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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第五十四章 失われた力

 床に崩れ落ちた火虎の頭を、ゆっくりと振り上げた右足で踏み潰した。漸の右足が火虎を潰したせいで、紅い炎を纏っていた。


「フハハハハッ! 火虎、水鮫、風鳥、雷犬、土蛇。五大獣は消えた。残るは五龍神に封印される五龍だけだ」


 確かに、火虎が消滅したと同時に、神谷の持つ火虎神は力を失い、鮮やかな赤色だった棍の色も、色褪せて石化していた。

 魁人の水鮫神も、刃は輝きを失い、先の方から石化して行く。風鳥神も弦が切れ、石化が進んでいた。

 もちろん、漸の手にはめられている土蛇神も、石化してきている。


「どうなっている……」


 石化する火虎神を見ながら、神谷はそう言った。もちろん、天地や昴にも何が起こっているのかわからなかった。

 ただ、自分たちが絶体絶命の窮地に、立たされていると言う事だけ分かっていた。


「もうすぐ……。もうすぐ完全体に!」


 漸はそう言いながら、両手を広げて笑い始めた。増幅する漸の力の前に、武器を失った神谷は何も出来ないでいた。

 流石の神谷も、悔しそうにしているかと思っていたが、神谷は表情を変えず、タバコを口に銜えてゆっくりと立ち上がった。


「火虎神も失っちまったか……。だが、時間は稼げた。後は天地に任せる」


 神谷はそう言って天地の方を見た。だが、天地は床に倒れて息を荒げていた。それを見て、神谷は天地に駆け寄り、襟を掴み大声で怒鳴った。


「何寝てるんだ! 折角、時間を稼いだのに!」

「な……、何……言ってる……。俺は……お前に……時間を稼げ何て……言ってない……」

「何言ってんだ! お前が俺達の最後の希望なんだぞ!」


 神谷はそう言って、天地の体を激しく揺すった。頭が激しく揺れて、気持ちが悪くなってきた。


「ウッ……。止めろ……」


 神谷が手を離すと、天地の体は床に倒れた。力なく床に倒れた天地に、神谷はため息を吐きながら言った。


「希望の光が、こうも弱々しいと闇に飲み込まれた気分になる……」

「実際、もう闇に飲み込まれている」


 神谷に向って、絶鬼がゆっくりとそう言った。胸の傷は完全に塞がっては居ないが、絶鬼は刀を右手に持ちたっていた。

 床に倒れている天地に向って、絶鬼がゆっくりと言葉を発した。


「僕は闇で、君は光。光の君には、護るべきものがあるんだから……」

「死ぬなよ……」


 絶鬼が言い終わる前に、天地が言った。少しかすれた声だが、絶鬼にははっきりと聞こえた。絶鬼はゆっくりと笑みを浮べながら、言葉を続けた。


「元々、君達は僕を倒すために……」

「お前の心の闇は消えた。それに、闇が無いと、光は輝かない」


 そう言って天地はゆっくりと、微笑んだ。それに対し、絶鬼も微笑み返してからゆっくりと言った。


「そうだね」

「ああ」


 天地がそう言うと、絶鬼はゆっくりと一歩前に出た。その絶鬼に向って、漸がゆっくりと口を開いた。


「死に底無いか……。貴様が僕に勝てるとでも思っているのかな?」

「そうだね。今の僕では、君に勝てるわけが無いね」

「それでも、僕に立ち向かうのか?」


 漸はそう言って、絶鬼を見た。黒い球体の塊を全て吸収し、部屋に吹き荒れていた風はおさまっていた。

 体の底から溢れる力に、漸は自然と笑みがこぼれた。負ける気がしないと、言う感じで笑みを浮べている。


「嬉しそうだね」

「ああ……。嬉しいさ。この湧き上がる力が」

「君の話はつまんないし、さっさと始めようか」

「面白い事を言うな」


 不適に笑みを浮べる漸に、絶鬼も笑みを浮べていた。二人は対峙したまま、動きを止めていた。漸の体から発する殺気が、体にピリピリと伝わる。

 微かに恐怖で体が震える絶鬼に、漸がゆっくりと口を開いた。


「体が、震えている様だが、怖いか?」

「そうだね。こう言うのを怖いって言うんだろうね」


 そう言って絶鬼が微笑むと、漸がそれを鼻で笑ってゆっくりと右手を絶鬼に向けた。その瞬間、絶鬼の体を何か見えない力で、吹き飛ばした。床を転がり、絶鬼は動かなくなった。

