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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第五十七章 本当の姿

 暗雲立ち込める空。静かに吹き抜ける風。辺りは夜になったかの様に、暗くなっていた。

 冷たい床に横たわる天地は、右手に五龍神を握ったまま、まだ眠りから覚めていなかった。

 昴から取り返したタバコを、口に銜えて火虎神で火をつけると、ゆっくりと息を吸い込んだ。


「さて、そろそろおっぱじめるか」

「僕は雑魚どもの相手をしてる程、暇じゃないんだよ」


 漸はそう言って、顔を上げると神谷を睨み付けた。怒りに満ちたその目は、血走っている。神谷・魁人・由美・昴・絶鬼の5人は、ゆっくりと武器を構え漸の攻撃に備えている。

 漸に向って昴は風の矢を向けている。

 それを見て、漸はゆっくりと口を開く。


「さっきも言ったが、僕は君等の相手をしてる程、暇じゃない」

「そんなの僕等には関係ない」

「一斉攻撃だ!」


 神谷の言葉と同時に、昴以外の4人は床を蹴った。

 そして、火虎神が漸の右足に向って鋭く振り抜かれ、背後からは水鮫神が鋭く突き出された。

 鋭く振り抜かれた火虎神は、しなり風を切りながら漸の右足に飛んだが、それを踏みつけると軽々と、宙に舞いそれと同時に突き出された水鮫神を、かわして二人から距離をとった。


「甘いですよ」

「クッ!」「甘いのは、お前の方だ」

「――!?」


 床に着地した漸に、鋭く振り抜かれた雷犬神が襲い掛かってきた。素早く体を後ろに逸らし、雷犬神をかわしたが、完全に体勢は崩れていた。

 その漸に、雷犬神を振り抜いた由美が、疾風丸を振りかざしている姿が見えた。疾風丸の刃の周りには、風が取り巻いている事から、そらが振り下ろされるとわかった。


「僕に、それは効かない!」


 右手を由美に向けて、そう叫んだ。右手には一瞬で漆黒の玉が現われた。だが、由美はいっこうに疾風丸を振り下ろさなかった。

 その由美に向って、漸は漆黒の玉を放とうとした、その瞬間だった。右腕に鋭く尖った風の矢が突き刺さり、その威力で狙いがズレて、放った漆黒の玉は、由美の顔の横を過ぎていった。

 右腕には穴が開き、そこから大量の血が飛び散り、床を真っ赤に染める。床に崩れていく漸に向って、絶鬼が鋭く右腕を振り抜いた。

 右手に着けた土蛇神が、漸の体を引き裂き更に血を辺りに飛び散らせた。宙に浮き上がった漸を、ゆっくりと見上げた由美は小さな声で言った。


「舞い散れ! 疾風乱舞!」


 素早く振り下ろした疾風丸からは、鋭い風の刃が幾つも飛び出し、宙を舞う漸の体を斬りつけていった。辺りに血飛沫が舞い、漸の体が力なく床に落ちた。

 急に静かになった。漸が動かなくなったからだろうか。だが、漸があの程度で死ぬとは、誰一人思ってなかった。現に、漸の体は石化していないのだから。


「これで、大分ダメージを与えたと思います」

「そうだといいな」


 タバコを口に銜えたまま、魁人の言葉に神谷はすぐに返答した。その神谷の言葉に、昴が歩み寄りながら言った。


「神谷さんにしては、自信の無い声ですね」

「ンッ。ちょっとな……」

「あれだけくらえば、結構弱ってますよ」


 少し嬉しそうに昴は微笑んだ。だが、その笑顔もすぐに消えた。薄気味の悪い漸の笑い声が辺りに響き渡ったからだ。すぐに武器を構えて、床に倒れる漸に体を向けた。

 だが、漸の体は動かずまるで、抜け殻の様だった。その瞬間、絶鬼はある事を思い出した。漸が人間の皮を被っていた事を。その事を伝えようとしたが、一瞬体に衝撃が走り目の前が真っ暗になった。そして、気がついた時は宙を舞っていた。


「絶鬼!」


 魁人がそう叫んだ。その視界に、巨体の生物の姿が見えた。大きさは3m位だろう。腕や足が異様に長く、肩は鋭く突起していた。鋭く長い爪と牙が不気味に輝き、その体からは凄まじい殺気が漂っていた。

 絶鬼の体が床に落ちる音と同時に、その巨体の生物が走り出した。そして、抜き去り際に由美に向って、鋭い爪を素早く振り抜いた。

 一瞬だが、その爪が見えた由美は素早く疾風丸と雷犬神で、それを防いだが完全に防ぐ事は出来ず、多少血飛沫を上げながら吹き飛んだ。


「ウッ!」

「由美さん!」


 そう叫んだ魁人に、神谷が叫んだ。


「気を逸らすな! 来るぞ!」

「は、はい!」


 由美の方を気にしながら、魁人は水鮫神を構えた。そんな魁人に向って、鋭く突起した巨体の生物の右肩が、襲い掛かってきた。素早い身のこなしで、それを左に避けた魁人に、鋭く右肘が飛んだ。反応する事が出来ず、魁人は肘打ちを直撃した。


「グッ」


 その場に崩れ落ちる魁人。

 そして、巨体な生物の鋭い爪が、神谷と昴に同時に襲い掛かる。何とか反応した神谷はそれを、火虎神で受け止めた。


「お前は……」


 神谷がそう言い掛けた時、ゆっくりと巨体な生物が口を開いた。


「これが、僕の本当の姿さ」

「やっぱり、漸か!」


 そう叫んだ神谷の右肩に、漸の鋭い牙が襲い掛かった。鋭い牙は神谷の右肩に、食い込んでいき真っ赤な血で赤く染まる。激痛が神谷の全身に伝わった。


「グァァァッ!」


 神谷の叫び声だけが辺りに響き渡った。神谷の右肩に噛み付く漸の顔に、昴が風の矢を向けていた。


「神谷さんから、離れなさい!」


 そう言って、昴は風の矢を放った。だが、漸は風の矢が当る前に、神谷を突き飛ばし昴に襲い掛かった。

 反応できるわけが無かった。風の矢を放った直後で、全く体勢が整っていなかったからだ。鋭い漸の爪は、昴の体を引き裂いた。昴の体からは血が噴き出て空を舞った。

 5人は力の差を感じた。今まで戦っていた漸とは、比べ物にならないほどの力だ。スピードも、パワーも何十倍にも上がり、全く歯が立ちそうもなかった。


「思い知れ! 人間ども!」


 漸は大声で笑いながら、床に倒れる5人を見ていた。その笑い声が5人の傷口に響き、ズキズキと痛んでいる。


「天地……」


 小さな声で由美は天地の事を呼んだ。もちろん、意識の無い天地にその声は届くはずは無かった。それでも、天地の事を呼び続けた。他の4人も同じだった。

 もう、天地に頼るしかなかった。五龍神に選ばれし、ただ一人の人物の天地に頼るしか……。


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