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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第三十七章 意気投合 そして、次なる敵

 静かな森の中で睨み合う神谷と密迹。

 タバコの煙をゆっくりと口から吐きながら、神谷は歩き出した。いたる所から血が出ている密迹はフラフラながらも棍を構えた。

 緩やかな風が二人の間を吹き抜ける。神谷の前髪とシャツが風で揺れている。

 苦しそうに顔を顰めながらも、密迹は神谷に向って棍を振り回して突っ込んでいく。


「俺は人間には負けん!」


 気迫のこもった声でそう叫び、密迹の棍が神谷の右脇腹に向って飛ぶ。風を切る音と共に棍は空を切り、風を巻き起こし、土や落ち葉を舞い上がらせる。

 空を舞う神谷が、密迹の頭目掛けて火虎神を振り下ろす。密迹の左の拳が振り下ろされた火虎神に突き出された。神谷の火虎神と密迹の左の拳がぶつかり合う。

 その衝撃で神谷の体は後方に吹き飛び、一方の密迹の左腕からは血が噴出した。


「グッ……」


 神谷の体は木の上に落ちた。木の葉がクッションとなり、ダメージは軽減されたが、口に銜えていたタバコは、いつの間にかどこかに飛んでいってしまった。

 木の上から飛び降りた神谷は、軽く右肩を回しながら首の骨を鳴らしていた。


「いや〜。びっくりした。まさかパンチで弾き返されるとは」


 軽く笑いながら神谷は火虎神を構えた。

 すると、火虎神の両端が真っ赤な炎に包まれた。暗い森の中を、その炎が照らした。先程までいた森の中とは、思えない程風景が変わっていた。地面はいたる所が砕けて陥没していて、木々は無残にへし折られている。

 密迹の左腕は力が入らず、動かなくなっていた。


「お…お前、何をした……」

「何をしたって、言われてもな」


 左手で頭を掻きながら笑っている神谷に、密迹は怒りの声を上げた。


「ふざけるな! 人間如きが!!」

「その人間如きに、お前は敗れるんだ」

「ふざけ――!?」


 叫ぼうとした密迹の左腕が、ボコボコっとコブの様に膨れ上がった。何が起こっているかわからないが、激しい痛みと燃え盛る様に腕が熱かった。


「グオオオッ」


 左腕を押さえ唸り声を上げながら苦しむ密迹。

 それを見ながら、神谷はゆっくりとポケットからタバコを取り出して、口に銜えると火虎神で火を点けた。タバコから白煙がユラユラと空にあがる。

 左手でタバコを持つと、ゆっくり口から煙を吐き、タバコを地面に捨てて足で踏み、火を消してゆっくりと呟いた。


「――爆虎」


 それと同時に密迹の腫れていた左腕が、更に腫れ上がり一瞬にして爆発して肉片が飛び散った。左肩からは大量の血がボトボトと地面に滴れ落ちる。密迹の足元は自分の血で真っ赤に染まり滑りやすくなっていた。


「ウウッ……。これが、人間の力だというのか……」

「さて、お前も疲れたろ。そろそろ安らかに眠ってくれ」

「黙れ!! 俺は……」


 強気に叫ぶ密迹だが、血の流し過ぎで足がもつれて、大きな音を立てて地面に倒れこむだが、その顔は神谷の方を向いたまま、鋭い眼光で睨みつけている。

 ゆっくりとした足取りで神谷は密迹の方に歩み寄ってくる。近づく神谷に密迹は叫んだ。


「グッ! どうした。さっさと止めを刺せ!」

「ちょっと、気が変わってな」

「き、気が変わっただと! ふざけるな!!」

「まぁ、そう言うな」


 笑いながらそう言った神谷は密迹の顔の前に腰を下ろした。体の自由の利かない密迹は神谷を前にして何も出来ないでいた。体を動かそうともがく密迹に神谷が笑いながら言う。


「オイオイ。動いたらその分、血が流れるぞ」

「黙れ! 人間に心配される覚えは無い」

「まぁまぁ。お前達オウガだって、元は人間から生まれた者じゃないか」

「俺達は生まれたくて生まれた訳じゃない」


 密迹はそう言って神谷を睨む。

 確かにオウガは生まれたくてこの世に生まれてくる訳じゃない。人の心の闇が溜まりに溜まって、初めてオウガは生まれる。そして、生まれてきたオウガは、血を求め肉を求め人々を襲う。これが、闇から生まれたオウガの性なのだ。

