと台所から顔を出した由美の手には鍋が掴んであった。

由美はうつむきながらゆっくり天地の所に鍋を持ってきた。

天地の前に鍋が置かれた。


「な・・・・。何だこれ?」


「お粥・・・・。ちょっと・・・・。焦がした」


「ちょっとって・・・・。」


鍋の中には真っ黒な物体だけが残っていてお粥のおの字も出てこなかった。

こんな物を出されたら誰だって笑いしか出てこなかった。

天地は笑いながら由美の顔を見た。

しかし、今にも泣き出しそうな顔をしている由美を見て、なぜかこれを食べなきゃいけないと思った天地はスプーンで黒い物体を食べた。

やはり、焦げの味しかしなかった。しかも、所々にガチガチに硬い物があった。

由美の視線が天地に注がれた。

笑いながら天地はその黒い物体を全て食べた。


(ううっ・・・・。吐きそう・・・・。)


そう思ったがそんな事口が裂けても言えなかった。

鍋に入ってた物を食べ終えた天地に由美がコップ一杯の水と薬を持ってきた。


「・・・・食後の薬。」


「あぁ・・・・。ありがとう。」


薬を口に入れて水で流し込んだ。

少し寝ようとベッドに横になった時、オウガの気配を感じだ。

それは、由美も同じだった。


「オウガ!」


ベッドから体を起こし立ち上がろうとした天地に由美が言った。


「天地は、休んでて・・・・。」


「俺は大丈夫だ!」


「私・・・・。一人で十分だから」


そう言うと天地をベッドに寝かせて玄関に立てかけられた疾風丸を持って走り出した。

仕方なく天地は寝ている事にした。

由美がそんな簡単にやられるわけ無いし、そんな心配しなくてもいいと思ったからだった。

ベッドに横になっていると瞼が重くなり、眠りについた。

薬の副作用で眠ってしまったのだろう。


その頃、寮を出た由美はオウガの気配のする方へ走っていた。

オウガの気配はデパートなどの建ち並ぶ市街の方からだった。

人気の多い所でオウガと戦うと色々と面倒な事ばかりが起きる。

そういう時のための術をハンターは使う事が出来る。

今回はそれを使う事になるだろう。

市街に入ると由美は足を止めて目を閉じて力を集めた。

そして、天高く疾風丸をかざして叫んだ。


「結空陣!」


疾風丸を中心として半径10km地点までの空間を決壊で囲んだ。

この決壊は一般の人には効果が無く、ハンターやオウガにだけ効果のある決壊だ。

その決壊の中でハンターとオウガの姿や形は一般の人に見る事も触れる事も出来ない。

一方、ハンターとオウガには一般の人は見えているが、触れたり傷つけたりする事は出来ない。

由美は近くにオウガが居る事に気付いていた。

疾風丸を鞘から抜き身構えていた。

その時、殺気と共に由美と同じくらいの体格の哀のオウガが三体飛んできた。

三体は奇妙に笑いながら由美を取り囲んだ。


「私・・・・。忙しいの・・・・。」


「ケケケケッ。俺らも忙しいんだよね。」


「邪魔すんなよ。」


「そうだ。そうだ。」


由美の言葉に三体が別々に答えた。疾風丸に力を集めると三体の位置を確認した。


「散りなさい・・・・。疾風演舞!」


その声が響くと由美が素早く舞い踊るかのように三体を一瞬で切り裂いていった。

三体は声を上げる間も無く消滅した。

疾風丸を鞘に納め様とした時、背後から別の気配を感じて振り返った。

そこには、ポケットに手を突っ込み、色つき眼鏡を掛けた少年が立っていた。

身長は天地と同じ位だろう。

服も今時の若者の服装で街の人達に馴染んでいるが、歩いている一般人が彼の体を透けていくのを見て彼が一般人じゃないと確信した。


「あなた・・・・。誰?」


「・・・・。」


彼は何も言わずに眼鏡越しに由美の顔を見た。

その目に殺気を感じた由美は疾風丸を構えた。


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