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激闘戦鬼  作者: 閃天
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第三十三章 裏切りと怒り

 風は治まり、風の刃に切り裂かれた怒のオウガは消え去り、その後ろに聳え立っていた森の木々が、無残に切り倒されていた。

 風龍神から放たれた風の威力に、三上も神宮寺も驚きその場を動く事が出来ないでいた。

 もちろん、それを放った天地でさえ驚きを隠せないでいた。


「ハ…ハハハ……」


 天地が笑っていると、伏せていた昴が目の前にいた。

 先程の風で髪はボサボサになっていて、ぬかるんだ地面に伏せたせいで服が汚れていた。

 嫌な予感がした。

 背筋におぞましい殺気を感じ、天地は後退りした。


「て〜〜ん〜〜ち〜〜」

「エッ……。ちょ…ちょっと、待て……」

「問答無用」

「ギャーーーーーッ」


 天地の悲鳴と昴の鉄拳の鈍い音が辺りに響き渡った。

 その悲鳴と音を聞きながら、三上と神宮寺は体を休めていた。


「彼にとっては、オウガより彼女の方がよっぽど鬼ね」

「そうみたいだね。あの鉄拳は、重くて体中に響くからね」

「ふ〜ん。あんたも気をつけないと、彼の様になるわよ」


 微笑みながらそう言った神宮寺だったが、三上からの返事は無かった。

 不思議に思った神宮寺が、横に座っている三上を見た。

 静かに寝息をたてながら三上は眠りについていた。


「どこでも寝るな……こいつ」


 そう呟いて神宮寺はため息を漏らした。

 暫く続いていた昴の鈍い鉄拳の音がおさまり、手を二回叩いて神宮寺と三上の所に昴がやって来た。

 その横にはボコボコの顔の天地がいた。

 天地の顔は、昴に殴られすぎて誰なのかわからなかった。


「そ…そいつ、本当に天地かい?」

「ンッ?」


 神宮寺は少し声を震わせながら、昴の横に立つ天地を指差していた。

 不思議そうに首を傾げながら、天地の方を見て昴は笑いながら答えた。


「そうだけど、それがどうかしたの?」

「い…いや……。何でもないわ」


 苦笑いしながらそう答えた神宮寺に、昴が訊いた。


「それより、岩柳さんは?」

「さぁ? 私に聞かないで」

「じゃあ、誰に聞けばいいの?」

「さぁ? 知らないわよ」


 顔中腫れ上がった天地の視界は狭かったが、その狭い視界に背丈の高い男と黒いフードを被った少年が見えた。

 男の横に巨大なハンマーがある事で、男が岩柳であると察知した天地は、二人に知らせようと言葉を発したが、全く言葉になっていなかった。


「ぼい! がんでゅうがいだぞ」(おい! 岩柳がいたぞ)

「うるさいわね。天地は黙ってなさいよ」

「でぼ!?」(でも!?)


 全く天地の言葉は伝わらず、その代わりに天地の腹に昴の鉄拳が入った。

 言葉を発することなく天地はその場に倒れこんだ。


「全く、こっちは話をしてるのに……」

「何か伝えようとしてたんじゃない?」

「それなら、ちゃんと喋りますよ」

(エーーーーッ。ちゃんと喋れなくしたのは、あなたじゃないの〜)


 唖然としながら目線を逸らした。

 その瞬間、岩柳と少年が仁王立ちしてるのが見えた。

 岩柳と少年が笑みを浮かべた。

 それを、見た瞬間、背筋がゾッとして恐怖に震えた。

 ゆっくりと岩柳は巨大なハンマーを持ち、殺気に満ちた目で二人を睨みつけていた。


「来るわよ!」

「来るって? 誰が」

「いいから、武器を構えて!」


 2本のナイフを手に取ると、立ち上がり岩柳の方を睨んだ。

 岩柳がハンマーを構えているのを見て、昴もようやく状況を理解した。

 風鳥神を出し、風の矢を岩柳に向けた。


「何!? 裏切り?」

「さぁ? どうかしら?」

「まずいよね」

「そうね。天地は戦闘不能だし(昴のせいで)、三上は寝ちゃってるし……」


 遠距離タイプの二人は岩柳と少年を睨んだまま動こうとしなかった。

 黒フードを被った少年の方は余裕の笑みを浮かべている。

 

