第二章 寮の新たな入居者
学校も終わり、天地と裕二は寮に向って歩いていた。相変わらず、寮に向う道は人通りが無く静かだった。街灯もポツポツとしか立ってないため、夜になると滅多に人は通らない。
そんな通りは夕暮れも全く人の気配を感じなかった。
「あぁー!腹が立つ!!何だよあの女!!」
天地は人通りの無い事をいい事に、大声でそう怒鳴った。
その数歩後ろを苦笑いを浮かべながら裕二が歩いていた。
「まぁ、まぁ。そんなに怒るなって。」
その言葉を聞いた天地は立ち止まった。裕二もそれに釣られて立ち止まった。
裕二の方に振り返った天地は裕二を指差しながら怒鳴った。
「俺は助けてやったのに、邪魔するなとか、武器持って無いのに戦うなとか!」
「まぁ、武器も持たないでオウガと戦おうとする馬鹿はお前くらいだからな。」
「誰が馬鹿だよ!」
「それにさ。結局の所、彼女が居なかったらオウガ倒せなかったでしょ?」
そう言われた天地は口ごもり、裕二に背を向けて歩き始めた。図星だったのだろう。
裕二は歩きだした天地の後に続いた。
オウガにはいくつか種類がある。大まかに分けると三つの種類になる。
一つ目は『哀』
哀は悲しみから生まれるオウガ。力は無いがその分知識が発達している。
人を襲う時もハンターに気付かれぬ様に人目の付かない所で行う。
二つ目は『怒』
怒は怒りから生まれるオウガ。知識は無いがその分力が強く体格も大きい者が多い。
哀と違い力任せに人を襲うため、ハンターはすぐに見つける事が出来る。
三つ目は『憎』
憎は憎しみから生まれるオウガ。力と知識の両方をバランスよく兼ねそろえている。
三つの中で最も手強く、特殊な力を持った者が多い。
そうこうしている内に、天地と裕二の二人は寮についた。
寮の入り口に入ると管理人と一人の少女が立っていた。
少女は後ろ姿だったが、制服からして天地達と同じ学校だとわかった。
背丈は小さいが胸はふっくらとしていた。
天地と裕二に気付いた管理人は声をかけた。
「お帰りなさい。天地君、裕二君。」
「ただいま」
天地と裕二はほぼ同時にそう返し、階段を上がろうとしたが管理人に呼び止められた。
「そうそう。二人に紹介しておくね。彼女、今日からこの寮に暮らす事になる・・・・。」
「葉山 由美です・・・・」
由美はそう言って二人の方を振り返って頭を下げた。
その声に聞き覚えのあった天地は顔を上げた由美を見て声を上げた。
「お前!今朝の!!」
「ヘェ〜。彼女が今朝の。可愛いじゃないか」
「何言ってんだ!物凄く腹の立つ女だぞ!」
天地は裕二に向って怒鳴った。
耳を塞ぎながら裕二は笑っていた。天地をからかって楽しんでいるのだ。
実際、由美はとても可愛かった。
天地と裕二が二人で盛り上がっているので管理人は由美に聞いた。
「由美ちゃん、天地君と裕二君と知り合いだったの?」
その管理人の声が聞こえたのか、天地は管理人に向って叫んだ。
「そんな女、知り合いでも何でもねぇ!!」
「そうなの?」
天地にそう言われた管理人はそう言って由美の顔を見た。
「えぇ・・・・。知り合いじゃありません。あんなお邪魔ムシ・・・・」
そう言って由美は天地の顔をチラッと見た。
天地は怒りをあらわに由美に向っていこうとしたが、裕二に抑えられて動く事が出来ずにいた。
「だ!誰がお邪魔ムシだ!!この・・・・!?」
天地の頭を激しい痛みが襲い、それと同時に床に倒れた。頭を思いっきり殴られたのだろう。
殴られた痛みを我慢しながら天地は殴った奴をみた。
それは、一人の少女だった。由美と同じ制服でオレンジブラウンのショートカットの少女だった。身長は由美より少し高く、胸は少し小さかった。
「寮の入り口でワーワー騒がないで。」
彼女は天地に反論する暇を与えず、階段を駆け上って行った。
天地を抑えていた裕二は暫し呆然としながら階段を駆け上がる彼女の後姿を見送った。
天地は痛みを堪えながらゆっくり立ち上がり管理人の方を見た。
「アレ、誰ですか・・・・。」
「彼女は木下 歩美ちゃんよ。」
「でも、いつから入居したんですか?」
天地の後ろから裕二がそう聞いた。天地は裕二の声に驚き振り返った。
管理人は首を傾げながら言った。
「あら?朝、言わなかったかしら?朝早くに来たのよ、彼女。」
「聞いて無いですよ・・・・。」
管理人は微笑みながら天地と裕二の二人を見ていた。