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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第三十六章 風に舞う 由美

 静かで暗い森で密迹と睨みあう神谷達。

 国道は気絶したまま動かず、黒川は密迹の一撃を喰らい動けずにいる。


「さて、次はどいつが相手だ? 何なら三人一緒に掛かって来てもいいぜ」

「なら、お言葉に甘えさせてもらおうか」


 火虎神を構えるとゆっくりと魁人と由美を見た。

 疾風丸を構える由美と、水鮫神を構える魁人。

 三人がゆっくりと離れ密迹を囲む。


「行くぞ! 魁人! 由美!」

「はい!」

「……はい」


 三人は同時に地を蹴り密迹に迫る。

 密迹の右方向から由美の疾風丸が振り下ろされる。


「ハッ!」

「甘いぞ」

「――!?」


 疾風丸は空を切り由美は密迹に投げ飛ばされた。

 由美を投げた密迹に魁人の水鮫神が左方向から襲い掛かる。


「てりゃーっ!」

「その程度か?」


 棍で水鮫神を抑えて、密迹は右手で魁人に殴りかかった。

 その拳を魁人は紙一重で避けていた。


「くっ!」

「魁人、下がれ!」


 その声を聞くと同時に、魁人は密迹の棍を弾いて後方に跳んだ。

 完全にバランスを崩した密迹の右方向から、神谷の火虎神が襲い掛かった。

 神谷は火虎神で密迹の右足の脹脛ふくらはぎを殴った。

 右膝を地についた密迹の顔に向って、火虎神が飛んできた。

 神谷の手にはズッシリと重みのある手応えがあった。

 だが、火虎神は密迹の右手で完全に受け止められていた。


「――なっ!?」

「この程度で俺に手傷を負わせられると思ってるのか?」

「危ない神谷さん!」

「――!?」


 神谷の顔面目掛けて、密迹の棍が襲い掛かってきた。

 火虎神を掴まれ、密迹の棍を防げない神谷の前に、魁人が現われ密迹の棍を水鮫神で防いだ。

 凄まじい衝撃が魁人の両手を襲った。


「ぐっ……」


 魁人は歯を食い縛りそれに耐えていたが、2撃目は防げないだろう。

 密迹は笑みを浮かべると、火虎神ごと神谷を持ち上げた。


「――!?」

「神谷さん!?」


 そう叫んだ魁人に凄まじい衝撃が襲い掛かり、後方に吹き飛んだ。

 勢いよく吹き飛んだ魁人の体は木々を何本か貫いていく。

 激しい音を立てて木は倒れていった。

 そして、密迹は持ち上げた神谷を地面に叩き付けた。


「――ウッ」


 地面の砕ける音と共に、神谷の口から真っ赤な血が舞った。

 地面は砕けて神谷の体がめり込んでいた。

 掴んでいた火虎神を神谷の顔の横に突き刺した。


「期待外れだな……」

「ぐっ……。悪かったな……期待外れで……」


 神谷は小声でそう言って火虎神を掴むと笑みを浮かべた。

 密迹はゆっくりを長く太い棍を振り上げて、神谷の顔の上に落とそうとしたが、体が動かなかった。


「ぐっ! 体が……」

「やっと捕らえたぜ……」


 フラフラながら立っている国道が密迹を見ていた。

 細い糸状の物が密迹の体に巻き付き動きを封じていた。

 ゆっくりと立ち上がった神谷に、国道が半笑いしながら言った。


「ざまねぇ〜な」

「一番先にやられたお前に言われたくないな」


 火虎神を地面から抜きながらそう言って笑った。

 体を封じる糸状の物を、引き千切ろうと力を入れると、逆に体にめり込んでいた。


「ググッ……」

「止めとけ。もがけばもがく程、そいつは食い込んでいくぜ」

「俺を……なめるな……!!」


 怒りのこもった声でそう言った密迹から、凄まじい殺気が放たれ辺りを包み込む。

 嫌な予感がした神谷は大声で叫んだ。


「国道! 今すぐこの糸を解け!」

「はぁ? あんた、何言ってんだ?」

「いいから、早く!?」

「――!?」


 遅かった。

 凄まじい力が国道の糸を引っ張り、逆に国道の体が細切れにされた。

 辺りに肉片と血が飛び散り、赤く染まっていた。

 先程とは全く違い、凄まじい気配が体にビンビンと感じていた。


「こ…これが……本気だというのか……」

「行くぞ! 人間よ!」


 風を切る音がすると同時に、凄まじい衝撃が神谷の体に襲い掛かった。

 何とか火虎神で密迹の棍を防いだ神谷だったが、体は軽々と吹き飛ばされた。

 木々を何本か貫き勢いは止まったが、その直後木々が倒れていく。


「グッ……」


 ゆっくり立ち上がった神谷の前に、密迹が一瞬で現われ神谷の体を棍で宙に投げ飛ばした。