 暫くして、ゆっくりと立ち上がると、漸の方を見て呟いた。


「びっくりした……」


 その声は、小さくて漸には聞こえなかった。ゆっくりと息を吐きながら、絶鬼は漸を睨み付けた。その絶鬼の体に、見えない力が襲い掛かってきた。何度も何度も、絶鬼の体を吹き飛ばし、刀を構える事すらさせて貰えなかった。


「ウッ……」

「どうした? それが、全てを破壊する鬼の力なのか?」


 絶鬼を馬鹿にする様に、そう言って笑っている。その顔がムカつき、一発殴りたいと思っていたが、体は動かず胸の傷口から血が出てきていた。

 そんな絶鬼の前に進んだ漸は、白髪を掴みあげてゆっくりと言った。


「お前、この白髪を嫌っていたな。なら、今度はその髪を真っ赤に染めてやろう」


 そう言って、絶鬼の持つ刀を奪った。鋭い不気味に輝く刀を、ゆっくりと振り上げた。


「さよなら、全てを破壊する鬼、絶鬼よ」


 鋭く刀を振り下ろそうとした漸の背後で、天地の声が響いた。


「お前の相手は……俺だ」


 絶鬼の体を床に投げ捨てると、ゆっくりと振り返った。そこには、フラフラの天地が立っていた。

 すでに、体力は無く、立っているのがやっとだと言うのは、本人も周りのメンバーもわかっていた。

 だが、天地に頼るしか無かった。五龍神に選ばれた、天地に頼るしか……。


「そんな状態で僕に勝てるのか?」

「勝てるのか? 違う……。勝たなきゃいけないんだ」


 天地はそう言って、五龍神の柄をしっかりと握り締めた。だが、天地の目には漸がブレて見えていた。

 視点が定まらず、何度も首を横に振っていた。


「さて、貴様の持つ五龍もこの世から消し去ってやろう」

「やれるものなら、やってみろ……」


 強がるが、まともに漸と戦えるなんて、思ってなかった。五龍神をゆっくりと構え、視点の定まらない目で、漸を睨みつけている。

 不適に微笑みながら、ゆっくりと絶鬼から奪った刀を構えた。不気味に輝くその刀の刃に、漸の体を取り巻く殺気が集まっていった。


「君は、僕に一撃も与える事も無く、死を迎える」

「それは、予告か? それとも、ただの挑発か?」

「どちらでも無いね。これは、予言。君の未来さ」


 その言葉と同時に、漸は刀を振り上げて、一気に振り下ろした。殺気を纏った刀からは、鋭い邪気を纏った風の刃が、天地の体に襲い掛かった。

 五龍神でその風の刃を受け止めるが、その威力に吹き飛ばされた天地の体は、無数に斬り付けられ、血が飛び散った。

 床に倒れた天地の体から、血が流れ出て床を赤く染めた。


「グッ……」


 歯を食い縛り、ゆっくりと立ち上がる天地に、もう一度風の刃が襲い掛かった。天地はその刃を防ぐ事が出来ず、体を深く斬りつけられた。大量の血が宙を舞い、床にボタボタと降り注いだ。

 床に倒れる天地は、すでに意識を失っていた。呼吸は弱々しく、今にも息絶えそうな状態だった。


「やはり、完全体の僕には、五龍神も歯が立たない様ですね」


 弱々しい呼吸の天地に、漸は歩み寄った。体から大量の血が流れる天地を、見下して五龍神に目をやった。五龍神の柄は、天地の右手で確りと握られていた。


「こんな状態でも、五龍神は放しませんか。まぁ、あなたを殺してから、五龍神には消滅してもらいますか」


 刀を振り上げた漸は、不適に笑い天地の胸に向って、刀を振り下ろそうとした瞬間、五龍神から真っ赤な光が溢れた。そして、漸の体に凄まじい衝撃が走り、体は吹き飛んだ。だが、漸は普通に床に着地すると、ゆっくりと顔を上げた。

 目の前には、紅い燃える様に熱い龍の姿があった。鋭い爪を床に突き立てて、その鋭い眼差しで漸を睨みつけている。

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