第四十二章 見えてきた城
清々しい程澄み渡った蒼い空。波の音と風でザワメク草木の音が、静かに交じり合う。ハンター7人の足音がバラバラに地を踏み鳴らす。
先頭を歩く足音が止まると、他の足音もそれにつられて止まる。白煙を口から吐きながら、低い声が響いた。
「ようやく、見えてきたぞ」
神谷の声で、誰もが息を呑んだ。
7人の視線の先には、森から少し飛び出た城の赤いレンガの屋根が見える。あそこに絶鬼が居ると思うと、自然と体に力が入った。
「いよいよか……」
緊張しているのか、声が少し震える天地。震える天地の声に気付いた神谷は笑いながら言う。
「何だ? 緊張してるのか? 絶鬼に会う前から緊張してどうするんだ」
「神谷さんは、緊張感が無さすぎですよ」
笑う神谷に魁人が鋭く言う。そんな魁人の言葉にもめげず、神谷は笑いを続ける。呆れる昴と神宮寺がため息を漏らす。その二人の背後で三上の声が響く。
「ため息なんて吐いちゃって、どうした?」
「いや……。何でも無いです……」
眠そうな三上の声を聞くと、何か疲れを感じる。だから、昴はそう答えてからため息をもう一度吐いた。由美は黙ってその様子を見ていた。
暫く、神谷の笑い声が響いていたが、ようやくその声もおさまった。
「城までもうすぐだけど、絶鬼の手下はどれくらい居るのかな?」
不安そうな声で昴はそう言って神谷の顔を見る。相変わらずタバコを口に銜えている神谷は、静かに鼻から煙を出す。何も答えない神谷の代わりに魁人が答えた。
「僕らは、天地君達と合流する前に、六鬼神の二体と戦った」
「六鬼神? 何だよそれ?」
「他のオウガよりも……強力な力を持った……オウガ」
天地が怪訝そうな顔で魁人の方を見ると、由美が天地の質問に答えた。それを聞いた神宮寺が、更に疑問を口にした。
「それで、六鬼神とは決着をつけたの?」
「えぇ、何とか襲ってきた二体とは決着をつけました」
「と、言う事は後4体。それに、軍師の漸と千春が加わり6体。絶鬼を合わせて7体か」
顎に右手を添えながら天地はそう言った。神谷はタバコを右手に持つと、口を大きく開き白煙をドーナツ状にして飛ばした。非常にのんびりとしている。
そんな神谷を無視して、天地達は話を進める。
「まぁ、向こうの主力も7体か」
「戦力的に見て、こっちが圧倒的に不利だけどね」
昴がそう言って天地の方を見てため息を吐く。確かに、戦力的にこっちが不利だった。その理由は昴・神宮寺・三上の三人にあった。三人とも遠距離タイプで、接近戦には対応できないからだ。そんな事など、重々承知していた。
「そうなんだよ。圧倒的に不利なんだよな」
「なんか、私達が悪いって目してるわね」
神宮寺が天地の視線に気付き、不満そうな声を上げる。その神宮寺に眠そうな、三上の声が突き刺さる。
「うん。君が悪い」
「なっ! あんたも、遠距離戦専用じゃない!」
「僕のは近距離でも発砲出来るから」
「わ、私だって、近距離戦は出来るわよ!」
二人の視線が同時に昴の方に向く。戸惑いながら昴は二人の顔を交互に見る。
「エッ、なっ、何!? もしかして、私が悪いって言いたいんですか?」
驚きの声を上げる昴に対し、二人の視線が冷たく突き刺さる。そして、神宮寺が声を上げた。
「だって、弓って、引くのに時間掛かるじゃない」
「それだったら、三上さんのライフルだって同じです」
「エーッ。僕のライフルは時間掛からないよ」
やる気の無さそうな三上の声が響く。天地・魁人・由美の三人は、呆れて言葉も出なかった。その後も、昴・三上・神宮寺の三人は色々ともめていた。その三人を止めたのは神谷の一言だった。
「さて、そんなに元気があるなら、とっとと城に乗り込むか」
口からタバコを吐いて、それを踏み潰し、ゆっくり立ち上がり手を二回叩く。全員の視線が神谷の方に向いていた。ニコヤカに微笑みながら、神谷は全員の顔を順番に見ていく。
「んっ? どうした? 出発するぞ」
「エッ、はい」
そう返事をした天地が立ち上がると、他の皆も立ち上がった。少し戸惑いながらも、歩き出した神谷の後に続いて歩きだした。
暫し、沈黙が続き海の方から吹く潮風が、木々の葉を揺らしざわめかす。蒼い海に白い波が一筋の線を描く。やはり、7人の足並みはバラバラだった。城に近付くにつれて、誰も言葉を交わさなくなっていった。




