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激闘戦鬼  作者: 閃天
35/61

第三十四章 黒フードとの戦い&森の中で……

 足元に倒れる岩柳の死体を黒フードは見た。

 そして、ゆっくり足を上げるとそのまま顔を踏みつけた。

 岩柳の頭蓋骨の砕ける音が響き、それと同時にその顔からは真っ赤な血があふれ出てきた。


「――ウウッ……」


 その光景を目にした正気に戻った昴と神宮寺は、吐き気を覚えると同時に、奴に対する恐怖を覚えた。

 体は硬直し、全く動かなかった。

 そんな二人の方を見て、黒フードの少年は笑みを浮かべていた。


「岩柳と言う男……。全く役に立たない」


 独り言の様にそう言いながら、ゆっくりと二人の方に歩み寄っていた。

 武器を構えようとするが、全く体が言う事をきかない。



 風で吹き飛んだ天地は、ようやく瓦礫から這い出た。

 そして、五龍神を構えて、先程まで黒フードがいた所を見た。

 すでにそこには、黒フードの姿は無い。

 あるのは無残に顔を潰された岩柳の死体だけだ。


「あれ? 奴…は?」


 そう言ってその先に目をやると、黒フードの少年がいた。

 しかも、昴が襲われそうになっていた。

 天地はすぐに走り出した。



「先程の突風は見事でしたよ」


 笑みを浮かべながら黒フードの少年はそう呟く。

 黒フードの少年はゆっくりと、昴に向って右腕を伸ばした。

 その刹那、上空から何やら大きな物が、物凄い勢いで黒フードの少年の伸ばした右腕目掛けて落下してきた。


「――!?」

「キャッ!?」


 それは、岩柳のハンマーだった。

 ハンマーは黒フードの少年の右腕を引き千切り地面にめり込んだ。

 血飛沫が上がり、苦痛に黒フードの少年が顔を歪めた。

 左手で血を止めようとするが、血は止まらなかった。

 昴はその黒フードの少年と、目が合った。

 その目には憎しみ・悲しみ、そして、怒りが宿っていた。


「――僕は、こんな所では死ねない……」


 そう言った直後、天地の声が背後から迫ってきた。


「ダアアアァァァッ!!」

「クッ!」


 背後から振り下ろされた五龍神を避けて、天地を睨んだ。

 ゆっくりと、天地は五龍神を構えなおす。

 静かに風が二人の間を吹き抜ける。

 その刹那、黒フードの少年は波の荒い海に飛び込んだ。


「!?」


 驚きながら天地は海を見た。

 蒼い海は黒フードの血で少し赤くなっている所があった。

 しかし、天地はわかっていた。

 奴がこの程度で死ぬわけが無いと。

 五龍神を鞘にしまい、昴に駆け寄った。


「大丈夫か?」

「……」


 放心状態の昴は何の反応も示さなかった。

 天地は昴の顔の前で軽く手を振ってみるが、やはり反応はない。


「おーい。昴、しっかりしろー」


 天地はそう言いながら昴の肩を揺すっていた。

 昴はようやく気付いた。


「エッ!? な、何?」

「大丈夫か? アチコチ血だらけだが……」

「う、うん。服はボロボロになったけど、全然平気」


 そう言って笑う昴の顔を見て、五龍神を鞘から抜いた。

 驚き後ろに仰け反る昴に向って、五龍神の刃先を向けた。


「動くなよ。昴……」


 そう言って天地は心を静め力を五龍神に集中した。

 五龍神の刃の龍の刻印が蒼く光りを放った。


「目覚めよ! 水龍神」


 五龍神は水龍神に変わった。刃が水の膜に覆われている。

 更に天地は力を集中した。


「傷を癒せ。清水泡せいすいほう


 刃を包んだ水の膜は、緩やかな波を放ちながら、ゆっくりと刃から離れて行き、昴の体を包み込んだ。


「な…何?」

「俺が、修行中に覚えた回復術みたいなものかな?」

「へ〜ッ……」


 昴の体を包む水は、傷口に触れると気泡を出していた。

 そして、十分くらいすると、昴を包んでいた水は弾け、傷は消えていた。


「すご〜い。全然痛くない」

「それは良かった。神宮寺さんは怪我してないですよね?」


 微笑みながら木の傍に倒れている神宮寺に天地は言った。

 不満そうな顔をしながら神宮寺は答えた。


「なんかさ、私と昴とで、扱いが変わりすぎじゃない?」

「そうかな?」

「絶対そうよ。何、二人とも付き合ってるわけ?」


 疑いの目で天地と昴を見る神宮寺。

 その言葉を聞いた瞬間、天地は腹を抱えて笑い出した。

 何がおかしいのか、分からない神宮寺はキョトンとしていた。

 もちろん、昴もキョトンとしていた。

 そして、なぜか恥ずかしくなった。


「な、何がおかしいのよ」

「だってさ。俺が、こんな暴力女――!?」


 その瞬間、鈍い音が響いた。

 天地の視界は一瞬にして真っ暗になる。

 瞼が閉じたのだろう。

 地面に崩れ落ちた天地の体は暫くピクピクしていた。

 目の前の光景に、ただただ呆れる神宮寺だった。



 そんな中、森の中を彷徨う神谷達は――。

 やはり、森の中を迷っていた。


「なぁ、本当に道わかってんのか?」

「う〜ん。おかしいな……」


