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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第四十六章 昴と神宮寺の戦い方

 城の庭園で天邪鬼と戦う、昴と神宮寺は悪戦苦闘していた。

 振り下ろされる斧を防ぐ神宮寺の細い腕は、痺れて感覚が無くなりつつあった。昴も天邪鬼の放つ矢を、打ち落とすために、かなりの体力を消耗していた。

 天邪鬼から距離をとって、睨みあっている。その時、何度か城の中から、銃声が響いていた。


「三上が残ったみたいね」

「そうですね。でも、三上さんだけで、大丈夫ですかね?」

「さぁ? あいつの心配するより、自分の心配しなきゃね」

「そうですね……」


 昴はゆっくりと、そう言って風の矢を構える。笑みを浮べながら、天邪鬼はゆっくりと矢を、ボーガンにセットしていく。狙いをつけた獲物を、徐々に追い込んでいく様にこの戦いを楽しんでいる様に見えた。

 昴と神宮寺に向って、矢を放つと数本の矢が、昴と神宮寺に襲い掛かる。昴と神宮寺は向って来る矢を、かわしながら花壇の後ろに隠れた。


「あいつに弱点なんてあるのかしら?」

「どうなんでしょうか?」

「大体、近距離も遠距離も出来るなんてずるいわよ」

「まぁ、そうですけど……」


 二人が話しをしていると、天邪鬼の声が近付いてきた。


「いつまで、隠れているつもりだ? それとも、怖くて出てこれないのか?」


 その声が無性に腹の立つ声だった。二人は怒りを堪えながら、話し合った。


「いつまでも、こうしててもしょうがないわ」

「でも、どうするんですか?」

「とりあえず、私が近距離戦に持ち込むから、あなたは援護して」

「危険ですよ」

「大丈夫よ。あなたを信じてるわ」


 そう言うと神宮寺は微笑みかけてから、天邪鬼に突っ込んでいく。天邪鬼は、突っ込んでくる神宮寺に気付き斧を取り出す。


「死ね!」


 天邪鬼が鋭く斧を振り下ろす。神宮寺がナイフで受け止める。澄み渡る音色が響き、火花が散った。風が二人の間を静かに吹き抜ける。と、同時に昴の声が響く。


「神宮寺さん! どいてください!」


 神宮寺は力一杯、天邪鬼の体を突き飛ばし、左に跳ぶ。花壇の後ろで大きな風の矢を構える昴が、天邪鬼の視界に入った。


「射抜け! 大燕!」

「その手は俺には通じない」


 そう叫んで体を後ろに逸らして、大きな風の矢をかわす。その時、蒼い空に白い小さな点が、幾つも見えた。それが、何かこの時の天邪鬼は分からなかった。

 体をゆっくり起こした天邪鬼に向って、昴が笑みを浮べながら言い放った。


「降り注げ! 降下・大燕!」


 その言葉と共に天邪鬼の体に、大きな風の矢が何本も降り注いだ。凄まじい爆音を、たてて土埃を撒き散らした。地面には穴が開いていた。恐ろしいほどの威力だ。そして、土埃が静まったその場所に、天邪鬼の姿は無かった。


「やったの?」

「さぁ? でも、あれで生きていられるかしら?」

「どうでしょう?」

「そういえば、三上は無事かしら」


 ゆっくりと城の入り口に視線を送る。入り口には大量の血が流れていて、悪鬼の笑い声だけが響いていた。二人の脳裏には最悪のイメージが膨らんだ。だが、その時一発の銃声が鳴り響き、肉片が城の中に飛び散った。

