表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
激闘戦鬼  作者: 閃天
52/61

第五十一章 風と雷

 燃え盛る火虎が漸と格闘している最中、風を纏った由美と雷犬神を持った千春が激しくぶつかり合っていた。

 勢いよく振り下ろされる雷犬神を、疾風丸で受け止めると千春のお腹に蹴りを入れる。流石に、風を纏った由美の動きに、千春は追いつく事が出来ないでいる。だが、その副作用がジワジワと由美の体に襲い掛かっていた。


「ハァ…ハァ……」


 由美は息が荒く、大量の汗が額から流れ出ていた。華風蓮舞を発動してから、かれこれ20分近く経つ。疾風丸の柄を握る手には、もう感覚が無くなって来ていた。体中、傷だらけなのに、全く痛みを感じなかった。


「ハァ…ハァ……」

「随分、疲れてるわね」

「ハァ…ハァ……」

「もう、話す元気も無いの?」

「ハァ…ハァ……無駄な……ハァ…ハァ……話は……ハァ……したくない……」

「そう。でも、あなたの周りの風は、随分弱まってる」


 千春はそう言って息遣いの荒い由美に、雷犬神を向けてニコニコと微笑んでいる。確かに、由美の体を取り巻く風の勢いは、始めに比べてかなり弱まっていた。この風が消えた時、由美は千春にやられると、確信していた。


「あなたの命ももうすぐ消えるわ!」

「ハァ…ハァ……」

「轟け! 雷鳴!」


 雷犬神を勢いよく振り下ろすと、刃先から蒼い稲妻が走った。床を激しい音をたてながら、由美に向って一直線に向かって行く。その場で立ち尽くしたまま、由美は動かなかった。

 そして、体を包んでいた風が消えていた。これで、自分の命が尽きたと由美は思った。だが、蒼い稲妻は由美の目の前で、鋭い何かとぶつかり消滅した。


「誰!?」


 千春はそう言って、部屋の入り口の方を見た。そこには、風鳥神を構えた昴の姿があった。


「吹き荒れる風は、静かに時を流れ、時に暴風と化して全てを壊す。

 この弓に封じられし清らかな鳥よ。その翼を今一度羽ばたかせ」


 辺りが真っ白な光りに包まれた。そして、物凄い風が部屋の中に吹き荒れた。由美は目を閉じ、その風を肌に感じながら、ゆっくりと疾風丸に風を蓄えている。光りの中で昴の声がこだまする。


「飛びたて! 風龍神の化身・風鳥!」


 光りが納まり、部屋の中に吹き荒れていた風が、昴の横に集まり始めた。

 漸と戦う火虎の体の火が、その風で更に勢いを増していた。神谷は口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと漸を見た。そして、持っていた火虎神を構えると、床を蹴り漸に向かっていった。


「行くぞ! 火虎!」

「俺は、さっきから戦っている」

「細かい事を気にするな」

「お前は、大雑把過ぎるぞ」


 火虎はそう言って、鋭い爪を漸に振り下ろす。漸はそれを右手の土蛇神で受け止める。その右脇腹に神谷が、火虎神を振り抜いた。鈍い音が響き、神谷の手にもズッシリ重い手応えを感じた。だが、火虎神は漸の左手の土蛇神に止められていた。


「甘いね。この程度なら、簡単に!?」


 激しい痛みが左腕に走った。先程、確かに受け止めたはずの火虎神が、いつの間にか左腕を捕らえていた。その痛みで、力が緩み右手で防いでいた火虎の鋭い爪が、漸を切り裂いた。



 昴の横に集まった風は、美しい鳥になっていた。綺麗な翼が煌き、美しい目が全てを見透かしている様だった。そして、透通る様な美しい声が静かに響く。


「私の封印を解いたのは、あなたですね。私の力は微弱ですが、あなた方の助けになりましょう」

「それじゃあ……。あなたの風の力を、彼女に……」


 由美を指差して、昴はそう言った。すると、風鳥はゆっくりと頷き翼を羽ばたかせた。強風が部屋の中に吹き荒れ、壁には亀裂が走った。重たい腕をゆっくりと振り上げると、疾風丸の刃の周りに風が取り巻き始めた。そして、その風は由美の体も取り巻いていく。

