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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第五十三章 吸収

 絶鬼と話をしている間も、休まず傷の治療をしていた、天地は疲れで目眩を起こした。すでに、汗は流れなくなっていた。全身に感覚がなく、体が軽くなった様な錯覚を覚えていた。

 そんな中、神谷と火虎は漸をドンドン追い込んでいった。床には血が飛び散っているが、それが誰の血なのかは、わからなかった。火虎の力は、まだ衰えず全身の炎も、十分燃え盛っている。


「流石に2対1では、こちらが不利ですね」

「まだ、余裕みたいだな」


 漸に向ってタバコを銜えたまま、神谷が言った。どちらかと言えば、神谷の方が余裕のあるように見えた。

 そんな神谷に向って、漸が不適に笑みを浮べながらゆっくりと言った。


「悲しみ、怒り、憎しみ。どれも、弱い人間の心にある感情だ」

「それが、どうした?」

「その小さな悲しみ、怒り、憎しみが、一つになったらどうなると思う」

「そりゃ、凶悪なオウガが……!? まさか」


 驚いた表情で神谷は、漸を見ていた。驚いた拍子に、銜えていたタバコは、ゆっくりと床に落ちた。漸が何を考えているのか、神谷にはわかったが時はすでに遅かった。

 漸の体からおぞましい程の殺気が、溢れて出して崩れた壁から凄まじい風が入ってきていた。風が部屋に入ってくると、ひび割れた壁がミシミシと軋む音を、辺りに響かせていつ崩れてもおかしくなかった。


「グッ……」


 その突風で舞い上がる、砂埃や細かい岩が、目の前にいる神谷に襲い掛かる。その神谷を庇う様に、火虎が前に立ちはだかった。火虎の体の炎は、風で更に勢いを増している。


「あの者の体に邪悪な力が集まっているぞ」

「そうだな……」


 どす黒い球体の塊が、無数風に乗って崩れた壁から入ってきて、部屋の中を渦巻いていた。その球体の塊は、風に乗りながら漸の体に吸収されていった。

 その時、阿修羅の怒鳴り声が部屋中に響いた。


「どういう事だ!」


 その声のする方に、全員の視線が向いた。すると、対峙している阿修羅と夜叉の体が、徐々に石化していくのが分かった。

 苦しそうな顔で阿修羅は、漸を鋭く睨み付けた。漸は薄らと笑みを浮べると、ゆっくりとした口調で言った。


「君は、実に使える駒でした……が、もう用済みだね。僕の力の一部になってもらおうかな」

「なっ!」


 その言葉に驚きを隠せない阿修羅は、一歩後ろに後退りした。その瞬間、右手に持っていた槍が床に落ち、澄み渡る音が響き渡った。

 阿修羅の腕は砂の様に、床に零れ落ちる。ゆっくりとだが、確実に阿修羅の体は石化していた。夜叉も体が石化し、すでに床に横たわっていた。


「グッ……。お主も……利用されただけのようだな……」


 夜叉はそう言うと、完全に石化され風に吹き飛ばされていった。その夜叉を見て阿修羅も、自分の最後を悟った。そして、ゆっくりと仰向けに倒れた。

 阿修羅の体は床に倒れる前に完全に石化し、床に倒れると同時に石化された阿修羅の体は砕け散った。


「どうなってるんだ……。絶鬼」

「阿修羅と夜叉の事か?」


 吹き荒れる風に耐えながら、天地は絶鬼を見た。今まで笑みを浮べていた、絶鬼が急に真剣な顔をしている。その絶鬼の表情を見ただけで、天地は漸が恐ろしい事をしようとしているのだと、分かった。



 その頃、各地に広がるオウガ達の体も、石化し崩れ落ち粒子と化して消えていった。

 オウガに気付かれない様に、全ての明かりを消した管理人室の隅に、裕二と歩美の姿があった。微かに感じていたオウガの気配が、次々と消えていくのに裕二は嫌な予感がしていた。


