表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
激闘戦鬼  作者: 閃天
39/61

第三十八章 六鬼神 那羅延 ―1対1の戦い―

 密迹の体は完全に石化して、微風によって崩れていく。神谷はまだ、密迹に訊きたい事はあった。


『絶鬼がオウガじゃないとはどういう事なのか』

『奴は何をしようとしているのか』


 色々な事が頭をよぎり、いつの間にか神谷は石化した密迹の体の横に座り込んでいた。石化した密迹の体に触れると、簡単に崩れ落ちていく。折角、話の分かりそうなオウガにあったというのに……。神谷のもとに魁人と由美が駆け寄ってきた。


「神谷さん……」

「……大丈夫?」

「俺は平気だ……」


 微かに声が震えている。神谷の背中しか見えていないが、その背中は泣いている様だった。声を掛けようとしたが、言葉が何も見つからなかった。由美も魁人も黙って神谷の後ろ姿を見ている。

 その時、暗闇の中から鎖を回す音が響き渡った。重い足音が徐々に近づいてくる。

 武器を構えようとする魁人と由美の二人を、制止させた神谷はゆっくり立ち上がった。暗闇から低く野太い声が聞こえてきた。


「六鬼神ともあろう者が、絶鬼様を裏切ろうとは……」


 暗闇の中から姿を現したのは、体中傷だらけのオウガだった。右手に持った鎖を頭上で回していて、その鎖の先には巨大な鉄球がついていた。鋭い目つきで三人を見ながら口元に笑みを浮かべる。

 その時、横から黒川が威勢のいい雄叫びを上げながら、トンファーでオウガに殴り掛かって行く。


「ウオオオオッ」

「――止め……」


 それを、止め様と叫ぼうとする三人だったが、すでに遅かった。上空を回っていた鉄球が回転しながら黒川に飛んでいく。両方のトンファーでそれを受け止めようとしたが、その勢いは凄まじく、トンファーが折れる音か、はたまた黒川の腕の骨が砕ける音か、分からないが物が砕ける音が響いた。二発目で、黒川の頭は無残に潰され頭蓋骨は砕け散った。

 神谷・魁人・由美の三人は何も言えなかった。ただ、怒りだけが湧き上がってきていた。

 鉄球に付いた黒川の血がアチコチに飛び散っていた。血の匂いがいたる所からして、とても臭かったが、この匂いがオウガにはたまらない様だ。


「この血腥さ(ちなまぐささ)が俺の力を増幅させる。さぁ、次は誰が顔を潰されたい」


 低く野太い声が森の中に響く。ゆっくりと一歩前に出た神谷は、タバコを口に銜えてオウガの方を睨み付ける。そして、魁人と由美にだけ聞こえる声で言う。


「こいつは、俺一人でやる。お前たちは手を出すな」

「でも……」


 何か言いたげな魁人の肩を由美が掴んだ。魁人が由美の方を見ると、由美が首を横に振りながら小さな声で言った。


「――ここは……神谷に……任そう」

「でも……」

「大丈夫……。私達は……見守ろう」


 そう言って由美は魁人の目を見る。その由美の目は、何かを訴えかけていた。魁人はその目に負け、ため息を吐きながら言った。


「わかった。見守ろう」

「魁人。俺に何かあったら由美を連れて天地達と合流しろ」

「何言ってるんですか。その時は、僕が奴を」

「まぁ、そうはならないと思うがな」


 笑いながら神谷はそう言ったが、目が笑っていなかった。火虎神の両端の虎の彫刻に真っ赤な炎が集まった。そして、その炎でタバコに火を点けた神谷は大声で言い放つ。


「このタバコを吸い終わる前に、お前は地面に倒れる」

「そのタバコが吸い終わる前に俺を倒せると言うのか? 面白い」

「その前に、聞きたい事がある。お前も六鬼神なのか?」

「あぁ、俺は六鬼神の一人那羅延ならえん


 そう名乗ると同時に鉄球が飛ぶ。魁人と由美に離れる様に言うと、飛んで来る鉄球に向って火龍神を突き出す。回転する鉄球に当たる、火虎神の虎の彫刻が嫌な音をたてながら火花を散らしている。鉄球の回転が弱まったのに気付いた那羅延は、鎖を引き鉄球を手元に戻した。