 タバコの煙を口から吐きながら神谷はそう呟いた。

 その声が、聞こえたのか、魁人と由美は同時にため息を吐いた。

 流石に皆歩き疲れて、言葉を失いつつあった。

 かれこれ、2・3時間は歩き通している。


「神谷さん……。また、同じ所ですよ……」

「みたいだな」

「みたいだなじゃ無いですよ……。これで、ここ通るの10回目ですよ」

「みたいだな」

「わかってるんですか? この森入ってまだ、オウガにすら会ってないんですよ」

「みたいだな」

「みたいだなって、ちょっと、聞いてるんですか?」


 少し怒りのこもった魁人の言葉に、ゆっくりと足を止める神谷。

 それにつられて、魁人・由美・国道・黒川の順に足を止める。

 暫し、沈黙が続く。

 風が木々を揺らし、ざわめかす。

 そんな中、口を開いたのは神谷だった。


「よし、今日はここで休もう」

「――なっ!?」


 のんきな口調でそう言った神谷に、流石に四人は驚いた。

と、同時に深いため息を吐いた。

 呆れて何も言えなかった。

 黙々と野宿の準備をする神谷に対し、あんまり乗り気じゃない魁人・由美・国道・黒川の四人。

 魁人と由美は何も言わずに、枯れ枝を集めていた。

 暫くして、魁人は由美の方を見て声を掛けた。


「天地君達、大丈夫かな?」

「大丈夫……だと思う……」


 静かにそう言って由美はゆっくり立ち上がった。

 魁人はその由美の後姿を見ていた。

 暫くして、二人の所に神谷がやって来た。


「おう。二人でイチャついてるのか?」


 タバコを銜えながら神谷が笑っている。

 そんな神谷の口からタバコが落ちた。

 火の粉がシャツに点いた。


「ウオッ! ややや、やばい!!」


 慌てながら神谷は服に点いた火の粉を払っている。

 魁人と由美は変な物を見る目で神谷を見ていた。

 そんな神谷の足元のタバコが目についた魁人は、神谷に聞こえる程度の声で言った。


「神谷さーん。タバコの吸殻はちゃんと拾ってくださいよ」


 それに対し神谷は、慌てふためきながら返事を返した。


「お前、俺のシャツとここの自然どっちが大切なんだ」

「当然、ここの自然です」


 魁人は当然の様に即答した。


「即答か! お前、少しは俺の事も心配しろよ」

「何言ってるんですか。シャツは買えばいいですけど、自然は買えないんですよ」

「お前は、いつからそんなに冷たい人間になったんだ……」


 泣き真似をしながら神谷はそう言ったが、魁人は完全にそれを無視して枯れ枝を拾い集めていた。

 その光景を見ながら由美は小さな声で笑っている。

 由美に笑われ神谷は、恥ずかしくなり顔を真っ赤に染めた。


「おい! 魁人、何か突っ込みを入れたっていいだろ!」

「イヤですよ。そんな事したら、僕まで笑われちゃうじゃないですか」

「な、何だと! 師匠は笑われてもいいって言うのか!」

「えぇ。自業自得ですから」


 冷静にそう言いながら魁人は神谷の方を見て微笑んだ。

 深いため息を吐き、神谷は地面に落ちたタバコの吸殻を拾った。

 そして、ポケットから新しいタバコを出して口に銜えた。

 ライターでタバコに火を点ける神谷に、由美が言った。


「タバコ……体に悪い……です」

「んっ?」


 ライターをしまい神谷は由美の方を見た。

 由美は軽く微笑みながら言った。


「タバコは……体に悪いんです……」

「何だ。俺の事を心配してくれるのか。由美は、何て優しいんだ」


 嬉しそうにそう叫びながら、神谷は由美に抱きつこうとした。

 そんな神谷に気付いたのか、魁人は神谷に背を向けながら言った。


「神谷さん。そんな事したら、天地に報告しますよ」

「ウッ……。別に俺は何もしてないぞ」

「……?」


 不思議そうに首を傾げる由美の前で、神谷がそう言って苦笑いを浮かべている。

 魁人は伸びをすると、由美の方を見て言った。


「由美さん。気をつけた方がいいよ。神谷さん、何するかわからないから」

「――どういうこと?」


 少し間があって由美がそう言った。

 神谷は焦りつつも笑いながら答えた。


「べべべ、別に何でもないんだよ。気にする事はない」

「――?」


 軽く首を傾げる由美。

 神谷は早足で魁人の傍に移動する。


「魁人! 変な事を言うもんじゃないぞ」

「――プッ、冗談ですよ。いつも神谷さんが言ってるじゃないですか」


 笑いを噴出しながら魁人はそう言って神谷の顔を指差した。

 唖然とした顔をしていた神谷だったが、徐々に顔が赤く染まり大声で怒鳴った。


「魁人! 大人をからかうとは」

「エーッ! ちょ、ちょっと、待って下さいよ! 軽い冗談じゃないですか!」

「問答無用! 天誅だ」


 その声と同時に驚きの隠せない顔をしながら魁人は、走り出した。

 顔を鬼の様にしながら、神谷が魁人を追いかけていく。

 由美はそれを見ながらクスクスと笑っていた。

 結局、数分も経たない内に魁人は神谷に捕まり、頭を何度か小突かれた。



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