 もちろんそれを神谷は知っていた。だからこそ、密迹と話したいと思ったのだった。


「そうカッカするなよ。俺は、お前と話したいだけだ」

「話たいだけだと!?」

「ああ。お前は他のオウガとは違って、自分の力を試す為にハンターと戦ってるって感じがすんだよな」

「人間のお前に何が分かる」

「人間とかオウガとか、関係ないさ」


 ポケットからタバコを出すと口に銜えた。そして、火虎神で火を点けて煙を吹かしていた。

 そんな神谷を見ていると、不思議と笑いが込上げてきた。


「ふ…ふはははは……」


 急に笑い出した密迹に神谷も続けて笑い出した。二人の笑いが森中に響いた。

 その様子を木にもたれながら見ていた由美は小さく呟いた。


「怪我……大丈夫?」

「あれ、気付いてたの?」


 魁人の声が木の上から聞こえたかと思うと、由美の横に降りてきた。着ていた着衣はボロボロに裂けて、体中傷だらけだった。それは、由美も一緒で、裂けた着衣の隙間から下着が見え隠れしていた。そのせいか、魁人は由美の方を見ない様にしていた。


「どうか……したの?」

「い…いや……。どうかしたのじゃなくてさ……」


 恥ずかしそうにしている魁人の視線で、由美もようやく気付き、裂け目を押さえながら顔を真っ赤にしていた。魁人は背を向けて叫んだ。


「み、見てないよ。全然いてないから!!」


 激しく両腕を上下に振りながら、見てないと否定する魁人だが、確実に見えていただろう。


「魁人の……エッチ……」


 由美は小さく呟いた。その言葉は魁人の心に深く突き刺さった。落ち込み木にもたれこんだまま、魁人は動かなくなった。



 二人がそんな事をしている中、神谷と密迹は意気投合していた。笑いながら話していた神谷と密迹が急に静かになった。


「なぁ、お前は何で絶鬼の配下についたんだ?」

「何でって……」

「何か理由があるんじゃないのか?」

「そうだな。元々、俺達は封印されてたのを、絶鬼が解いたって感じだな」

「ふ〜ん」


 頷きながら神谷は新しいタバコを口に銜えた。これで、何本目のタバコになるだろうか。一体、どこにそんなにタバコが入っているのかが不思議なくらいだ。

 神谷はタバコに火を点けてゆっくりと煙を吐く。白煙は風に吹かれて流されていく。


「それで、絶鬼は何を考えてるんだ?」

「さぁな。だが、一つ言える事がある」

「何だ?」

「あいつはオウガじゃねぇ」


 密迹がそう言うが、神谷にはさっぱり分からない。絶鬼がオウガじゃないなら、なぜオウガの指揮をとるのか。それを、訊こうとした時だ。


「あぶねぇ!!」


 密迹の声が響くと同時に右手に持っていた棍が飛ぶ。棍が割れる音が響いた後、木っ端微塵になった棍の破片が神谷の頭に降り注いだ。その音の方を魁人と由美は見る。

 二人の視線の先は真っ暗で何も見えない。だが、確かにその先に誰かがいるのが分かった。暗闇の中で枝の折れる音がした。何者かが落ちていた枝を踏んだのだろう。

 暗い森の中に微風が吹き、木々の葉を揺らしざわめかせる。

 神谷の横で倒れていた密迹がゆっくりと立ち上がった。その瞬間に、左肩から血が垂れる。

 そして、苦しそうな声で言った。


「奴が……来た様だ……」

「奴?」


 ゆっくりと首を縦に振る密迹。

 鎖を振り回す音が響く。風が巻き起こり、木々が更にざわめく。落ち葉が舞いあがり神谷・魁人・由美の髪を揺らす。

 鎖の伸びる音がすると共に、暗闇の中から巨大な鉄球が物凄いスピードで飛んできた。鉄球は神谷の顔の横を通り過ぎた。その瞬間に突風が吹き神谷の体がよろめいた。

 何かの潰れる音が神谷の背後から聞こえると、同時に真っ赤な血が飛び散った。生暖かな風と共に鉄球が神谷の横を通り戻っていく。鉄球が神谷の横を通り過ぎる時、風と一緒に血の匂いが漂った。まさかと思い、神谷が振り返るとそこには顔の潰れた密迹が力なく立ち尽くしていた。


「密迹!?」


 ゆっくりと両膝が地面に落ち、そのまま上半身が前に倒れこんだ。地面に広がった赤い血が、密迹が倒れると同時に飛沫を上げる。石化する密迹の体。地面に広がっていた密迹の血は、微粒子となり風に舞っていった。



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