 その後、悪鬼の体がゆっくりと倒れた。石化する悪鬼の体を、庭園から見ていた昴と神宮寺の背後で不気味な声が響く。


「戦いの最中に、余所見をしていいのか?」

「――!?」


 振り返った二人の前には、血だらけの天邪鬼が立っていた。あれだけの矢を受けて、まだ生きていると言うのが、信じられなかった。

 後退りする昴と神宮寺に、ゆっくりと不気味な笑みを向ける。


「残念だが、俺はあの程度では死なん……」

「こいつ。不死身?」

「あぁ……俺は……不死身だ」


 そう言うと、持っていたボーガンの引き金を引き、数本の矢を飛ばす。至近距離で放たれた矢に反応できず、2人の体に矢が突き刺さると、血飛沫が舞い上がる。

 昴と神宮寺はすぐに身を隠したが、矢は深く体に刺さっていた。


「うっ……。油断したわね」

「イッ……。全くです。でも、あれをくらって立ってるなんて……」

「本当。最悪ね」

「全くです。それで、これからどうします?」

「同じ手は、通じない様だし、困ったわね」


 静かにそう言って二人は落ち込む。天邪鬼の足音が近付いてくる。


「いつまでも、隠れられると思うなよ」


 天邪鬼の声が響く。そして、ボーガンに矢をセットする音が聞こえる。息を呑む2人の耳に、矢を放つ音が聞こえた。だが、矢はいっこうに飛んでこない。まさかと思い、昴が上空を見ると、無数の矢が2人に向って降り注ぐ。2人は同時に別々の方向に跳んで、降り注ぐ矢をかわした。


「フハハハハッ! 死ね!」

「――!?」


 降り注ぐ矢をかわした昴の前に、斧を振りかぶった天邪鬼の姿があった。かわしきれない。瞼を堅く閉じ死を覚悟した昴だが、痛みは感じない。恐る恐る目を開くと、そこには斧を振りかぶったまま、動かない天邪鬼の姿があった。


「うっ……。貴様……」


 天邪鬼の背後には神宮寺の姿があった。天邪鬼の背中にナイフを突き刺して、その返り血で真っ赤に染まっていた。斧が天邪鬼の手からゆっくりと落ちる。斧は鈍い音をたてて地面に突き刺ささった。神宮寺が更に力を込めると、天邪鬼の体から更に血が噴き出る。


「まだ、死なないの……」

「人間如きが……」


 天邪鬼の手がゆっくりと、ナイフを突き刺す神宮寺の手に伸びる。ナイフを握る神宮寺の手を、凄まじい力で天邪鬼は掴む。


「クッ……。まだ、こんな力が……」

「この……程度で……死なぬ」

「神宮寺さん!」


 昴が叫んだ。その瞬間、神宮寺は天邪鬼の手を振り解き、その場を離れる。天邪鬼の手は、背中に刺さるナイフの柄を握り、力一杯ナイフを抜こうとする。その時、目の前で昴の声が響く。


「射抜け! 大燕!」


 風鳥神から大きな風の矢が、天邪鬼の胸に向って放たれる。矢は鋭い音をたてながら、天邪鬼の胸に突き刺さる。回転する風の矢が、血飛沫をあげながら天邪鬼の体を貫いた。天邪鬼の体がゆっくり地面に倒れると、天邪鬼の体は徐々に石化していく。神宮寺の体についた、天邪鬼の血は微粒子と化し、パラパラと散っている。それを、払いながら昴の方に歩み寄ってくる。


「結構、手ごわかったわね」

「そうですね」

「それじゃあ、私達は!? ――グフッ」

「神宮寺さん!?」


 会話の途中で神宮寺が、口から血を吐いた。何が起ったのか全くわからなかった。その時、神宮寺の背後で天邪鬼の微かな笑い声が聞こえた。


「グフフフフ……。俺は……一人…じゃ……死なねぇ……」


 天邪鬼の声は途切れ、完全に石化した。神宮寺は、ゆっくりと両膝を地に落とすと、そのまま前方に倒れていく。倒れる神宮寺の体を、昴は抱きとめる。


「じ、神宮寺さん!」


 昴は神宮寺の体を、抱き止めて始めて気がついた。神宮寺の背中には、矢が数本刺さっていた。弱々しい声で、神宮寺は昴に言った。


「ちょっと……油断した……わ」

「しゃ、喋っちゃ駄目です」

「い……いいのよ……。私も……もう……終わり……」

「何言ってるんですか! 私達は絶鬼を倒さなきゃいけないんですよ」

「もう……ね……むく……なってきた……」


 そう言って神宮寺の瞼がゆっくりと閉じた。そして、二度と目を覚ます事はなかった。


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