 軽々と宙に舞う神谷の上空に移動した密迹は、棍を思いっきり神谷のお腹に突き立てた。

 そのまま、神谷の体は密迹の棍と共に落下していった。

 爆音と共に土埃が巻き起こった。

 地面は砕けて、密迹の棍だけが地面から突き出ていた。

 地面に着地した密迹は棍を引き抜きゆっくりと言った。


「少々やり過ぎたか……」


 辺りをゆっくり見回してため息をつく。

 立ち去ろうとした密迹の前に現われたのは、疾風丸を持った由美だった。

 風で瓦礫が崩れた。

 立ちはだかる由美を見て、密迹は鼻で笑った。


「――フッ。お前が俺に挑むと言うのか?」

「私は……負けない……」

「ならば、掛かって来るがいい!」


 由美が素早い動きで、密迹に斬りかかるが、密迹は棍で疾風丸を受け流していく。

 鈍い音だけが、辺りに響き渡る。

 余裕の表情で疾風丸を弾き返す密迹。

 密迹はまだ気付いていなかった。

 疾風丸の刃に風が集まっているのに――。


「お前達ハンターの力なぞ、そんな物か!」

「本気……出すから……」


 由美は小さくそう呟いた。

 その声は疾風丸と棍がぶつかる音で掻き消され、密迹の耳には届かなかった。

 後方に跳んだ由美は、そのまま密迹と距離を取った。

 距離を取った事など密迹は全く気にしていなかった。


「静かに流れる風よ……。我の体を、その清らかなる風で包み込み……。

 素晴らしき舞を躍らせたまえ……。華風蓮舞かふうれんぶ


 疾風丸に向って小声でそう言うと、今まで疾風丸の刃を包んでいた風が、由美の体を包み込む。

 その風は、昴の時と違い、静かで清らかな風だった。

 静かな風で由美の髪が舞い上がり、ユラユラと揺れている。

 密迹は由美が何をしているのか全く分からなかった。

 ゆっくりと疾風丸を構え直す。

 そして、ゆっくりとした口調で言った。


「……行きます」

「――!?」


 離れていた場所に居た由美が一瞬にして、目の前に現われたので密迹は反応する事が出来なかった。

 すぐにその場を離れたが、いつの間にか右腕を斬られ、血が出ていた。


「な…何をした!」

「……」


 何も答えず由美はゆっくりと体を動かしていた。

 その由美に向って、密迹は棍を振り抜いた。

 だが、それを由美は舞を踊るかの様に、避けて疾風丸で棍を弾き飛ばした。

 そして、一瞬にして密迹の死角に現われた。


「クッ!」


 疾風丸が密迹の右足を斬りつける。

 その瞬間に血が花びらの様に舞い散った。

 苦痛に顔を顰めた密迹は、やはりすぐに由美から距離を取る。

 しかし、右足を斬り付けられて、動きが少し鈍くなっている。


「どういう事だ。先程とは動きが違い過ぎるぞ……」

「……」


 またも、由美は何も言わなかった。

 何が起きているのか、わからない密迹は次第にイライラを募らせていた。

 どんなに距離をとっても、由美は死角に現われ密迹を斬りつける。

 その度に血が花びらの様に散っていくのだ。


「グッ……。俺を、なめるな」

「終幕です」


 密迹が突っ込んでくると同時に由美はそう呟き疾風丸をかざした。

 風を切る音と共に、由美に向って密迹の棍が飛んで来る。

 だが、棍は空を切りそこに由美の姿は無かった。

 辺りを見回すが、やはり由美の姿は見当たらなかった。

 その時、上空から由美の声が響き渡った。


「舞い散れ!! 疾風乱舞!!!」


 疾風丸の刃の周りには竜巻が出来、由美が疾風丸を振り下ろすと、一瞬にして風の刃と化し密迹の体を斬りつけていく。

 密迹の体を無数の風の刃が襲い、その度に血飛沫が舞い上がった。

 だが、その攻撃を密迹は耐え凌いだ。


「フ…フハハハハハッ。耐え凌いだぞ。お前の最後の攻撃を……」


 密迹の足元は自分の血で真っ赤に染まっていた。

 地面に着地した由美は、足が縺れて倒れた。

 ゆっくりと、由美に近づこうとする密迹の背後で一人の男の声が響いた。

 それは、神谷の声だった。


「どこに行くつもりだ?」

「――お前は!?」


 驚きを隠せないと言う表情で振り返り神谷を見た。

 確かに神谷は地面に叩き付けたはずだ。

 あの高さから地面に叩きつけられて、生きていられる人間がいるのか?

 そう言う疑問を持ちながら神谷をマジマジと見ていた。

 ゆっくり、タバコを銜えると、火虎神から火を出して、タバコに火を点けた。


「仲間を傷つけた罪は重いぞ」


 神谷はそう言って密迹を睨み付けた。


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