「どうなってる……」


 不安そうな裕二の声に、怯えた様子の震えた声で歩美が訊いた。


「ど、どうしたの? な、何かあった?」

「いや……。外で微かに感じていたオウガの気配が、次々と消えて言ってるんだ……」

「それじゃあ……。魁人達が?」


 期待に満ちた様な表情で歩美はそう言ったが、その表情は暗いため裕二には見えていない。

 そんな裕二は、その期待を裏切る様に言葉を続けた。


「多分……。まだ、決着はついていない。と、言うか、これから、最終決戦になると思う」

「それじゃあ、何でオウガが?」

「それは、分からないけど……。多分、最終決戦に向けてオウガの力を集めてるんじゃないかな?」

「そんな……」


 不安そうな顔で肩を落とす歩美を、励まそうと裕二は口を開いた。


「大丈夫だ。あいつは……いや。あいつ等は、負けない。きっと、全員生きてこの寮に戻ってくる」


 歩美の肩を叩き、微笑みかけるが、部屋が暗いせいで歩美から、裕二の顔は確認できなかった。でも、裕二の言葉を聞いて、歩美もゆっくりと微笑みかけた。

 そして、天地達の無事を祈っていた。



 幾つもの黒い球体の塊が、世界中各地から絶鬼の城に集まっていた。そして、砕けた壁からその黒い球体の塊は部屋に入り、漸の体に取り込まれていく。漸の体から出る気配は、黒い球体の塊を吸収するにつれて、強くなっていった。


「力が……力が溢れる!」


 そう言いながら、漸は両腕を広げて大声で笑っていた。体のそこから溢れる力に、酔いしれているのだろう。その笑い声は部屋中に響き渡っていた。


「あやつの力が、更に強くなっていくが、どうするつもりだ?」

「さぁな。俺達はただの時間稼ぎ……。最後は五龍神に選ばれた、天地の仕事だ」

「無責任な奴だ」

「俺はあくまで脇役だ。主役にはなれないタイプなんだよ」


 新しくポケットからタバコを取り出し、口に銜えるとゆっくりと火虎神で火をつけて、笑みを浮べながら火虎神を構えた。自分のすべき事を、神谷はしようとしているのだ。そして、神谷が何をするつもりなのか、火虎には分かっていた。


「俺はお前に最後までついて行くぞ」

「当たり前だ。俺とこの火虎神は、死ぬ時までずっと一緒さ」


 火虎はそう言ってゆっくりと、漸の方を見て体の炎を更に燃え上がらせた。銜えていたタバコを左手で掴むと、床に落とした。

 そして、火虎神を構えると、勢いよく床を蹴った。火虎も神谷に続き床を蹴り、漸に向かっていった。

 神谷は右方向から鋭く火虎神を振り抜いた。火虎神が風を切る音に少し遅れて、火虎神が鋭く漸に襲い掛かった。火虎神を握る神谷の手に、ズッシリと重い感触があった。だが、火虎神は漸の人差し指一本に、止められている。

 そして、左方向から振り下ろされた火虎の爪を、漸は軽々と右手でその爪を受け止めた。


「グッ!」

「ちょっと、気が早いですよ。僕の体はまだ完全体じゃないんですよ」


 そう言いながら、人差し指で火虎神をゆっくりと押し返した。その力に、神谷はなすすべなく、後退した。

 火虎もすぐに距離を取り、漸を睨み付けた。


「やばいぞ! これ以上は俺達では」

「それでも、やるんだ」


 神谷は火虎神を構えなおし、漸の方を睨み付けた。だが、漸はそんな神谷と火虎の事など、全く気にせずに、集まる邪気を体中に取り込み不気味に笑っている。

 邪気を取り込み、強まる漸の力に流石の神谷も恐怖を感じていた。


「行くぞ! 火虎!」

「この命に代えても奴の吸収を、止めて見せよう」


 神谷と火虎は同時に床を蹴った。炎を纏った火虎神を、勢いよく振り抜きながら神谷は叫ぶ。


「焼付け! 爆炎一閃」


 火虎神を取り巻く炎は、更に勢いよく燃え上がり漸に襲い掛かる。だが、火虎神は漸に軽々と受け止められた。そして、神谷の体は勢いよく吹き飛ばされ、床に激しく体を打ちつけた。

 火虎の鋭い爪が漸に勢いよく振り下ろされるが、その鋭い爪も、軽々と受け止められ、漸がゆっくりとした口調で言った。


「お前と遊ぶのも飽きた。これで、終わりにしよう」

「ふざける――!?」


 火虎がそう言いかけた時、漸の土蛇神が鋭く空を切り裂いた。その瞬間に、火虎の体が切り裂かれ、床に崩れ落ちた。


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