「岩柳。君の力を見せてもらおうかな?」

「ああ、わかっているさ」

「それじゃあ。僕はここから見てるよ」

「参る!」


 そう叫び、岩柳がハンマーを構えて昴と神宮寺に向って突っ込んでくる。

 左足をゆっくりと引き、風の矢を力一杯引く。

 だが、矢を放つ事が出来ないでいた。

 ハンマーを構えた岩柳は、勢いを緩めず迫ってくる。


「チッ」


 昴の横で舌打ちが聞こえた。

 その瞬間に、岩柳が動きを止めて後方に跳んだ。

 足元には神宮寺が投げたナイフが突き刺さっていた。


「昴! 迷ってる場合じゃないわよ!」

「でも、岩柳さんは人間で……」

「関係ない。人間でも、オウガに寝返ったなら……」


 ナイフを取り出し、神宮寺は岩柳を睨む。

 そんな神宮寺の横で、昴が叫んだ。


「岩柳さん! なぜ、オウガに寝返ったんですか!」


 それを、聞いた途端に岩柳が笑い出した。


「フハハハハッ!! 悪いが寝返ったんじゃない。元々、オウガの仲間だったのだよ」

「!?」


 驚きを隠せなかった。

 船の上で仲間が殺され、悔しそうにしていたのは全部嘘だったのだ。


「それじゃあ、私達は、あなたにここに誘い込まれたと言う事ね」

「そう言う事だ!」


 ハンマーを構え直し、岩柳は二人に向ってきた。

 その瞬間、突風が吹き荒れた。

 突風は昴を中心にして吹き荒れていた。

 昴の横にいた神宮寺は、吹き飛ばされそうになっていた。

 突風で体勢を崩した岩柳は動きを止めた。


「な…なんだ……」


 突風に耐えながら岩柳がそう言った。

 その声が聞こえたのか、黒フードの少年が答えた。


「どうやら、怒りに触れた様だね」

「怒りに? 誰のだ?」

「誰のって、彼女自身と……。風鳥神のだよ」


 黒フードの男はそう言って、面白い物が見れそうだと言う目をしている。

 木の葉が突風の中を舞っている。

 ゆっくりと昴が動き出した。

 風鳥神に構えられた風の矢は、更に鋭く大きくなっていた。


「くっ! 武器に意思などある筈が無い!!」


 ハンマーを構え、突風に守られる昴に向かっていた。


「潰れろ!」


 そう叫んでハンマーを勢いよく振り下ろした。

 ハンマーは昴の目の前で止まっている。

 風に押し返されているのだ。

 突風の流れを遮るハンマーには、凄まじい勢いの風を横から浴びていた。

 ハンマーを持つ岩柳の手は、その風の勢いに耐え切れなくなり、ついにハンマーを手放した。

 その瞬間、ハンマーは軽々と吹き飛ばされた。

 そして、見えなくなった。

 唖然とする岩柳の顔に向って、昴は風鳥神を構えた。


「あなたの負けです。早々に立ち去りなさい」


 声は昴のだが、口調が昴っぽくなかった。

 それを、離れて見ている黒フードの少年は感心していた。


(あれが、暴走という奴ですか……。

 しかし、おかしいですね。聞いた話ではもっと荒々しいと……)


 その時、岩柳が大声で笑い出した。

 その大きな笑い声で、天地は目を覚ました。

 目を覚ました天地はまず、目の前の光景に驚いた。

 何がどうやって、昴があんな風になっているのか。

 驚きながら昴の様子を見ていた天地は、黒フードの少年の事を思い出した。

 天地は五龍神を鞘から抜き、昴を囲む風の中に飛び込んだ。

 風に流され、天地は勢いよく吹き飛ばされた。


「借りるぞ」

「エッ!? て、天地!?」

「――嘘!?」


 神宮寺がそう言って、昴は天地が吹き飛ばされた事に気付いた。

 完全に気を取られた。

 その隙を岩柳が見逃すはずが無かった。

 一瞬で風の矢を右手掴むと、そのまま昴を持ち上げて地面に叩き付けた。

 地面は砕け円く陥没していた。



 一方の天地は、昴を取り囲む突風を利用して、一直線に黒フードに向っていた。


「ウオオオオオッ!!」


 天地は叫びながら、黒フードに向って五龍神を突き立てたまま突っ込んでいった。

 だが、黒フードは勢いよく飛んで来る天地を、ヒラリと避ける。


「エッ!?」


 その勢いは止まらず、そのまま目の前の大きな岩に激突した。

 爆音がし、岩は崩れ落ち、土煙が巻き起こった。


(結局何がしたかったの……)


 岩にぶつかっている天地を見ながら、神宮寺は心の中で呟いた。

 だが、すぐに目の前の昴と岩柳の方に目がいく。

 巨大な風の矢は、まだ岩柳が掴んでいた。

 風の影響か、ただでさえ軽い昴の体は簡単に持ち上がり、何度も地面に叩きつけられていた。

 その度に、地響きが起こり地面が砕けた。

 何度も地面に叩き付けられた昴の服はボロボロになり、アチコチから血が出ていた。

 体中に痛みが走り、頭から出た血は額を通り、頬または瞼の上を通り、口元を過ぎて顎から地面に雫となって落下する。

 昴を取り囲んでいた風は弱まり、今では何の役にも立っていない。


「ハハハハ――。死ね!! 死ねェ!!!」


 笑いながらそう言って、昴を地面に叩き付けた瞬間だった。

 叩き付けた筈の昴の体は、すっと地面に着地したのだ。

 そして、その瞬間に岩柳の右手が勢いよく胸に当たった。

 何が起こったか、わからないまま、岩柳の体は後方に吹き飛んだ。

 昴が大きな風の矢を放ったのだった。

 放った衝撃で昴も後方に吹き飛び、地面を転げながら倒れこんだ。

 岩柳の胸からは、血飛沫が舞い。

 風の矢は勢いをそのままに、岩柳の胸を貫いていった。

 後方に吹っ飛んでいる岩柳の体は、そのまま地面に落ち、2・3回バウンドし、地面を滑る様に引きずった。

 地面には岩柳の真っ赤な血の跡が残っていた。

 岩柳の体は丁度、黒フードの足元で動かなくなっていた。


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