 戻ってきた鉄球を左手で受け止めた那羅延は、鉄球のあまりの熱さに思わず鉄球を地面に落としてしまった。


「ウッ!?」


 鉄球は地面に落ちると、凄まじい地響きを起こし、地面にめり込む。地面にめり込んだ鉄球からは白い煙があがっていた。

 左手首を右手でしっかり掴み、顔を歪めている那羅延の真正面から、火虎神を回転させながら、突っ込んでくる神谷の姿が見えた。左手の痛みを堪えながら、神谷に向って右の拳を振り下ろした。振り下ろされた拳に向って、神谷は火虎神を振る。風を切る音から遅れて、しなった火虎神が那羅延の右の拳に直撃する。重みのある感触が手に伝わる。

 その瞬間に、那羅延の体が後方に勢いよく吹き飛び地面に倒れた。


「グッ……」


 ゆっくり体を起こす那羅延に向って、口に銜えていたタバコを飛ばし、白煙を口から吐きながら神谷は言い放った。


「ちゃんとタバコを吸い終わる前に倒したぞ」

「ふざけるな。俺はまだ死んでいない」

「言ったろ? タバコを吸い終わるまでに、お前は地面に倒れるって。誰も、お前を殺すなって言ってないし、俺も疲れたし休みたいからな。後は……。魁人! 由美! 任せるぞ」


 那羅延に背を向けて笑いながら、魁人と由美に手を振っていた。そんな神谷に向って魁人の檄が飛ぶ。


「ちょ! ちょっと! 何考えてるんですか! さっきの言葉は何だったんですか!」

「はぁ? さっきの言葉? 俺、何か言ったか?」


 首を傾げながら考え込む神谷。

 そんな神谷に向って背後から、那羅延の右の拳が飛んできた。その拳を後ろ向きのままで、避けた神谷は火虎神で素早く那羅延の顎を打ち上げた。那羅延の体は後方に浮き上がり地面に倒れた。


「ウウッ……」


 軽く首を振りながら、視点を合わせる那羅延から離れていく神谷。鎖を引っ張る音が微かに聞こえた。と、同時に那羅延が叫んだ。


「俺を甘く見たな! 死ね」


 巨大鉄球が神谷の背中に向って飛んできた。鎖の伸びる音が続き、鉄球が神谷に迫ってくる。だが、神谷は最小限の動きでそれを右に避けた。

 鉄球は神谷の左横を通過していき、そのまま何本かの木をへし折った。木が倒れた衝撃で風が起き、神谷の髪がなびいた。

 鎖が引っ張られ、鉄球が那羅延の所に戻っていく。轟々しい程の音をたてながら、鉄球の付いた鎖を自分の頭上で回す那羅延。

 すでに、神谷の挑発によって我を忘れてしまっている。


「ん〜っ。魁人。お前一人で十分か?」


 神谷は伸びをしながら、木の根の上に腰を据えて魁人にそう言った。それに対し、自信の無さそうな魁人の声が返ってくる。


「十分なわけ無いでしょ! 神谷さんが挑発するから……」

「何、大丈夫だ。心配するな」

「ちょっと!人事だと思って!」


 笑いながらポケットからタバコを出し、口に銜えた神谷はやはり火虎神で火を点けて、白煙を口から吹く。白煙は風に乗り空に舞う。のんびりとしている神谷に、戦う気が無いのが分かった魁人は、渋々那羅延の相手をする事にした。

 しかし、那羅延の鋭い眼光は神谷に向いたままだ。ため息交じりの声で魁人は那羅延に叫ぶ。


「ここからは、僕が相手をします……」

「ふざけるな! 俺の相手は奴だ!」


 那羅延はそう言って、鉄球を神谷に向って投げた。こうなる事は、大体分かっていた魁人は、腰を低くして水鮫神を引いた。水鮫神の周りに水が集まり渦巻き始める。

 一方、鉄球は回転速度を増しながら、物凄いスピードで神谷に向うが、神谷は顔色一つ変えずタバコを吸っている。


「噛み砕け! 水牙鮫!」


 引いていた水鮫神を一気に突き出した瞬間、水が弾ける音と共に、水鮫神の周りに渦巻いていた水が鮫の形になり、物凄い勢いで鉄球に喰らい付いた。その威力は凄まじく、硬い巨大鉄球など一瞬で噛み砕かれていた。修行前とは威力もスピードも桁違いだった。噛み砕かれた鉄球は、無残に地面に破片だけを残していた。


「あの鉄球を……」

「間に合った……」


 息をゆっくり吐きながら、魁人は額から流れる血を拭った。まだ、密迹のダメージが残っているのだ。

 やはり、天地の様に簡単に痛みが引く訳が無かった。


「う〜っ。こっちだって、辛いのに……」


 ブツブツと愚痴をこぼしながらも、しっかりと那羅延に向っていく魁人だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