 ゆっくりと風鳥の体が、浮き上がり部屋の中を華麗に舞う。


「あなたに、私の力を授けます」

「……ありがとう」


 透通る美しい声が、由美の耳に届き風鳥が、由美の体を取り巻く風と一体となった。風は更に勢いを増し、重かった体が軽くなった気がした。それも、体を取り巻く風のおかげなのだろう。


「風が戻ったようね。でも、あなたの体はもうボロボロよ」

「……それでも……私は戦う」


 鋭く千春を睨むと、床を蹴った。風が吹き抜ける音が、千春の耳に聞こえたかと思うと、背後に由美が現れた。気付いた時には、右肩から血が噴き出ていた。

 よろめき、床に膝をつくと、その首元に風を纏った疾風丸が、そっと触れた。


「あなたの……負け……」

「フッ……。私にとっての負けは、死んだ時だけ……」


 雷犬神を左手に持ち替えると、素早く反転し背後に居る由美に斬りかかる。だが、その刃は由美の纏う風によって、弾き返された。弾かれた雷犬神は、千春の手から離れ、床を滑る様に飛んで行った。

 由美は何も言わずに、疾風丸の刃先を床に倒れる千春に向けた。悔しそうに下唇を噛み、千春はゆっくり口を開いた。


「どうやら、ここまでのようね。さぁ、殺しなさい」

「……」


 千春の言葉に、由美は何も言わずに疾風丸を鞘に収め、千春に背を向けた。由美を取り囲む風は、疾風丸と共に鞘に納まったかの様に静まり返った。どうして由美が止めを刺さないのか、昴にはわからなかった。


「由美! どうして、止めを刺さないの! 姿は千春でも、中はオウガなのよ!」

「……ごめん」


 由美は小さくそう言った。その声は、入り口に居る昴に微かに聞こえた。その瞬間、千春の口元に笑みが浮かんだ。

 そして、走り出し床に転がる雷犬神を拾い上げ目を閉じて言う。


「轟き響く金色の雷、全てを破壊し、全てを奪う。

 この大剣に封じられし忠実なる犬。轟く雷と共に今蘇れ!」


 眩い金色の光りが雷犬神から発しられる。背を向けている由美には、その光りは別に大した事は無いが、天地や昴にとってはとても眩かった。


「来い! 雷龍神の化身・雷犬!」


 凄まじい爆音と共に、稲妻の体の犬が現われた。周りの壁を破壊するように、稲妻が飛び交う。シャンデリアは稲妻を直撃し、勢いよく床に落下した。幸い、その下には誰も居なく、怪我をする者は居なかった。


「我が主の為に、忠実に命を受けよう」

「なら、あの女を喰らうのよ」


 雷犬神を由美に向けて、千春はそう言う。雷犬は由美の方を見て、ゆっくりと口を開いた。


「あの者から、何の力も感じない。我が手を下さずとも」

「いいの。力の差を見せ付けるのよ」

「承知いたします。ならば、参る!」


 雷犬は勢いよく床を蹴り、大口を開けながら由美を喰らおうとした。その瞬間、由美が小さな声で言った。


「……ごめん。……千春」


 その声は小さく、その声は誰にも届かなかった。雷犬は由美に向って牙を向けた。だが、由美は素早く体を反転させると、腰を落とし右膝を床につき、素早く疾風丸を抜きながら叫んだ。


「裂け! 波動一閃!」


 疾風丸を鞘から抜くと、今までおさまっていた風が、一瞬にして吹き出した。それは、巨大な刃と化し、眼の前の敵、すなわち雷犬を切り裂いた。稲妻は弾け、壁を貫いた。


「そんな馬鹿な!」


 そう叫んだ千春の体に、凄まじい風が襲いかかった。それが、風の刃だと気付いた時には、体が消滅していた。風の刃が消えた後、部屋にはその跡がしっかりと残っていた。床と天井は二つに裂け、壁は崩れ落ちていた。もちろん、雷犬神も砕け散っていた。

 そして、疾風丸を抜いた由美の体も、ゆっくりと床に崩れ落ちた。


「由美!」


 部屋の入り口から、足元に気をつけながら昴が駆け寄った。倒れる由美の体を起こした。体中傷だらけで、戦いの激しさがそれを見ただけで伝わってきた。体も冷たく、血が通っていないかの様だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